概観 全体の構成
経済的物質代謝は社会的物質代謝の基礎過程である。
社会の運動によって社会的価値が定まり、社会的物質代謝が社会関係として 構成される。社会の物質代謝は社会の存在・運動の基礎である。社会の物質代 謝なしにすべての社会的存在・運動はない。文化まで含むすべてが社会的物質 を媒体とした存在・運動である。
自然の物質の運動から発展し、社会の運動によって価値づけられ、規定され る物質代謝が経済の運動過程としてある。経済的物質代謝は自然の物質代謝の 社会化された運動である。経済的物質代謝を媒体として社会的物質代謝が実現 している。
社会化された労働は、生産活動として経済活動である。社会化された労働の 生産との関係は、社会的物質代謝の経済的物質代謝との関係を明らかにする。 労働が社会的に組織され、労働の成果物が社会的に利用・交換され、さらには 社会関係を媒介する。
経済的物質代謝は生産と消費、生産と消費を媒介する流通からなる。生産は 自然過程から社会過程に物質を取込む過程である。消費は生産と相補関係にあ り、物質を自然の物質過程に還元することを最終に含む。経済の運動は物質代 謝過程そのものの運用、物質代謝過程そのものの維持のための過程を含む。
人間の社会内で物質は経済過程として運動し、同時に社会関係を実現する。
【生産と消費の相補関係】
生産そのものが消費の過程でもある。無から生産するのではなく、自然にあ る物、既に生産された物を消費することによって新たな物を生産する。すべて の生産は生産的消費によって実現される。
また、消費は生産によって実現される。再生産によって消費は継続され、社 会が存続し、人々が生活する。消費される物が再生産されなくては、消費も社 会的存在も存続しない。
【自然から社会へ】
生産はまず自然と社会の境界活動である。
生産は一次的には社会の自然への働きかけの活動であり、社会から外の自然 に向かっての活動である。
生産として人は自然物を選択、採取、抽出、運搬して社会に取込む。自然か ら社会へ物質を輸送する。
生産は自然の存在を社会関係の内に関係づける。自然の存在は社会関係の内 に取り込まれる。社会関係に取り込まれる自然の範囲と質は社会発展と共に拡 大する。
生産物は人間化された、社会化された物質、社会的物質である。
【社会から自然へ】
社会的物質は消費され、廃棄される。消費・廃棄された物質は自然の物質代 謝過程で自然物に還元される。自然の過程に還元されなければ、社会的物質代 謝の物質的平衡が維持できなくなり破綻する。
自然と社会の物質収支は自然の過程を基礎としており、自然法則が貫かれて いる。自然法則はすべての存在にとって無視することも、曲げることもできな い。
【社会内での生産】
自然物は社会関係に取り込まれただけでは消費することはできない。
生産物は社会内で加工、貯蔵、交換される。生産によって、生産として、社 会は実現されている。社会的物質代謝は自然物を媒体として、ヒトを含む自然 物質の運動を媒介して実現される。社会的物質代謝は自然と社会との境界領域 だけの活動ではない。生産は構成員を含む社会を維持する運動であり、社会自 体の活動でもある。
【消費のための生産】
生産は本来消費を目的におこなわれる。生産は消費財の生産を目的にしてい る。生産された価値は消費によって実現する。生産は生産物を社会の中に送り 出すだけでは、その価値を実現できない。さらに消費によって継続する生産の 過程が維持される。再生産は生産と消費の過程の循環としてある。生産は最終 消費にまで継続する過程である。
注100
これまで、サービスは費用=コストの問題として生産とは別に考えられてき た。しかし経済過程を社会的物質代謝としてとらえ、消費過程が物質代謝に重 要な影響を与えるようになった今日、サービスも生産と切り離して扱うことは できない。
【生産のための消費】
生産は新しい物を作る過程で、既存の物を消費する。生産に消費される生産 手段等の生産がある。原材料と、燃料等のエネルギーが無くては生産はできな い。道具、機械、設備、施設がなくては生産はできない。さらに物流のための 輸送手段、廃棄物処理の施設が無くては生産はできない。
消費財の生産のためには、生産のための生産が必要である。経済の発達は生 産のための生産によって加速度的に増大してきている。
【再生産の保証】
どのような社会であれ、生産が継続されなくては社会は存在できず、人間自 体も生存できない。生産されたものがすべて消費されてしまっては、生産は継 続できない。すべてでなくとも、少なくとも生産手段が維持・更新されなくて は生産を継続することはできない。生産は消費のためだけではなく、生産の継 続のための生産を必要とする。生産は再生産を保証しなくてはならない。
さらに、天候、災害に対して、人口増に対して生産が拡大されなくては社会 は安定しない。古い技術を更新し、新しい生産を実現しなくては科学も進歩し ない。人間社会は拡大再生産を必要としている。
また、生産力が地球環境を直接変化させるまでに増大したなら、再生産はそ の生産関係だけではなく、自然環境を含めて再生産の条件を維持し、作り出さ なくてはならない。自然破壊は一時的に生産力を急速に高めるが、やがて生産 そのものを不可能にしてしまう。自然資源を浪費し、破壊してしまっては再生 産はできない。自然保護は心の問題にとどまらない。
同じく生産にとって人材も不可欠である。生産関係にとっては人的資源であ るが、労働力の担い手である人間の生活、人格が保全されなくてはならない。 人間が希望を持って生活できる社会環境なくして、再生産は維持できなくなる。
生産は社会の物質代謝を担うことで、社会の有用度として価値を作り出す。 生産は社会的価値の生産である。
【使用価値の実現】
物は存在するだけで価値があるのではない。使われるからその使用価値が実 現される。社会的に有用であるから社会に取り込まれ、生産される。
使用価値は個別的で普遍的ではない。代替されることはあるが、交換される ことはない。個々の存在に備わった価値である。個々の物質存在の性質が、社 会的に利用されることで使用価値として実現される。
使用価値は形態を直接的に変えることができる。加工生産は使用価値の形態 の変更である。そのままでは利用できない性質を、利用可能な形態に変更する ことで使用価値が実現する。
使用価値を実現する労働も個別的である。対象を個別的に変形、変質させる 具体的労働によって使用価値は実現される。使用価値の実現に、どれほどの労 働が費やされたかは問題にならない。作り出された結果としての有用性が使用 価値を規定する。
【社会的価値の源泉】
社会的有用性は社会的価値ではない。社会的有用性の比較関係として社会的 価値が定まる。
生産は価値創造の過程である。
生産は人の労働能力、変革能力の実現の場である。労働能力の実現として、 人間価値の創出の場である。生産は人の労働能力を訓練、向上させる場であり、 人そのものをつくる場でもある。外に対し物を作り出し、内に対して価値を作 り出し、自らに人を作り出す。生産的労働は人間の自己実現である。
労働によって作られる人間価値の社会的評価の体系が、社会的価値の体系に なる。労働は社会的価値生産活動になる。労働は物の生産と、価値の生産を一 体のものとして実現する。
【価値の生産】
自給自足は社会関係ではない。しかし、衣食住に必要な仕事に自分の労働を 割り振らなくては、生活を維持できない。
生産と消費が分離し、別々の社会的存在に担われることによって、生産は社 会的生産になる。生産と消費の分離は交換、流通によって媒介される。生産は 消費との分離、流通による媒介によって社会的生産になる。
社会的生産は社会の活動にとって有用であるから、社会関係に組み込まれる。 社会的有用性は価値として量られる。価値は社会的交換関係の中で比較され、 価格として表現される。社会的に交換可能なものは、その社会の中ですべて価 格によって表現され、交換されることが可能になる。
異なる有用性・使用価値を交換する比較基準は、それぞれに共通な普遍的価 値である。すべての生産に必要な普遍性は労働である。道具、機械等も労働に よって作られた。また共同労働は、共に働くことによって統一される。分業と 協業は労働の分担である。社会的物質代謝は人間による、人間のための生活過 程としてあり、それぞれの労働を担当することで実現している。この普遍的な 労働の価値によって社会的物質の価値は量られる。生産に必要な労働の価値に よって生産物の価値は表現され、比較される。
労働は働く人個人にとっても、社会にとっても、生活を維持するための活動 であり、再生産を可能にするための活動である。さらに人の生活を安定させ、 向上させる活動であり、社会を安定させ、発達させる活動である。
労働は社会的物質代謝の実際のにない手である。機械化がいかに進もうと、 人間の労働なくして社会の物質代謝は維持されない。自然と人間との間に機械 がどんなに入り込もうと、自然と人間との間、そして人間と人間の間は人間が 制御しなくてはならない。
【価値の転移】
生産は価値を転移する過程でもある。
原材料・補助材料の価値はそのまま生産物に転移される。(補助材料=エネ ルギー媒体) 生産手段の価値はその生産手段によって生産される生産物全体に転移される。 一定の生産手段によってより大量の生産が行われれば、生産物単位あたりに転 移される生産手段の価値は小さくなる。逆により少量の生産であれば、生産物 単位あたりに転移される生産手段の価値は大きくなる。
原料、生産手段の価値は生産物に転移し、回収されなくては生産を継続する ことはできない。原料、生産手段の価値は、生産によって増えも減りもしない。
【社会的必要労働】
社会的価値は労働の量によって量られる。労働の量を量る基準は、その生産 物を生産する社会の平均的労働の質によって決まる。
社会の物質代謝には地域的、歴史的に必要な物質の種類と量がある。その社 会の技術水準、生産環境によって物を作るのに必要な労働量が決まる。社会が 必要とする生産物の種類と量を作るための労働の量が決まる。それぞれの生産 物単位あたりの必要労働量が決まる。
【生産的労働】
生産的労働は商品を形作る労働だけに限定されない。生産的労働であるかど うかの基準は、社会的物質代謝を実現する活動であるかどうかである。
商品を作る労働であっても、欠陥品を作る労働は生産的ではない。物を運ぶ 労働であっても工場の内外での区別はなく、生産から消費までの生産物価値の 生産と移転に不可欠な労働である。営業労働としての接待は社会的物質代謝を 直接実現するものでなく、非生産的労働であり、むしろ退廃的活動である。営 業労働であっても供給と需要の情報を結びつけ、調整する活動は社会的物質代 謝に直接的に必要である。また公務は政治的支配機構としてだけではなく、産 業基盤の整備、社会環境の整備、教育・研究、福祉等としてその範囲を拡大し ている。公務労働にあっても基本的に生産的な部分もある。さらに、企業経営 ・企画・調整も社会的物質代謝の運営、運用としては生産的労働でありうる。
【等価交換】
価値の比較は社会的基準によっておこなわれる。交換は社会的価値基準によ っておこなわれる。交換は等価の場合に成立する。互いに相手が必要とする物 どうしを、等価で交換する。使用価値の異なる物を、等価値で交換する。等価 を量る基準は社会的な交換価値である。社会的な普遍的な価値である労働量が、 交換の際の価値基準になる。価値が同じで、互いの有用性に違いがあるから交 換される。
等価交換によって再生産が保証される。等価交換ができなければ、再生産の ための労働力、原材料、生産手段を確保することができない。社会の運動が維 持されるには、社会の価値基準が守られなくてはならない。
注101
【労働と労働力の価値】
労働の価値は生産物に転移する。しかし労働を実現する労働力の価値と労働 の価値は一致しない。
労働力は働く能力であり、再生産が必要である。再生産のために回収される 価値が労働力の価値である。労働力の再生産は、その社会で生活していくに必 要な価値であり、労働に必要な技能を獲得するための価値であり、次の世代を 育てるための価値である。労働力の価値が保証されなくては、生産も維持され ない。労働力の価値はその属する社会によって決まる。
労働力は労働する能力であって、実現される労働の量を直接的に決めない。 労働時間、労働強度によって一定の労働力が実現する労働は異なる。労働の量 は労働時間、労働強度によって決まる。
【社会的平均労働】
労働の質の平均は、生産物の交換を通して実現される。流通によって労働の 質は平均化される。労働が平均化されるのではない。偏差がある労働の質は流 通によって量られ、平均基準を示す。平均基準によって個別の労働の質の偏差 が量られる。
労働の価値は流通の範囲、平均化に含まれる労働の範囲としての地域社会で の基準になる。社会活動が範囲を拡大し、他の社会との交換が始まれば、それ ぞれの社会の価値基準の差によって価値基準は大きく変動する。しかしやがて 新たな平均化の過程で集束する。
また、新たな生産技術の発展によっても、価値基準は変動する。それも、新 たな生産技術の普及とともに平均化される。
最終的には世界を一つの社会に結びつけるまで、平均化は続く。しかし、個 々の要因による平均化の過程が完了する前に、新たな価値基準の変動が生じる のが実際の社会である。
【生産力の源泉】
生産力の源泉は労働力である。人間労働によって食料を初めとする生活資料、 道具、機械、設備が作られる。人間労働によって道具、機械、設備が使われる。 人間労働によって生産、交通、消費、文化、社会活動が維持される。労働によ って社会的物質代謝は実現している。労働力が価値生産力である。
労働力が生産関係に位置づけられることによって生産力になる。労働力は生 産過程で生産力になる。労働力は生産過程で、生産関係に位置づけられて生産 力を実現する。
【生産力の基本】
生産力の基本は個人の労働能力である。
ヒトは筋力によって対象に働きかけることができる。対象を移動し、対象を 分け、合わせることができる。ヒトは対象を認識し、組み合わせを論理的に選 択し、実現することができる。
しかし、個人の労働能力には限界がある。肉体的、精神的能力の限界があり 時間的、空間的制約がある。個人は時間的に一生という絶対的制約がある。個 人は睡眠、食事といった時間を生理的に必要とし、どの様に切り詰めても生理 的必要時間をなくすことはできない。また、空間的に個人の働きかけえる範囲 には限界がある。
個人の生産力、労働能力は拡張することができる。道具、機械によって肉体 的限界を拡張することができる。情報システムによって精神的能力を拡張する ことができる。しかし、道具、機械、情報システムともに、社会的生産の裏付 けがなくてはならない。社会的生産の中にあって個人の生産力を拡張すること が可能になる。
【技術的生産力】
訓練によって労働能力を拡張することができる。筋力、柔軟性、速度といっ た運動能力に基づく労働能力も、感覚、知識、論理といった精神的能力も訓練 が可能である。 注102
しかし、訓練によって拡張できるのは属人的能力である。
人間は属人的能力にとどまらず、普遍的な能力拡張を道具によって実現した。 道具を作る道具である工具は、人間の肉体的機能の直接的延長を超える。機械 は人間の肉体から完全に独立し、人間の肉体と代替しえる。オートメーション は生産工程全体の機械化である。人間は人間の労働能力の範囲を延長し、縮小 し、労働対象までも拡張する。
人間は労働に利用する力を拡張し、多様なエネルギー利用を可能にした。火 の利用は暖をとり、動物と戦う武器にとどまらず、生産のためにエネルギーと して利用される。家畜は食糧、衣料等としてだけでなく、エネルギー源として も利用される。水流、風もエネルギーとして利用される。電気は多様なエネル ギー源を社会的、経済的運動の普遍的エネルギー媒体として利用される。
社会、経済の運動を反映する情報は言語として、やがて記号から文字として 使われる。手紙、電話、ファックスとして発達した通信は、コンピューターに よって一元的に処理され、社会の普遍的情報処理・通信となる。コンピュータ を中心とする情報機器は記憶、照合、検索、計算、通信といった知的能力を拡 張する。
【組織的生産力】
個人労働を組織化することによっても、生産力は高まる。共同は個人の労働 能力を加算するだけではない。
作業を連続させることによって、無駄をなくすことができる。
注103
作業を並列することによって、処理速度を速めることができる。個々の作業 時間は短縮されなくとも、全体の時間が短縮される。あるいは期限のある大量 作業を行うことができる。
作業を組み合わせることによって、複数の相互関係を制御することができる。 複数の作用点を同時に運動させるには、共同作業が不可欠である。
注104
【社会的生産力】
生産基盤を整えることによって、社会的に生産力を高めることができる。物 流、通信基盤の整備といった物理的生産基盤にとどまらない。基準、規格は指 の長さ、手の長さ等によって自然に決まるが、社会的に制度化されることによ って互換性が保証される。社会制度的生産基盤が文明として、生産力を支えて きた。
科学・技術力とその普及も生産力を高める。科学・技術そのものだけではな く、研究・開発環境の整備、人材育成の教育が社会的生産力を支える。
生産の管理・運用能力としての組織力も生産力を高め、生産力の高め方を高 める。
労働は人間の活動であり、意識の作用は労働に大きく影響する。労働が自己 実現の過程として意識できるかどうか、生活に希望が持てるかどうかは社会的 環境によっている。人間の生活の場として社会が整備されることも、社会的生 産力を高める基礎である。
【対象化される生産力】
生産の歴史は道具をつくり、道具自体を個々人の経験の集積として発達させ た。また、目的に合わせ、道具を社会的に標準化した。転用可能な道具は、普 遍的な道具として生活を基本的に支える社会的必需品となる。道具は肉体的能 力を拡張し、精神的能力を訓練した。
労働対象の他との関係と労働対象の性質から、労働対象の変化の可能性を明 らかにし、対象変革の目標を明らかにする。労働対象と目標の関係を明らかに する能力により、目的物を対象化し、労働によって実現する。道具は労働対象 を理解することによって作られる。労働の目的物が道具によって対象化され、 対象の範囲が拡張される。道具は対象化された生産力である。
道具の作り方、道具の使い方、道具の改良の仕方は個人間、世代間で伝承さ れ、教育される。道具は量的、質的に蓄積、集積され社会的生産力を高める。 道具を用いた直接的生産と共に、道具をつくる生産を発達させる。
道具作りの、道具の使い方の伝承は共同作業を通して分業・協業を発達させ る。道具の発達は道具を使う個々の作業過程を客観化し、規格化する。道具は 道具どうし組み合わされ、自然の力を動力として利用する機械へと発達する。 道具と機械の利用による生産は飛躍的に発達する。個々人の肉体的限界をはる かに超えて生産力を高める。
【労働生産性】
生産力の向上は生産価値の増大ではない。労働の単位あたりの生産物の量は 増え、使用価値は増大するが、生産される社会的価値は同じである。単位生産 物あたりに実現される価値は減る。
生産力は生産者によって担われ、生産者によって改善され、生産者によって 発展される。生産力の発達は生産量と品質を向上させる。生産力の発達は生産 力そのものの再生産に必要な労働量を減少させる。
生産性は労働力あたりの生産量である。投下費用あたりの生産量ではない。
経済的物質代謝は社会関係の基礎であり、人間関係を基本的に規定する。人 間は労働によって生活手段をえる。労働は経済的社会の運動を担うことである。 経済活動を担う人間の関係として生産関係がある。人々は生きるたまに、生活 するために社会的経済関係での地位を獲得しなくてはならない。
【生産関係】
労働対象、労働手段に媒介された人間の関係が生産関係である。労働力が労 働対象、労働手段と結びつき、生産力として機能する関係が生産関係である。 労働力の生産力への転化形態が生産関係である。労働の対象である原材料、労 働の手段である道具、機械、設備、エネルギー等を用いて、社会的有用物を生 産する労働力の社会的関係ができる。労働対象、労働手段、労働力の社会的な 配置が生産関係である。
現象形態の転化の過程を貫き、経済=社会的物質代謝をひとつの運動として 実現しているのは社会的価値である。その価値の転化形態が生産関係である。
生産関係は所有関係そのものではない。生産関係は、所有関係を規定し再生 産する。人々は社会的物質代謝のそれぞれの位置で社会の運動に加わる。生産 関係に応じて人々の社会関係、人間関係が規定される。生産関係によって人々 の社会価値の収得が決まり、社会的所有が決まる。
生産関係は具体的に労働形態として、人々の活動の仕方を規定する。社会的 物質代謝の個々の過程として労働形態があり、その全体の社会的関連として生 産関係がある。
【生産関係の発達】
直接的単純労働による共同が生産関係の原初的形態である。ヒトの生理的存 在関係が、原初の社会的生産関係の基礎である。
道具の利用により労働過程は最終的労働対象と直接しなくなる。道具は生産 者と最終的労働対象の関係を媒介し、空間的、時間的に隔てる。道具は生産手 段としての社会的価値をもつ。道具の製作が社会的価値を生産し、道具の相互 利用、道具の所有が人間関係を媒介する。
住居、倉庫、柵等の建築、給排水、廃棄物処理といった生活基盤整備は、社 会が拡大する物質的基礎である。生活基盤整備を実現するには、社会の生産関 係が意識的に調整される。配置・分配が政策化され、実施される。
機械は作業工程の分解と組み合わせによって作られる。分業と協業の発達と エネルギー利用が可能なまでに、社会的生産関係が組織され、普及されること で機械が発明される。機械の利用は継続的生産と大量生産としての生産様式を 実現する。機械の利用は生産手段の集中と集積をもたらす。
機械利用による継続的大量生産、生産の集中と蓄積により原材料、製品の流 通とエネルギー利用のための生産基盤整備が整備される。
複雑化し組織化する生産関係を反映し、これを制御する情報通信は、情報・ データを一元的に処理する情報ネットワークを形成する。情報ネットワークは 通信線だけではなく情報を蓄積し、体系化し、提供する拠点が重要である。
注106
生産関係の発達により社会関係が歴史的に変化する。生産関係の発達は人々 の関係を社会化し、人間の社会との関係を変化させ、拡大する。
【労働形態】
社会的物質代謝を実現し、社会的物質代謝運動の構成単位である労働は、生 産関係に位置づけられて多様な現実形態をとる。生産関係によって規定される 労働として、労働形態が歴史的に発展する。
原初的労働は未分化である。直接的単純労働であり、疎外されていない、疎 外されようのない労働である。子供の頃経験する、物づくりとしての遊びと同 じであるが、生活、生きることが問われるところが違う。
道具等の労働手段が生産され、生産手段として社会的に蓄積されるようにな ると、直接的労働と間接的労働に分化する。直接に消費物資を作るのではなく、 将来の生産のための生産手段を作る間接的労働が分化する。労働の質が区別さ れる。共同労働が空間的労働の分化であったのに対し、生産手段生産労働は時 間的労働の分化である。
さらに、空間的、時間的に分化した労働を統一し、現実変革の力として作用 させる統御する労働が分化する。変革対象である自然を認識し、労働の組織と しての社会を認識し、これらを統御する論理を駆使する知的労働が分化する。 肉体労働と精神労働が分化する。
社会経済が発達すると、物を作るだけでは社会的物質代謝は実現されない。 直接的価値生産活動に対し、流通のための労働がそれ以上に必要になる。直接 的労働の複雑化、流通の複雑化に対し、それらを制御する労働がそれ以上に必 要になる。直接的価値生産労働の増加に対し、他の労働の増加は指数関数的に なる。相対的に直接的価値生産労働の割合は減少し、生産方法、生産技術の発 達によって絶対的にも直接的価値生産労働は減少する。
労働形態の発展は、労働の要素機能を相対的に独立した労働形態として分化 する。労働対象に応じて水平的に分化し、産業分野に応じた労働形態を分化す る。また労働組織に応じて垂直的に分化し、職制として分化する。
注107
労働形態の分化は所有関係とも密接する。生産手段の所有形態によって、労 働の成果を受け取る形態が異なる。労働形態の分化・発展の現実形態は、所有 関係も含めた社会関係における位置づけでもある。
注108
【生産関係での価値】
社会的物質代謝に不可欠な物質で、労働によってもたらされる物が、社会的 に価値評価される。価値評価される物が、経済の対象になる。
注109
価値は社会的価値として生産されるだけではなく、使用価値として消費され なくては実現されない。同時に社会的価値として再生産の過程に復帰しなくて は価値は継承されない。生産関係では、使用価値の実現よりも、再生産を実現 するための価値の循環と蓄積が重要である。
価値は生産過程だけでは実現しない。価値実現の過程である消費過程と生産 過程を結ぶ流通過程が価値実現、価値循環には重要である。
注110
再生産を実現する環境整備も、再生産の条件としてますます重要になってい る。消費によって環境破壊が進んでしまっては再生産が阻害される。消費によ る自然破壊、物質循環破壊を補償することも、生産によって解決されなくては ならない。
無駄をなくすことは、生産された価値の低下を防ぐと言う消極的活動もある。 無駄をなくす労働も、生産労働によって生産された価値を実現する労働として 社会的価値が認められる。新たな社会的有用性を実現、付加するものではない が、減少する価値を保存することで。当初の価値が消費されるまで維持される ことで、当初の生産価値に部分的に代替し、評価される。
基本的に最終消費は社会的物質代謝の最後の過程、社会的物質の自然物質へ の還元過程である。最終消費は個人的であっても、社会的過程である。生産関 係が機能していくためには、物質循環過程をもふくめて統御されなくてはなら ない。
蛇足41
【生産関係の可能性】
物の生産能力の増大、生産物の質量ともの増大はその運用管理技術を発達さ せる。また、道具、機械自体にって生産、改良のための技術を発達させる。人 間の精神的能力が拡張される。認識、記録、演算、推論、検索、通信能力の拡 張がされる。これを実現するのが情報通信機器ある。
注111
【生産関係の歴史性】
生産関係は歴史的に発達する。生産関係は発展するのであって、変遷するの ではない。
生産関係は新しい関係を発展させるのであって、古い関係を部分的にとって 代わるが、全面的に入れ替わるのではない。古い生産形態は基本的形態として 残される。どのように発展した生産関係の中でも、単純直接的労働も、その他 の生産形態も包摂されて残る。
【生産力の生産関係規定】
生産力に応じて生産関係は規定される。社会の経済的運動は技術的、量的、 地域的に制約された生産・流通・消費の現実の運動として現れる。生産力の発 達の段階によって経済の運動形態は定まり、生産関係が規定される。
道具・機械はその技術的発達に応じて生産関係を変えるし、技術的に同じ水 準の道具が普及することによっても生産関係を変える。
それぞれに、それぞれの段階の内でも生産力の向上と生産関係の発展のより 小さな段階的発展があった。
労働対象の分析、作業分析、工程分析、情報分析と知的水準の発展によって 生産力は向上し、対応して生産関係も発展してきた。
【生産関係の生産力規定】
生産力によって基本的に規定される生産関係も逆に、生産力を規定する。
生産関係の拡大・普及は量的に生産力を高める。
生産関係の拡大・普及は生産実践の場を拡大し、科学技術の発達の契機とな る。生産関係の拡大・普及による科学技術の発達を介して、生産力を質的に高 める。
【所有関係】
道具や機械などの生産手段が蓄積されると、生産関係が所有関係として現れ る。生産関係によって所有関係が規定され、やがて生産関係が支配・所有され る。
奴隷制の時代には人間自体が生産手段として所有された。
労働対象、労働手段、労働力の所有関係は再生産される。労働は労働対象を 物質循環させる。労働は労働手段を更新する。労働力は労働力の担い手の生活 を保障し、世代交代を保障する。労働の過程は再生産を実現するが、再生産に よって生産関係は維持され、更新される。生産過程によって社会的価値は新た に生産されるが、生産関係は変わらずに、価値を蓄積し更新される。
所有関係は生産関係に応じて、社会的関係として固定化する。階級関係とし て社会階層をなし、社会的価値の支配関係を構成する。
生産物を媒介にして人間は社会的に結びついている。社会関係は所有関係に よって規定される。社会関係の評価は所有関係によって基準が定まる。社会的 価値は所有関係に基づく基準によって測られる。
【生産力と生産関係の矛盾】
生産関係は生産力の発展によって更新され、新たな生産力を普遍化する。し かし、生産関係が所有関係として社会的支配力になると生産力発展の桎梏にな る。
拡大する生産力はより広い原材料市場、消費市場を必要とする。市場の拡大 と共に生産力は高まる。市場の拡大として生産関係は普及する。生産関係の拡 大・普及期には生産関係と生産力は共に市場を拡大する。普及する生産関係に 応じて社会関係、所有関係、人間関係が変革され、社会的支配関係として固定 される。
生産関係にとらわれない新しい生産方法、生産形態はより大きな生産力をも つ。大きな生産力はより大きな市場を必要とする。新しい生産力は、従前の生 産関係によって支えられていた価値基準を不連続的に切り下げる。切り下がっ た価値基準では従前の生産形態では再生産ができなくなる。あるいは、再生産 による価値更新−減価償却が済まないうちに機械設備の更新による道徳的腐朽 化進む。生産関係はバランスを失い所有関係の改変が起こる。
従前の生産形態を支配する社会的力が大きければ、新しい生産形態の普及は 一時的に阻止されえる。古い生産関係に基づく所有関係の支配は、生産関係の 変革による所有関係の破壊を最小に押さえ、所有関係の継続をめざす。古い生 産関係に基づく所有から転換できない者は、新しい生産関係によって社会的立 場を失う。
【生産関係と所有関係の矛盾】
生産力と生産関係の矛盾が価値の再生産構造として腐朽すると、所有関係が 変革される。所有関係の変革は社会権力の交替であり、革命であり、歴史的画 期である。
生産力と生産関係の矛盾は景気変動には収まらない。景気変動は設備投資と それによる生産量の増大が消費市場の規模から乖離すること、そして消費市場 の拡大、または設備の廃棄によって生産と消費の均衡へ向かう変動の循環であ る。景気変動による経済的軋轢、社会的動揺はある。しかし、生産力と生産関 係の矛盾はより本質的な社会の物質代謝の仕組みの問題である。
生産の担い手と生産手段の所有者・生産関係の支配者との分離・対立は生産 関係と所有関係の矛盾として現れる。生産手段を所有していることを根拠に生 産関係を支配するなら、生産力の増大より支配の継続を優先する。生産手段の 蓄積・集中による管理機構の巨大化は管理技術が対応せず、再生産過程を破壊 するまでに至る。
生産力の発達が量的拡大による生産関係の革新を超え、生産力が質的に発展 する時には、生産関係その物の変革が起こる。
注112
生産力の増大は再生産条件の拡大をともなう。再生産環境の維持、保全も生 産関係に入り込む。自然的環境、社会的環境も含めて再生産環境が整えられな くてはならない。生産手段の所有だけを根拠にして、生産関係を支配している 所有関係は変革される。変革されなければ再生産が破綻する。
【社会的報酬】
所有関係の矛盾は労働対価と労働成果の矛盾、相互の評価と成果の帰属をめ ぐる矛盾となって現れる。労働の対価は労働力に応じて評価されるが、労働の 成果は労働以外の生産関係、生産外条件、偶然によって大きく異なる。生産関 係が高度化するほど成功報酬の違いは大きくなる。
生産関係、所有関係の違いに関わらず、発達した経済活動ではその経営、企 画の役割が必要である。経営、企画についての評価は社会的価値生産には限ら れない。危険負担を含み、成果は労働、労働力に比例しない。社会的名誉、地 位と報酬によって処遇する。
生産関係にあって、管理・運営を担う者は直接労働する者と対立する関係に ある。対立が敵対的なものであるか、職制上のものであるかは所有関係によっ て決まる。
【生産様式】
生産力と生産関係によって社会的物質代謝の内容と形式は構成される。社会 的物質代謝過程の全体性が社会の運動の実態を実現する。生産関係に基づく社 会的価値の運動形態、価値生産、価値評価、価値交換として、社会的物質代謝 が生産関係に基づいて実現され、社会の運動を特徴づける。生産力と生産関係 の相互作用としての社会的物質代謝の形式が生産様式である。
注113
歴史的に生産様式区分は原始共同体制、奴隷制、封建制、資本主義制、社会 主義制と区分されるが、様式として個々の生産過程の特徴でもある。
概観 全体の構成