概観 全体の構成
【個別】
他と関係して、他と区別される運動としての個別は運動の主体である。個別 は運動の主体として、いわゆる「もの」である。「最も具体的な存在」「実在」 等等と呼ばれる、それぞれのものである。
個別は認識対象として便宜的に区分された部分ではない。個別は相互に区別 される対象性をもつ。個別は相互に作用し合う対象性をもつ。個別は複数の相 互作用する運動主体として、存在の主体である。
【全体性と部分の統一】
個別は全体性と部分の統一としてある現実の存在である。全体と部分は対立 する概念であり、一致する場合は唯一無二の絶対的存在の場合だけである。相 対的存在である現実の個別は、全体の一部分として存在している。
存在とは他と関わることで全体と関わり、他と区別することで部分としてあ ることである。全体性と部分は個別としてどちらかが本質的、基本的等の差異 はない。対立した存在の統一ではなく、統一として存在する。
【個別の存在形態】
すべての存在は運動であり、相互作用として現れる。複数の相互作用の重な り合いとして個別はある。複数の相互作用それぞれ運動としてありながら、相 互作用間の関係を保存する。変化する相互作用の重なり合いとして個別はある。 相互作用間の関係の保存として、個別は自己の存在形態を規定する。
他との相互作用の大きな変化は個別を実現する相互作用の変化としても現れ る。他との相互作用が個別を構成する相互作用間の関係までも変化させるとき、 個別自体の存在を変化させる。個別の他との諸関係は個別自体の存在としての 形態を規定するものであり、他との諸関係の変化は個別自体の存在を変える。
個別は個別を構成する相互作用を統一しているが、その相互作用は他との相 互作用とも連関している。
【個別の運動形態】
個別は運動の主体として、その運動には具体的な形態がある。運動形態とし て個別は様々な形をとる。個別の運動形態はその諸相互作用の関係によって、 個別を分類する。
個別間の相互作用の隔たりは、位置関係の変化である。相互作用の隔たりの 変化は移動ある。
相互作用の作用の範囲、規模の変化は量的変化である。量的変化では相互の 関係は変化しない。これに対し、相互作用の相互の関係の変化として質的変化 がある。質的変化は相互作用そのものの変化であり、個別が当の個別ではなく なり、別の個別になる。質的変化は個別の形態を変化させる。
相互作用は物理的作用だけにとどまらない。生物の活動、社会活動、精神活 動も相互作用である。
個別は相互作用の主体としての存在である。したがって個別の存在はその内 にも多様な運動を含み、それぞれに他と相互作用し、内部で相互作用している。 個々の相互作用の過程に分解・還元しては個別はとらえられない。個々の相互 作用の過程の相対的全体としての部分が個別である。
蛇足23
【個別と部分】
部分は全体との関連を現し、部分と部分を区別する関係にある。個別は運動 の実現形態である。他の存在との相互作用の存在単位である。
個別は複数の相互作用の統一である。個々の相互作用の変化は相互作用間の 関係としては変化しない。個別は諸相互作用関係の統一としてある。個別は諸 相互作用関係の関係の保存としての相対的静止である。全体の運動に対する部 分でありながら、複数の相互作用の全体として個別はある。
【方向性】
運動は方向性を持つ。方向性を持たない運動は混沌である。一定の方向性の 持続として運動は区別される。一定の方向性における変化が運動状態である。 変化を表す一定の質が運動形態である。
方向性として運動の形が現れる。運動は方向性として他と区別される。相互 に方向性をもたない運動は混沌である。移動の方向、振動・回転の軸、質の変 化の方向のように、運動は固有の方向性をもって現れる。
一定の方向性を基準としてその基準に対して変化する可能性が自由度である。
【自由度】
基準とする一定の方向性をx軸に設定することで一次元空間が定義できる。 x軸方向の運動は、x軸にそって双方向に変化できる可能性である。一方向を +(プラス)、あるいは右と方向づけ、他方を−(マイナス)、あるいは左と 方向づけられる。双方向への運動として振動の可能性がある。一つの運動の次 元の可能性として、運動の自由度がある。
自由度は運動の一定の質を捨象することで措定される。
注97
次元空間の定義は日常的物理空間に限らない。運動の自由度によって次元空 間が決まる。次元空間は論理空間である。
【個別の自由度】
現実の運動は単一の自由度ではありえない。物理的運動であってもx、y、 z軸と時間軸に対する四次元の自由度をもった運動である。運動は複数の自由 度を合わせもつものとして現象する。運動主体は複数の自由度の結節点であり、 複数の自由度の一体の持続として、個別として他と区別される。個別は自由度 の束なりとしてある。
個別における自由度の一体性は自立性と対象性である。全体の無限の自由度 に対し、一定の自由度の保持、一体性の持続として個別は自立性をもつ。全体 の自由度と、個別の自由度との相互作用にあって、個別は他を対象として運動 しつつ、自己も他の対象となって運動する。自他ともに作用し合う対象性をも って運動する。自立性と対象性の運動として個別は他と区別されて存在する。
【相互前提】
対立関係は互いの存在を前提にして関係している。
対立は一つの運動の過程で現れる関係である。双方が存在するのは運動の形 態としてであり、運動無くして存在しない。対立する双方の存在は同じ運動に よって実現しているのであり、前提は同じ運動である。
【相互作用】
全体はひとつであり、全体に含まれる部分は互いに他の部分と関係し、相互 関係を相互作用として実現している。相互関係は現実の過程として、相互作用 の関係である。
相互作用は遠隔作用ではない。遠隔作用として現れる現象も、媒介するもの によって実現されている。媒体との関係は直接的相互作用である。直接的相互 作用の連なりとして遠隔作用は実現される。相互作用は直接する関係である。 媒介される間接的関係は、直接的相互作用の連なりとして現れる。
すべての実在の関係は相互作用であり、互いの存在に対する互いの影響力の 違いに大きな差がある場合でも、一方的関係ではない。
相互作用は作用によって互いを区別する対立関係にある。対立でない同一に は相互作用はない。
【相補性(相互規定性)】
関係は単独では存在しない。全体の関係の中にそれぞれの関係がある。それ ぞれの関係は互いに多様な関係であると同時に、関係同士の関係にもある。
一つの運動過程は他との間に異なった関係を実現する。異なる関係同士は一 つの運動過程の別の現れである。その異なった関係は同時に現れることはない が、いずれか一方の関係として現れる。関係を実現するには互いを斥け合う関 係が相補性である。
相補性は互いに否定的でありながら、互いに排斥的でありながら一つの運動 過程の別々に現れる性質の関係である。相補性は対立関係にある対象の媒介性 の現れである。
【励起】
他との相互作用にあって、相互作用により自らの状態を変える。他との相互 作用を自らの内部関係として現す。自らの内部状態として他との相互作用を保 存する。内部状態の変化として他との相互関係を自らの存在にする。
【対象性と自立性】
すべての存在は対象性をもつが、他に対しては自立した関係でもある。他を 対象とし、自らを対象とするが、同時に自らを他と区別して自立させる。他と の関係、自らの関係として存在を自立させる。
対象性は存在自らが他の存在にとっての対象である関係と、自らの存在を対 象間の関連の内に実現していく過程でもある。自らの存在関係は対象の関連の 中に再現されなくては継続しない。
他との相互作用としてある個別は、全体の運動による一般化に抗してその相 互作用を、自らの存在形態を保存する。自己保存は他との相互作用を継続して 作り出す持続的な運動である。自らを対象化する性質である。
【運動過程】
運動は他との関連にあっての相互作用である。相互作用の関連自体が運動し 変化する。相互作用の全体が運動する。相互作用の構造自体の運動が過程とし て現れる。
運動過程の基本は継起的関連である。
物理的運動、化学的運動は一般的に継起的関連としてある。原因から結果が 継起され、その結果が次の過程の原因となって運動が継起される。
運動の結果が運動の原因となって循環する関係がある。他の相互作用に比べ て一端循環関係が実現すると急速に強まり、他の相互作用を従属的なものにし、 その他の作用を規定する。一般的過程は平衡に向かうにもかかわらず、循環過 程は非平衡に向かう。非平衡化の過程として循環系は他との相互作用と対立関 係にある。
継起的関連が構造化されると、再帰的関連へと発展する。再帰的関連は継起 的関連の結果が、当の継起的関連の原因、あるいは条件、あるいは運動過程自 体に作用する関連である。ループバック、フィードバック、フィードフォアの 運動系として現れる。
化学的運動においても再帰的関連は散逸構造として発見されている。再帰的 関連は生物の運動、精神の運動にあっては本質的な運動過程である。
【自己組織化】
再帰的関連にあって制御系が主系列に依存する場合、主系列の運動によって 制御系の作用が強化、あるいは弱化する。
再帰的関連にあって制御系が主系列の構造を変化させる。主系列の構造変化 は制御系を含む構造の再編であり、系全体の定方向の組織の発展となる。
【相互作用の発展】
個別は他と相互作用する運動主体であり、その相互作用にあって変化する。 一方、相互作用は全体の相互作用の連なりの一部分としてある。
個別は個別間の相互作用にあって、運動の主体ではあるが他に対する相互作 用の要素でもある。全体の相互作用の連なりに対し、個別間の相互作用が相対 的に強まり保存されるとき、個別間の相互作用は個別自体の運動と一体化する。 個別間の相互作用と個別自体の運動は一体のものとして、全体の相互作用の連 なりになる。個別の存在を実現している諸相互作用が個別全体として他の個別 との相互作用を統一し、より大きく統一した個別として他と関係する。
個別間の相互作用と個別自体の運動は一体の運動として、新しい個別、より 発展的個別の部分となる。より発展的個別に対して、始めのいわばより基本的 個別は、個別としての全体性を失い、より発展的個別の部分となる。より基本 的個別は他のより基本的個別と一体化することで、より発展的個別として全体 性を回復する。
より発展的個別はより基本的個別の単なる集合体ではない。より基本的個別 からより発展的個別への発展は質的変化であり、より基本的個別の量的変化に とどまらない。より基本的個別の個別自体の運動そのものが質的に変化する。
個別はより基本的個別から、より発展的個別へと発展する。
【相互作用の還元】
しかし、運動は一方的に発展するばかりではない。より発展的個別も個別と して他と相互作用の連なりの中にあるが、他との相互作用が個別自体の運動よ り強くなるなら、より発展的個別は分解する。個別自体の運動は他との相互作 用とによって、より基本的個別間の運動にもどる。より発展的個別がより基本 的個別へ還元する場合もある。
【個別の構造】
個別の発展と還元における質的変化は、単により発展的な新しい個別を作り 出したり、より基本的な古い個別に分解するだけのことではない。
より基本的個別は、より発展的個別の部分となるが、より発展的個別に解消 はしない。より発展的個別の内にあって部分として、より発展的個別の要素と なる。より発展的個別は、より基本的個別であったものを部分とする構造を持 つ。個別は構造をもつものとして発展する。
また、より基本的な個別はより発展的個別にすべて取り込まれはしない。よ り発展的個別の他者としても、より基本的個別はある。
より基本的個別自体の運動は、より発展的個別として規定されて全体性をも つ。この全体性はより基本的個別間の相互作用による一様化への傾向に対立す るものである。より基本的個別への一様化は、特定のより発展的個別の一様化 であって、全体の相互作用のより発展する、より発展的個別を作り出す運動の 一様化ではない。
より発展的個別への発展では、より基本的個別間の相互作用そのものも、質 的に変化する。基本的個別自体の運動の全体性は破れ、より発展的個別におい て全体性が回復する。個別は他と連なる全体性を他に対する方向性として内的 構造をなす。全体性と方向性の統一として、個別はその運動形態を現す。
他と全体との相互作用の中で、発展自体が方向づけられる。全体に対する方 向性として運動する個別は対象性をもつ。方向性として現れる運動形態は、個 別として相互作用の対象となる。
【個別に現れる内在性】
個別は全体の運動一般に解消するものではなく、部分として捨象されるもの ではない。個別として全体性を部分としての内に形として現す構造をもってい る。個別は他との相互作用として区別されるだけではない。他との相互作用に あって、全体性を内在化している。全体の普遍性を個別の内に全体性として現 す。個別はその内に全体の運動を、個別としての運動形態として方向づけてい る。
個別は全体との関係を、個別自体を対象とする他との関係として個別内部に もつ。同時に、個別として他を対象とする運動主体である。全体性を内部にも ちつつ、外部の他に対して運動する部分として個別が存在する。この個別に内 在する全体性と、部分としての主体性が個別を決定する。個別の運動は他との 相対的関係の過程だけを追ってはならない。個別に内在する全体性と、他との 相互作用の総体性を統一してとらえなくてはならない。
個別を決定するのは内在する運動の方向である。運動方向の内在性が他に対 する相互作用の対象となり、現実の運動を実現する。
【階層の発展】
より基本的個別からより発展的個別への発展は、より基本的個別間の相互作 用とは異なった、より発展的個別の運動形態への発展でもある。より基本的個 別の運動形態からより発展的個別への運動形態への発展、そして、より基本的 個別の相互作用からより発展的個別間の相互作用への発展は運動形態の発展で ある。こうして区別される運動形態の積み重なりとして、運動は階層構造をな す。
より発展的な階層はさらにより発展的な階層を積み上げる。
【個別と階層】
階層間の関係は個別を結節点とした、いわば縦の相互作用の連なりである。 相互に関係のないものが積み上がっただけのものではない。より基本的階層は より発展的階層の存在基礎であり、より発展的階層の個別はより基本的階層を ひとつにまとめる。
個別間の関係をとおして階層間の関係が現れる。階層は個別の運動形態の区 別であるが、階層自体規定性を持った実在である。より発展的階層は発展的階 層の個別を規定し、個別内の運動を方向づける。より発展的階層は個別の運動 をより基本的階層への還元ではなく、より発展的階層での運動の方向性を規定 する。
【世界の階層性】
運動の階層は世界の構造である。階層の発展の中で限りなく多様な個別が作 り出され、世界の歴史が作られた。運動の発展が世界の歴史であり、その階層 として世界の構造が作られた。階層は世界の基本的構造である。
世界の階層は階層間の関係をもつ。階層間の関係自体が構造をもつ。より基 本的階層からより発展的階層への単なる積み重なりではなく、発展の度合いの 異なる飛躍を内に含む。そして、階層関係の発展は系列を形成する。
注98
【即自的運動】
即自的な最も基本的な運動は、定方向的な運動である。混沌ではない方向づ けされた運動として、方向を保存する運動である。定められた方向性は保存さ れる。
運動の方向性は方向によって定まる対称軸によって、可逆的運動と、非可逆 的運動に区別される。
【非可逆的運動】
非可逆的運動は時間軸に対して非対称性をもつ。
内部時間をもつ。全体の運動としての時間とは別に、部分としての運動の継 起に順序がある。
注99
【制御運動】
運動は内部に構造を備え、運動を階層的に組織する。他に対する直接的な相 互作用だけではない。他との関係を内部関係に転換し、全体としての運動を統 制する。いわゆるフィード・バック系である。
蛇足24
注100
他との相互作用にあって、運動を定方向に維持する内部構造としてフィード バック系が実現される。他との相互作用による撹乱を、内部運動によって補正 し、方向を維持する。他との相互作用を内部構造に変換し、運動を方向づける。 内部運動の出力を、他との相互作用での入力として内部構造に受け入れる。
制御される方向は、物質の運動形態の飛躍的発展である。制御される方向は 運動自体の方向にとどまらず、他に対する、全体に対する方向づけである。他 についての、全体についての評価が無くては制御を方向づけることはできない。
ここでの「評価」は価値づけではない。評価そのものの物質的基礎である。 他に対し、全体に対し方向づけることとして「評価」が実現される。実現され た「評価」が現実の過程にあって試される。試され、継続する運動過程の「評 価」が価値づけの判定になる。
注101
【合目的的運動】
フィード・バック系が内部構造化することで、内部構造の制御が可能になる。 内部運動を他に対する運動として評価が可能になる。内部構造を他に対して再 構成する。
内部の制御構造を対象化することで、運動全体を他に対して方向づける。他 に対する方向づけは、他との相互関係の変革である。内部運動の方向を他との 相互関係に拡張する。内部運動の方向は運動に目的を与える。他との相互関係 における方向づけ、目的づけは価値評価である。
目的、価値の存在の物質的基礎はフィード・フォア系の目的運動にある。
制御系自体を対象とする認識の発達によって、目的が設定される。フィード ・バックされる方向が、逆に運動過程の前方に延長されたものが目的である。 単なる運動方向は、他との、全体での方向として意識されて目的になる。目的 が定まることによって、目的実現までの過程が価値評価される。
注102
注103
他に対する自らを変えることによって、他との相互関係を変革する。自らを 変える方向性は価値判断によって決められる。価値判断は主体的実践によって 定まる。他との関係、主体的実践の場になくては価値基準は定まらない。やが て主体は対象を自らの方向性にしたがって変革する。
発展は世界にとって重要な運動形態である。
個別の発展として世界の秩序を作り出してきたのである。宇宙の進化は個別 の発展史である。
そして、個別の発展は運動そのものの発展である。運動は一般に一様化の傾 向を持つが、他方では運動自体が発展するのである。個別は形態であり、運動 は内容である。
【内在する法則】
運動は個別を相対的静止として作りだす、形成する。運動は個別としての存 在の構造を作る。個別、あるいはその構造はでたらめではない。運動は個別と して相対的に静止しつつ、全体性を内在させて運動している。個別の他との相 互関係は固定しているが、他の個別との相互作用は常に変化している。個別と しての存在を現す運動は、個別の全体性を内在させる。個別としての存在を現 す運動の形式が法則である。個別の内在する法則が存在法則であり、運動法則 である。
【外在化する法則】
個別は他との相互作用にあるが、他との関係は外在であり、他との相互関係 のままでは法則にはならない。他との関係に規則性が現れるのは、個別の法則 が他の個別の法則と相互作用する限りである。したがって、他の法則との相互 作用として、相対的な現れ方をする。相互作用の現れる過程は法則的ではある が、個別間の関係として相対的である。
内在する法則は他との相互作用の過程として現れる。他との相互作用として 外在化する法則は現象法則である。
個別の相互関係の組合せによって、個別の作用が様々に変化し、他に働きか けることが現象法則である。現象法則は決定的な、固定した法則ではなく、傾 向としての法則である。
【法則の内在化】
他との相互関係が恒常化すると、相互作用自体が対象性をもつ。個別間の相 互作用を維持、継続させる相互関係が形成される。相互関係の固定化として秩 序づくり、組織化である。他との相互作用を、運動の一つの過程として方向づ け、安定させる。他との相互作用として外在的法則であったものが、新たな運 動形態として内在法則化する。
内在化は、全体の運動として新しいより発展的な個別の生成である。
【法則と理論】
法則の意識への反映が理論である。法則に基づく運動の形式が現れる。通常 「・・・の法則」と呼ばれるものは、法則の反映されたものである。
法則は対象間の普遍的関係を概念間の関係として、意識に反映させた理論で ある。
概念の関係が論理である。対象と概念の対応関係、概念間の関係、対象間の 関係と概念間の関係の対応関係を表現したものが理論である。
論理は運動形式に対応していなくてはならない。
法則は論理として形式化される。
法則として言語表現された規則性によって対象の運動が規定されるのではな い。対象の運動が言語表現された法則に一致するのは、法則の言語表現化の過 程が正しかったことを示す。一致しなければ、法則の言語表現化の過程に誤り があるか、法則の実現過程の条件に違いがあるのである。
弁証法は物事のあり方の基本法則である。
蛇足25
【弁証法】
弁証法は物事のあり方として存在論であり、論理であり、認識である。
弁証法は物事が「あるか、ないか」ではなく、どのようにあるかを問題にす る。すべての存在は非存在の否定としてある。非存在は存在の否定としてある。 この敵対的対立関係として存在する。
これは考え方の、観念的形式の解釈ではない。他との関わりを持つものとし ての、この世に存在するもののあり方である。他との関わりという関係がそれ ぞれを存在させ、またその存在を否定する関係である。逆にこうした否定的対 立関係にあることが物事の「存在」である。このことはこの「世界観」のこれ までに述べてきたことであり、これからもも述べることである。個々の物質の 存在、生物の存在、人格の存在、宇宙そのものが一定の存在でありながら、一 定であり続けつつ、次第に他の存在に変わっていく関係にある。一定の存在で あり続けるために自らを変えつづけて存在する。
すべての存在は運動するものとしてある。すべての存在は他との関係として 存在する。「不変」は相対的な存在形態である。存在も弁証法の現れである。
存在は一つの形としてあるのではない。存在は運動の現れであって、他との 関係も一つの関係ではない。存在自体他との関係と連なる内部の複数の、一般 に非常に複雑な内部構造の関係がある。しかもその関係、関係の構造自体が変 化する。この関係の普遍的な形式が法則であり、論理としてとらえられる。法 則は具体的現実に組み合わされ、その形をも様々に変化させて現れる。論理も 弁証法の現れである。
対象の認識にあっても、対象の相方は認識結果に反映する。しかも、存在を 対象とする認識自体も運動である。認識も対象と主観との相互関係としての運 動である。認識も弁証法の現れである。
存在、論理、認識いづれも弁証法の現れであり、弁証法は個々の現れ方のす べてとしてある。
注105
【学としての弁証法】
学問の方法としての弁証法は、個別の具体的研究方法を提示するものではな い。論理的に研究方法まで演繹できる方法論が存在するわけはない。しかし、 弁証法は研究課題を明らかにし、研究成果を評価する。また研究者自身の活動 の指針を示す。
学問の対象としての弁証法は、対象の内部関係の構造を契機としての他との 関係の論理を明らかにすることである。歴史的過程内における対象の論理の発 展を明らかにすることである。論理構造、歴史的構造の対象としての統一構造 を明らかにすることである。弁証法は対象の論理性、歴史性、総体性を明らか にするものである。
いづれかの面を欠落した対象の把握は、個々の学問としての欠陥となる。科 学は当然のこととして論理性、歴史性、総体性を備えていなくてはならない。 科学の個々の成果も、その論理性、歴史性、総体性を明らかにしなくては、個 別科学の内にあっての評価のしようがない。
【世界観と弁証法】
形式論理の有効性は、対象の定義の厳密性、明証性を前提にしている。形式 論理では対象とその概念は不変でなくてはならない。論理操作の正しさは当然 のことでなければならない。対象の定義は対象の他との関係を全体的にとらえ た上での捨象でなくてはならない。論理的帰結の利用は、逆に対象の全体性を 再構成するものでなくてはならない。
また、定義そのもの、概念化の過程と、概念の現実への展開の過程を明らか にしなくてはならない。
これらは、形式論理の枠内では扱えない。だからといって、直感によること も、経験だけによることも科学の方法ではない。対象の全体の位置づけ、対象 の他との相互関係、対象の運動、対象の現れを法則的にとらえなくてはならな い。それが弁証法であり、具体的適用が世界観でなくてはならない。
概観 全体の構成