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概観 全体の構成

   目次


第13章 組織運営

 組織運営はすべての人間集団についてである。
 家庭でも、趣味のサークル、学級、職場でも組織の意識的運営が必要であり、 特にその属する集団の問題が大きくなった場合は特別に組織運営を見直す必要 がある。
 組織には家族のように構成員の意志に関わらず組織されるものと、特定の目 的をもって組織されるものがある。特定の目的を持つものも半恒久的な会社組 織から、ピクニックのグループまで多様である。いずれにしても組織運営が行 われている。

 労働者は組織された生産者としての歴史的使命を担っている。労働者は直接 的生産だけでなく管理、企画、技術開発まで、社会的物質代謝の基本的部分を 担っている。工業生産だけでなく農業、水産、林業、運輸、通信、情報と分野 も広がっている。他人の剰余労働に依存しない、組織的に訓練された価値生産 者としての労働者の歴史的使命を実現するためにも、組織運営について学び、 経験を権利、制度として蓄積しなくてはならない。

 

第1節 人間集団

 組織の実体は構成要素である人間集団と、権限の系統である地位関係である。
 人間集団は様々な能力、個性の集合である。
 人間集団としての形式的集合は様々に定義される。
 個々人の様々な肉体的、精神的、社会的能力の違いによって人間の集合は定 義される。個人の多様な能力の内の一つ質について人間集団を定義できる。様 々な運動能力、感覚能力、記憶力、論理力、想像力、説得力、交渉力等々の内 のいづれか一つの能力によって人間集合を形式的に定義できる。
注51
 集合を定義する質によって、個々の人間のその能力を区別することができる。 個々の能力についての能力差であって、多様な能力の統合としての個々人の人 格差ではない。
 いずれの集合定義であっても構成員の能力、個性の分布があり、構成員それ ぞれの地位がある。集合集団の中にそれぞれの個人の分布が位置づけられる。 個人は他の人と比べれば具体的な違いがある。

【人間の格差】
 人間集団の定義のいずれであっても、何らかの質で定義された集合は標準的 な分布になる。定義に用いられた質の高い者から低い者までの数が釣り鐘状に 分布する。
 定義された質において人間それぞれに格差があることは否定できない。形式 的、あるいは絶対的平等主義によって個人間に格差のあることを否定して対応 することは、現実を無視したものであり破綻する。
 差別の根元は一つあるいは少数の特定の質についての人間の違いを、その個 人の人格の差として定義することである。逆に人格の格差を否定することで、 個々人の多様な質それぞれの格差を否定しては、個性をも否定することになる。 人間の違いは様々な程度の、様々な能力の組み合わさり、統合された特性の違 いである。
 統合されたそれぞれの個人の能力として、その個人の個性があり、それぞれ の社会的位置がある。統合された個性として、個々の能力の格差は相対的なも のであり、これによって祭り上げられることも、切り捨てられることもない。
注52

【人間集団の分布】
 定義された質においての人間集団の分布がある。
 高階位の少数の者はその質の集団に対して主導的立場である。その集団の質 の方向性について自覚的である。集団の高階位者は集団の質について規定的で ある。
 高階位者に続く中位数より高い部分の者は、その集団の質を自覚している。 集団の中位数より高い部分の者はその集団の運動量について規定的である。集 団としての高階位者への支持を形成する。
 中位数より低い者は集団の質について無自覚である。中位数より高い者によ って引きずられる。
 低階位の少数の者は集団の質について否定的である。

【集団の運動状態】
 人間集団の運動状態は個々の人間の状態によっては決まらない。集団の運動 状態は分布状態によって決まる。
 対称的分布は停滞的である。
 高階位に偏った分布は発展的である。
 低階位に偏った分布は衰退的である。

【集団組織】
 現実の組織された人間集団は、1つの質によって定義された集合として純粋 には現れない。
 人々の性向は1つの質を純粋には表さない。個人の内の多様な質の相互規程 的な関係の統一された性格として現れる。
 単一の目的を持った集団であっても、その目的によって構成員の質=性向が 均一であることにはならない。組織の目的と構成員の質の均一性は、目的の内 容によって相関の程度が異なる。まったく相関のないことはありえないが、ま ったく均一になることもありえない。

 

第2節 組織行動

 組織運営は組織のあり方だけでなく実践が重要である。組織目的の実現が組 織の第1の課題であり組織の運営・維持は第2の課題である。形式的には順位 づけられるが、2つの課題は相補的であり統一的に追求されなくてはならない。
 組織行動・組織の運営には意志統一、実践、点検、総括の4つの過程があり 繰り返される。組織行動の4つの過程は時間的な継続ではあるが、単純な継起 ではない。課題ごとに重層している。また、それぞれの過程内においても4つ の過程が位置づけられる入れ子構造をなす。4つの過程は相互に関連し、必要 に応じて戻ることも省略されることもあるが、組織行動全体として繰り返され る。
 組織行動は様々な課題をもち、課題毎に組織行動がある。一つの課題も内に 幾つものより小さな課題に分けられる。したがって組織行動の各過程は重層的 に連なり、組織運営によって統一される。組織行動の4つの過程は組織運営に ょって節目づけられて組織的統一を実現する。
 組織行動を計画的に、確実に実現するためには4つの過程の管理が必要であ る。形式を整えることで組織運営上の欠けている部分を点検できる。形式を整 えた運営の記録により総括が実質化される。

 

第1項 意志統一

 意志統一は目的を持った組織の活動の根本である。新たな構成員を迎えるに も組織の意志との一致がまず求められる。
 意志統一は形式的には意志の公的な確認である。意志統一の内容は組織の課 題、運動過程と組織構成員のそれぞれの課題、役割の確認である。
 意志統一は理論的分析と意志の統一、客観性と主体性の統一を図る。
 意志統一は情勢分析、課題を明確にすること、任務分担、展望を明らかにす ること、決定を明確にし、記録保存する。

【意志統一の方法】
 意志統一の一般的形式は会議である。その他に専任者による決裁、回覧、持 ち回り決裁、構成員間の個々の連絡によっても意志統一は図られる。
 大きな組織では意志統一そのものが、一つの組織運動として取り組まれる程 に大きくなる。

【情勢分析】
 情勢についての認識を組織的に明らかにする。データを集中し、検討し、交 換する。
 個々の構成員の分担、能力を超えて組織的に認識を深める。
 客観的、主体的到達点を明らかにする。
 情勢の配置を確認し、力関係を明らかにし、全体の動きを予測する。

【課題】
 組織運動の課題、組織運営の課題を明らかにする。組織運動の課題は事業目 標である。組織運営の課題は組織の強化拡大と、運営上の障害対策である。
 組織全体の課題から、構成員それぞれの課題までを明らかにする。課題は戦 略的課題、戦術的課題に整理し、手段、方法を明らかにする。課題間の段取り、 優先順位を明らかにする。
 目標を獲得目標として明確にし、客観的に評価できる指標を設定する。

【任務分担】
 組織行動は組織構成員の行動として具体化され、実現される。組織構成員の 一人ひとりの役割と互いの関連が明らかになっていなくてはならない。
 それぞれの能力評価による配置と、組織の将来を担う人材の育成を考慮して 配置する。
 配置と責任の明確化により、状況の変化に対応する対策の扱いが明確になり、 総括の基準が明らかになる。

【展望】
 組織行動の展望がえられなくてはならない。総括での展望としてでなく、個 々の構成員が理解できる展望である。
 課題実現までの過程を整理する。全体の状況が把握できるようにする。全体 の中でのそれぞれの位置を明らかにする。方法・手段・過程を明らかにする運 動として、組織として、理論としてそれぞれの位置を確かめる。実績を評価す る。展望のない運動は前に進まない。
 広い視野をもち、全体の中での各組織主体の位置づけを明らかにする。

【決定】
 組織の社会的存在として、社会法規の規程を満たす決定も形式的に必要であ る。
 組織決定の必要性は形式ではなく、組織運動の基礎を整えることである。組 織の決定は記録することではない。文書化だけで決定の機能は実現するのでは ない。
 決定は構成員と組織外の人々に知らされなくてはならない。社会的に存在す る組織として、他の様々な社会主体と関係するのであり、相互に尊重される関 係をつくらなくてはならない。
 決定はすべての構成員に周知されなくてはならない。
 決定は点検、総括の基準になる。歴史的・社会的制約の下で決定はなされな くてはならない。しかし、決定を基準として点検し、総括することによって、 実践が評価され、歴史的・社会的制約が何であったかが明らかになる。

 

第2項 実践

【戦略・戦術】
 大きな組織、大きな社会運動は全体を体系化してとらえる必要がある。
 戦略と戦術は組織的運動を階層化して理解する方法である。戦略は全体の全 期間に渡る運動である。戦術は部分の一時期の運動である。全体と部分が相対 的であるように、戦略と戦術も相対的区分である。ただ基本戦略は通常の運動 のあり方から、切迫した状況までも含んでいる。
 戦略も戦術も課題、目標、方法、手段、段取りの体系である。互いにふさわ しい関係で体系化されていなくてはならない。戦略から戦術が位置づけられ、 戦術の遂行状況によって戦略の形勢が決まる。
 組織も戦略に対応する部分と、戦術に対応する部分、それらの階層構造をと る。

【条件整備】
 運動は時間的に準備の段階と本段階がある。運動組織の構造には本体と後衛 がある。
 準備は理論的、人的、組織的、物質的、情報運用の準備であり、計画に必要 な体制を整える。計画自体の機能の点検、計画変更への対応を準備する。机上 演習、システム化してのシミュレーションによって実際により近い状況を事前 に予測し、訓練し、体験しておく。
 運動の構造は組織化して運用する。後衛の運用は兵站と呼ばれる。運動の本 来の課題遂行をする本体の運動を支援する。運動本来の活動を維持するには人 的、組織的、物質的補給が必要になる。準備の段階を経て本段階での運動の維 持は条件が制限されており、柔軟な対応が必要である。
 長期的戦略では後衛は日常生活をも組み込むことになる。次の世代の人材育 成までも含んだ運動の組織化が図られる。手段・方法の開発、理論・技術の開 発までも組織しなくては長期的戦略は成り立たない。
 危機管理の場合、あらゆる想定をしておくことが基本であるが、想定しない ことが起こるのが危機でもある。危機への対応も通常の過程での準備は必要で ある。しかし、想定できない事態への対応権限の付与によって柔軟性をもって、 緊急性に対応できるようになる。即決断する権限をもつ者と、客観的に推移を 把握できる者のく見合わせが好ましい。緊急事態への対応権限は、結果に対す る免責を保障しなくてはならない。過失の責任追及はあっても、想定されない 損害に対しては免責されなくてはならない。

【課題管理】
 運動は計画通りに進行するとは限らない。特に敵対的相手のある運動では相 手側の計画を狂わせることが基本である。双方の力関係、客観的条件は変動す る。変化する環境条件の中で計画に沿って運動を進めるには、戦略・戦術の組 み替えも必要になる。
 課題の重要度の段階づけも変化する。順番としての段取りも変化する。運動 の各部分、主体の各部分、それぞれの段階におけるそれぞれの課題の重要度が 変化する。課題の変化に応じて組織、段取りを変化させなくてはならない。
 それぞれに理解度の異なる構成員が周知、理解し、自主的に判断できるまで 繰り返す訓練は完成することはない永遠の課題である。

 

第3項 点検

 到達点の確認と問題点の洗い出しは経常的におこなう。部分の成果の全体へ のフィードバックとして。到達点の成果の次の段階へのフィードフォアとして。
 点検によって組織の運用が管理される。
 総括の経常化が点検の形式であるが、運動過程での総括として全面的ではな く、あらかじめ設定さた項目の確認になる。

 

第4項 総括

 総括は行動の締めくくりであると共に、次の行動への準備でもある。

【成果】
 成果は客観的に評価されなくてはならない。決定に対応しての成果を評価す る。実践の実現された過程を振り返っての評価が必要である。運動、組織、理 論、人材、運動を全体として評価する。それぞれの分野で何が達成され、何の 問題が残されたか。
 結果論、無いものねだりをしても次の展望は出てこない。清算主義に陥って は到達点からも後退する。
 無謬論では主体の問題点は解決されない。評価事態が評価されない。

【到達点】
 到達点は次の段階の現実的足場である。
 運動: 何が実現されたかは基本であるがそれだけではない。情勢がどの様 に変わったか。力関係がどの様に変わったか。情勢における主体的決定力の大 きさ  運営: 組織の効率化、活性化、民主化、自律化  組織: 組織の強化、拡大、蓄積  理論: 新しい知見がどれだけ蓄積されたか。体系がどれだけ豊かになった か。理論の具体化、適応がどこまで普及したか。
 人材: どれだけの人員が実績を挙げたか。どれほどの能力を獲得したか。 指導者はどれだけ育ったか。

【問題点】
 到達点の相補的関係にある問題の把握と、対応が必要である。
 問題点はいつでも、どこにでもある。問題点が見えなくなったら組織的、運 動の発展はない。

【展望】
 組織主体の視点からの展望である。意志統一での展望に対して、より客観的 展望である。到達点への前進による情勢の可能性を明らかにする。

 

第3節 組織運用

 

第1項 組織の運用、統制

【単組織位】
 組織は構成員の集合、単なる集団ではない。組織されなくてはならない。
 組織には作業単位と統制機構が必要である。
 作業の規模が拡大すれば単位組織は分割される。作業単位は日常的に共同作 業できる規模でなくてはならず、数名が基礎である。十名を超えると統制が不 十分になる。
 少なすぎると構成員個々の能力による制限が組織の機能を規定してしまう。 互いの弱点を補い合い、互いの強みを引き出し、相乗させる組織の力を発揮で きない。
 作業単位は対象の質としての分野、作業量としての空間、作業手段としての 過程で分割される。分野、空間、過程のいづれかによって、あるいはその組合 せを基準として分割組織される。組織単位ごとに担当する機能を明確に定義す る。実際には情勢、主体的力量によって組織されなくてはならず、恒久的組織 など現実にはありえない。
 単位組織には指導者を一人選任する。単位組織指導者は単位組織の運営の責 任者であり、より上級の運営組織に対応する。あるいは上級の組織を構成する。
 各単位組織は担当作業の協力単位であり、また教育の単位である。

【組織階層】
 複数の単位組織は統合され一つの上級組織をつくる。単位組織に分担された 分野、空間、過程を統制する組織である。組織全体の規模によって組織階層は 増える。しかし階層数は5から6が限度であり多層化しすぎると組織の全体の 認識ができず、統制が困難になる。処遇のために多層化するのはごまかしであ り、組織の目的を不明確にし、組織の民主主義を形骸化させる。

【情報運用】
 組織の統制は情報によって管理される。環境、条件の情報、運動自体の情報、 組織自体の情報が集められ、実体が評価される。大きな組織、運動では独自の 情報運用が必要になる。
 情報の収集、検証、評価、蓄積、交換、提供、検索がシステム化される。情 報は収集されるだけ、蓄積されるだけでは役に立たない。正しい情報が容易に 利用されなくては役に立たない。情報システムの運用自体が管理される。
 業務情報であれ、管理情報であれ収集の段階で手間のかかる処理は実際的で はない。組織が必要とする情報内容を明らかにし、重複を避け、単純に、容易 に収集できるシステム、手はずを作り上げる。

 

第2項 組織の行動

【組織責任】
 組織指導者は責任者であり責任を取らねばならない。組織的失敗の責任は指 導者が取り、職務怠慢による失敗は降格によって責任を取るべきである。どの ような指導者の選抜方法、制度であっても不適切な選抜はありうるし、適切な 選抜であっても指導者は事故にも会うし、病気等によって指導できなくなる場 合もある。処遇とは切り離してでも指導者の格付けは現実の機能に対応すべき である。不適格者の降格によって意気消沈する組織は組織の基本から立て直さ なくてはならない。

【役割分担】
 構成員相互には業務の水平的役割分担と組織統制の垂直的分担がある。
 構成員の配置は本人の能力発揮と能力開発の配慮が必要である。また能力は 専門化する能力と、一般化する能力の違いがある。一般化する能力の者は様々 な分野の経験が必要である。専門化する能力は経験の蓄積が必要である。

【目標の明確化】
 組織の目標は組織の目的とする対象についての目標と、組織運営自体の目標 からなる。
 集団行動では特にシミュレーションが必要である。実地の予行ができなくと も、仮想して予行すべきである。予行によって明らかになる節々の目標を把握し、 組織構成員の認識の様式や解釈の多様性に対応できるよう、目標は単純に、 明確に示し、徹底しなくてはならない。臨機応変の対応は必要ではあるが、実 地段階でのことであって計画には含まない。事前の計画的準備のない「臨機応 変」は「泥縄」である。

【行程管理】
 具体的な明確な節の設定と徹底と点検、段取りの工夫、明確化が必要である。
 段取りの善し悪しは効率の問題になる。並列できる過程は並列化する。逐次 的過程は連続させる。過程の適切な組み合わせは待機の過程を削減する。
 同じ過程の繰り返しであれば、経験が生かされるように過程を組み合わせ、 担当の役割を分担する。
 段取りの実現と共に、時間管理も独自の課題である。段取りを経なければ達 成されない目標もあれば、期限に間に合わなければ意味のない目標もある。期 限を守るには時間管理が必要である。

 行程の段取りによる点検項目の進捗度合い、あるいは時系列による達成項目 を事前に明確にし、確実に点検、実現することが組織管理の基本である。点検 自体を確実に行うことと、点検対象を明確にしておくこと、特に後者は官僚主 義による取り返しのつかない過失を防ぐために必要である。
 通常の計画は余裕を持った計画であっても、余裕自体が計画どおりに消化さ れ、遅れがちになる。品質管理と併せて時間管理も点検の項目になる。

【組織指導】
 組織指導者は組織運営を意識的に行わなくてはならない。
 組織の対象事業に関する課題、組織の運営に関する課題を理解し、組織内に 明確にしなくてはならない。自然環境、社会環境の変化、技術的発達に応じて 生ずる課題への対応を提起する。さらには組織活動の拡大・発展にともなって 提起される新たな課題にも対応できるよう組織を運営しなくてはならない。指 導は役割を分担し調整をすることが基本である。
 指導者は新たな構成員の教育を行う。組織的に教育制度があっても、初めて 組織に参加するものを日常的に教育するのはそれぞれの組織指導者である。特 に個々の作業に関わる権限と責任の範囲は明文化しきれず、またそれぞれの能 力によって異なる。これを調整できるのは個々の指導者である。また問題を抱 えた者に対しては特別な配慮が必要である。

 指導は強制ではなく納得である。合理的組織運営は構成員の納得による指導 である。納得した上でそれぞれの能力が発揮される。組織構成員は一様ではな く、指導者の権限だけで指令が実現できる組織はない。ただ、軍隊は、そもそ も目的、手段が合理的でなくとも、訓練によって非合理的に納得させることに よって自ら死ぬ指導すらしてしまう。指導者は権限に頼らず、与えられた権限 は指令の権利ではなく、納得させる義務と解すべきである。

【組織活動】
 単位組織はそれぞれの課題を全体の運動に位置づけて遂行する。全体と部分 の関係として自らを位置づける。
 にもかかわらず依存主義と請負主義が現れる。困難な課題は他の単位組織に 任せ、依存する。全体の情勢と、自らの役割の無理解によって責任が欠如する。
 逆に、他の単位組織との調整を怠り、運動を組織化する努力を回避しする請 負主義が現れる。他の単位組織の課題を請け負う、他の単位組織との調整を切 り捨てる。請け負うことによって課題が実現できれば良いようであっても、全 体的、長期的には問題になる。当の単位組織が過重な負担を負い、本来の課題 に取り組めなくなる。他の単位組織の経験の場をなくすことになる。組織全体 の運用を歪める。
 請負主義は本人の負担を増大させ、破綻させる。他の構成員を統制できなく なる。組織行動の経験が蓄積されない。本人にとっても、組織にとっても請負 主義はためにならない。

【権限と処遇】
 組織の構成員の権限と処遇は価値観の多様性と生活の多様性、社会状況の変 化によって一概に決定できるものではない。
 本来権限と処遇は一致しているべきものである。
 権限は組織の運営に相応していなくてはならない。現実的には、処遇は生活 に相応しなくてはならない。権限と処遇のバランスは組織的に評価されなくて はならない。
 権限と処遇の評価法について労働者は経験し、権利と制度として蓄積しなく てはならない。互いの労働を評価し、上下の地位の者の労働を評価する方法、 制度を作り出さなくてはならない。公正な評価を実現するための制度作りとと 経験の蓄積が必要である。新しい社会秩序の根幹として。

 

第4節 会議

 会議は組織の公式の意志決定の場であるが、組織の意志確認の場でもある。 組織の意志決定を行うとともに、組織構成員に組織決定を徹底するための場、 機会でもある。
 重要な会議ほどその準備は周到になされなくてはならず、会議そのもの以上 の組織的な準備負担が必要となる。
 会議は会議構成員が時、場所を同じくして意志を決定するものであるが、会 議の準備のための会議、日常的な会議は電子会議でも十分である。時、場所の 制限がなく実質的討議に向いており、記録も残せる。

 

第1項 会議の準備

【会議の位置づけ、獲得目標】
 会議は単なる思いつきの意見交換の場ではない。意見交換は会議以前に行い 結論に向けて意見の違いを詰めておくべきである。会議は意見交換の場でもあ るが、交換できるまでに整理された意見が提起されなくてはならない。会議が 開始されてから意見を開示するのでは、利害の対立する問題、理解を深めなけ ればならない課題では時間が無駄であり、会議が混乱しかねない。
 まして会議は説明会、学習会ではない。構成員は事前に会議の対象について の基礎知識を有していなくてはならない。会議の構成員は会議の内容水準を満 たしている者によって、満たすことが可能な者によって構成されなくてはなら ない。一部の構成員のために説明が必要であるようでは、多数の構成員の時間 を浪費することになる。

 会議は抽象的な決定を行うものではない。現実の状況の中での、組織の公式 な意志の決定手続きである。状況の中で組織は活動しており、決めるべき方針、 態度表明は実施前の一つの形式的決定で尽きるものではない。運動のそれぞれ の段階で確定しておかなければならない手続きとしての決定もある。
 また組織が大きくなれば一つの会議で決定手続きが終わることはない。大き な組織では分科会、あるいは公式非公式な複数の会議に順次課題が提起され、 逆順に決定が積み上げられて組織としての決定が行われる。
 それぞれの会議の時と組織上の位置づけによって、それぞれの会議での課題 の意義は異なる。会議の位置づけ、獲得目標とはそれぞれの会議で処理すべき 決定であり、この決定がそれぞれの会議の意義である。定例的に開催される会 議であっても、会議の獲得目標は明確にされていなくてはならない。

【書記の役割】
 会議の準備は書記の仕事である。会議の時間、会場は構成員の日程を調整し て設定する。会議当日の資料の整理、議事・報告関連情報を確認する。開催通 知とあわせ、会議の位置づけ、獲得目標を構成員に明確にし、事前に関係資料 を配布し問題点を調査する。
 書記は事前に関係事項の根拠、法規を明らかにしておく。専門用語の正式表 記と定義を確認しておく。
 書記は事務の準備だけではなく、議事に関する事実関係の確認、会議と、会 議をとりまく情勢を把握しておく。会議当日の運営についての議長との打ち合 せを済ませておく。
 会議における書記の役割は議事録の作成と、確認手続きである。全発言の記 録が必要な場合もあれば、討論要旨のまとめ、あるいは結論だけの記録だけの 場合もある。公式記録が承認されてしまえば、議論の過程は無視されることも、 結論が変化してしまうこともある。
 会議終了後は記録の保存、会議結果の広報、必要な組織への連絡を行う。
 会議決定の実施段階での点検を行う。
 書記の活動は個人の能力に依存してはならない。組織的に援助し、情報を提 供し、書記担当者を育てなくてはならない。

 

第2項 会議の運営

【議長の役割】
 議長は会議構成員の意志を会議に反映させることと、会議の目標を実現する ことに責任があり、そのための権限が与えられている。手続き、規程を守るだ けではなく、会議を成功させる責任がある。
 会議の民主的運営と、会議の目的実現の折り合いが必要である。

【議事録の作成】
 議事録あるいは議事要録の作成は書記の仕事であるが、書記が文書化するだ けでは一つの記録でしかない。会議構成員の確認をえて議事録になる。
 議事録の作成されない会議では、自ら記録を取る必要がある。微妙な会議で はより細部まで、そして何より議論の経過とともに結果を明確に記録する必要 がある。採決されずに決定される場合、発言力の大きな者の発言や、多数の発 言だけで明確な結論がなされないことが多い。

【敵対する会議】
 敵対する会議では会議原則を歪めることで有利な立場を取りうる。敵対者へ の通知を遅らせることから、議事録を改ざんすることまで。発言者、決議権者 を閉め出したり、発言指名を避けたり、野次り倒したり。
 敵対者がそうした策謀を行っても対応しなくてはならない。会議自体だけで なく、組織の運営そのものに警戒する必要がある。代表会議では代表の選出母 体の支持を確実なものにし、会議の進行、結果の報告を確実に行わなければな らない。


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