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第12章 主体の確立

【社会的主体の意義】
 自然発生的な人間の連なりだけでは社会を運営することはできない。自覚的 取り組みがなければ、社会的力のある人は現状の利権によって組織され、現体 制保守の側に立つ。資本主義であろうが社会主義であろうが社会的利権があれ ば利権を独占しようとし、おこぼれに預かろうとする人、利権の僕たちが生ず る。現社会の利権の配分体制を保守するための組織、制度がつくられ、社会的 力を集約する。社会的力の大きな人が制度的権力を行使すればその力は限りな く増幅される。
 利権の僕たちは現社会の権力者である。利権の僕たちは国家権力者だけでは ない。利権の僕たちの本体は企業経営によって直接的に社会的富を支配する。 行政機構で利権体制を保守、調整する。様々な団体にあって社会的力を誇示し、 現利権体制の価値観を普及する。
 社会的に生じる利権は社会的物質代謝によって実現されているものである。 武力や多数決だけでは社会変革はできない。多数決だけで議会の多数を得ても、 利権の僕たちを排除できない。物資を隠匿し、経済活動をサボタージュし、資 産を海外に持ち出し、情報を操作し、経済不安、社会不安をあおる。現社会を 運営しているのは利権の僕たちであり、社会的力の行使の仕方に熟達し、その ことを自らの社会的存在証明としている。彼ら、彼女らを決議だけで従わせる ことはできない。社会的利権を制御し、社会を運営する主体がなければ結局利 権による社会的力の再編成が行われてしまう。
 社会的物質代謝の歪みを正し、健全に発展させるためには自覚的取り組みが 必要である。しかし、現社会の利権を承認し前提にしていては、社会的に力の ある人は利権を手放そうとはしない。社会的に力のある人を自覚的社会変革の 側に引き寄せ、利権の僕と闘わせるためには、社会的変革主体の確立が必要で ある。
 社会的主体は社会的物質代謝とその現在の生産様式を制御し、人間関係を発 展させようと自覚した人々が、自らを組織し、社会的権力の行使を自ら行おう とするものである。直接民主主義を意味しない。自らの組織訓練により企業経 営、政治の専門家を育てる。権力行使の開かれた組織体としての社会的主体を 実現する。
 アウトサーダーとしてではなく、社会の主人公としての主体でなくてはなら ない。現社会にあっては社会的に排除されるかもしれないが、自ら社会からは ぐれることはない。

【社会的主体の困難】
 主体的社会生活はなかなか困難である。社会体制に順じた生活であっても、 最前列を歩むことはむずかしい。ましてや世の中の体制に逆らい、全体を変革 していこうとする困難は大変である。
 資本主義社会に限らず、社会主義下であってもその最高権力者ですら、決定 的な誤りを犯すことがある。あらゆる情報を入手可能であるにも関わらず、誤 りを犯す。あるいは権力者であるからこそ誤りを犯すのかもしれないが。
 主体的社会生活の困難は社会生活の様々な分野、様々な階層にある。困難さ の質と量は人によって、立場によって異なる。困難さの分類はその犯す誤りを 分類することによって鮮明になる。政権の獲得前と後でその困難の質は決定的 に異なる。比べることのできない質的違いである。

 主体的社会生活の困難さの客観的条件は、まず主体性である。常に全体を、 未来を見通して展望を持ち続けることは難しい。歴史的前進と後退は繰り返さ れる。現実に力のある者との闘いは負けるのが当然である。負け続ける中で主 体性を維持することは困難である。
 変革のための運動には高揚期もあれば衰退期もある。相手のある運動であり、 前進も後退もある。高揚期には自信過剰による誤り、衰退期には自信喪失によ る誤りの可能性が高い。
 組織的に様々な人が集まれば、それぞれに個性があり、調子の違いがある。 組織的に前進していれば協力・共同は余裕を持って実現できる。組織的後退の 過程ではそれぞれの違いが後退要因に見えてくる。
 変革性は対象を変えるだけでなく、自らを変えることである。今現在生活で きている自分の生活を変革するには、現在の生活を否定することのできる確信 が必要である。
 変化の中で、自らを変革する中で変わらぬ自分を実現し続けるには、自らの 正しさの確信が必要である。世界全体とその理解によって、世界と自らのあり 方を、変化の中での正しさを確信できる。世界と自分を確信できる正しさは、 歴史的に、社会的に限りない人々によって検証されてきた科学による。部分的 結論では否定し合う科学も、基本的事実は何度も繰り返し追試されつづけてい る。条件の確認されていない個人的体験としての、その集積としての「正しさ」 とは違う。
 環境、家族、親類縁者、友人、職場、社会集団、国家、国際的関係は相互依 存である。個人は一人で生活できないという意味で、社会的に従属している。 相互依存的、従属的関係にありながら、その現実の関係を変革する。

【主体性の組織的困難】
 すべての構成員と直接接触できないほどに大きくなった組織では、それぞれ の構成員の評価は組織的評価によらねばならない。しかし、組織的評価は操作 される可能性が大きい。基本的な問題のある人間が組織的に高い地位にあるこ ともある。基本的でなくとも、それぞれに問題を抱えている人間によって組織 が構成されていることは、現実としてやむをえない。そうした人間が、善意で あれ個人に対する評価を歪めることもある。そうした人間が指導的立場にいる からといって、自らの行動を正当化することはできない。組織の不全を理由に、 自らの正当化は自らの判断をすりかえ、自らに対する裏切りである。
 個人のレベルでは、尊敬は重要な要素である。しかし、それが組織的に拡張 され、組織的に操作されることは危険である。個人崇拝にいきつく。
 逆に、自らについての評価も操作の対象である。自らの評価に対する操作は 自己変革のテコになる。操作が表面的な演出ではなく、自己変革をもたらすも のであるなら、周囲の評価を配慮することは偽善ではない。

 

第1節 組織作り

 組織作りの基本は要求の一致である。しかし要求の一致も組織されなくては 維持されない。要求は不変ではなく状況によって生滅、変化、拡大縮小する。 要求をまとめ、組織をまとめる目的意識的努力が必要であり、組織制度が必要 である。

【要求作り】
注48
 組織活動の基本は要求作りである。要求で一致していても、変化する要求を とらえ、また具体化されねばならない。一致する要求を明確にし、状況にあっ た具体化が必要である。
 新しい要求は、始めは一部分の構成員のものでしかない。一部分の要求を全 体のものにする要求作りが、組織運営の基本である。その際指導部の都合によ る、組織統制的押しつけがあってはならない。組織構成員としてでなく、より 普遍的権限によって組織統制することは許されない。特に政治党派的統制は許 されない。組織構成員が一致できる政治活動は制限されるべきではないが、組 織構成員が一致できない政治党派活動に組織を動員することは許されない。組 織にとって要求の一致を破壊することになり、組織だけでなく民主政治を破壊 するものである。要求の押しつけは組織内外二重の誤りである。

 一致する要求実現を目指す運動は、一定の要求実現だけを目指すだけである べきでない。組織構成員は程度の差はあれ、組織運営のために活動する。会議 に参加し、あるいは指示を聴くだけでも時間と労力を負担する。組織的に動く こととしての要求も組織されなくてはならない。組織的に運動すること自体が、 対象の価値を実現することとは別の価値を創り出す。
 組織活動が生活の一部であるから、組織活動自体が積極的価値生産の場でも ある方がよい。組織活動がそれ自体社会的活動であるのだから、組織活動それ 自体が文化的である方がよい。活発な人間的組織活動であれば、文化創造の面 を備えるものであり、組織的に配慮されるべき側面である。目的課題を消化す るだけの活動では永続しない。活動の継続は組織にとっても必要である。

 現実的要求は現実の矛盾を反映するものであり、要求の追求が現実の矛盾構 造を明らかにする。現実の矛盾構造を明らかにすることで、様々な要求が同じ 問題から派生していることが明らかになり、要求を統一して実現しなくてはな らないことが明らかになる。要求と、運動と、組織の協力・共同が組織の要求 になる。矛盾構造の追求により現実についての組織の理論的水準が高まる。

【組織作り】
 自然発生的に組織ができることがある、それでも持続するためには組織運営 を行い、統一的指導を行う組織制度がつくられる。1人によるリーダーシップ の場合もあれば組織規約を持つものもある。組織構成員の単純平等では組織に ならない、単なる集団である。持続的組織、より大きな組織には指導部、統制 部、事務部からなる執行部が必要である。

 組織制度は意志決定、統制の合理化である。決定、統制は内容の実現を目的 とするが、実現するためには内容が組織的に徹底し、合意され、承認されなく てはならない。民主主義のためだけでなく、実行力のあるものにするために組 織全体が決定に参加しなくてはならない。決定、統制のためには合意、承認の ための組織的手続きが必要である。手続きを定めることで、手続きを整えるた めの労力が省ける。合意された手続きによって、内容が承認される。
 手続きのための労力を省くことは、内容の形骸化の可能性をもたらす。組織 制度が整備されつつある段階では、手続きに対する問題意識も働きかけもある。 完成された組織制度に頼った組織運営は手続きによって形を整えるだけで内容 が形骸化しやすい。

 組織活動は目的実現のための活動と、組織自体を維持拡大するための活動か らなる。両活動が一体となった組織の運営が理想である。どちらか一面だけの 活動は組織活動にならない。
 組織自体を維持拡大する活動だけが組織活動ではないことを強調し過ぎるこ とはないが、一般に組織活動の問題は、組織の維持拡大の活動に重点が置かれ る。
 組織の維持拡大には技術と、訓練が必要であるからであろう。

【個人と組織】
 組織と個人を観念的に、形式的に対立させても現実的解決にはならない。社 会は多様に組織されている。社会的組織は家族、任意団体、学校、企業、政党 等様々な目的、組織形態としてある。
 人間の存在そのものが社会的存在である。社会から自由な人間など存在しえ ない。人間はただの物として、生物としての存在にとどまらない。社会の中で 物質的にも、生物的にも、精神的にも自らを実現している。
 環境も含め、社会は自分の意志とは必ずしも一致していない。社会も組織も 自分の意志どうりにはならない。それは社会や組織が誤っているからではない。 自分が誤っているからでもない。別々にあるから違っていくのである。現在の 違いを統一して実現することが現実の対応である。
 社会、組織を離れて自分を取り戻す、見つけることはできない。自分は社会、 組織の中に自分の関係を創り出すことによって、関係の中に自らを規定するこ とによって実現する。自分を求めて内省する場合も、自分を対象化し、自分で ない視点から自分を見つめる。自分でない視点とは社会的視点である。親であ ったり、教師であったり、友人であったり、あるいは理想化した人間の視点か ら自分を見る。
 社会、組織から離れるのは休息のためであって、そこで自分を見つけること はできない。見つけるのはせいぜい独りよがりの、逃避した自分でしかない。

 

第2節 組織活動

【指導と納得】
 組織には人間としてではなく、組織的に地位の高低があり、上位の者は下位 の者を指導する。指導は人間の平等原理とは別の、組織の目的、組織の運営に 必要な上下の関係である。
 指導が不適切であるのは、指導そのものではなく指導の仕方の問題である。 指導が強制になり、管理になるのは組織のあり方あるいは指導者の問題である。 その場合にはより適当な指導者に代るべきである。組織が活動していくために は指導は不可欠であり、貫かれねばならない。
 指導は強制であっては有効ではない。最も有効な指導は納得をえることであ る。本人の意志に基づく実践が最も強力である。したがって、指導力は強制力 ではなく説得力である。組織の指導力は組織の理論水準、学習教育水準、活性 度による。指導者は説得できる内容と方法をもっていなくてはならない。指導 を受ける者は指導の内容を理解できる力を持っていなくてはならない。
 指導者に指導力がないか、あるいは組織的に強制しなくてはならないなら、 指導者はその地位にある者として他の手段を講じなくてはならない。代償の用 意、貸借の取引、義理人情の利用、強要等、その組織を認めて指導的地位に就 いたなら、あらゆる手段を用いて指導を貫徹しなくてはならない。指導的立場 の者は責任を自覚しなくてはならない。

【統制・規律】
 組織は社会的集団として統制・規律が必要である。
 統制・規律は組織の目的と、組織の性質によって異なる。生活の基礎組織と しての家族、社会の物質代謝を実現するための労働組織、地域共同体等。公的 組織としての国家、地方自治体、義務教育学校等。構成員の自由な契約に基づ く任意団体。それぞれの組織の性質によって、組織の規律のあり方、効果は異 なる。
 家族には破られても、制裁を科しても家族組織に受け入れ続ける柔軟性に意 味がある。利害対立、感情対立、人格への侵犯があっても受け入れる柔軟性に よって、家族は生きる拠り所になりうる。社会的人間関係が歪む程、家族関係 の柔軟性は重要になる。家族関係までが疎外されたり、硬直化したのでは弱者 の立場がなくなる。
 社会的物質代謝を実現する組織は思想、信条、出身等基本的人権に反する規 律であってはならない。個人が社会的、経済的生活を自立して実践することを 保障しなくてはならない。個人的好き嫌いによる対応の違いは、個人的関係に 限らなくてはならない。社会的地位を利用し、社会的権限で個人の好き嫌いの 価値評価を行ってはならない。
 公的組織は社会的規律に基づく殺人も死刑として正当化する。大量殺人すら 戦争英雄として報奨する。公的組織には少なくとも主観的価値判断に基づく処 分は許されない。公的組織は事実、実態に基づいて規律の判断をしなくてはな らない。
 任意団体は契約に反した者を契約に基づき処分しえる。契約は個人の独立を 前提にしており、個人の生物的、社会的存在を脅かすことはできない。

 組織規律は組織の構成員に対する規律であるだけでなく、組織外に対して組 織の自立性を主張する根拠である。組織は規律に基づき外部組織からの干渉を 拒否できる。組織は規律に基づき組織の外に権利を主張できる。ただし、組織 の性質と組織の規律が整合していることが前提である。

【事務組織】
 組織は現実的存在であり、組織実現のための活動が行われており、それは事 務によって担われる。
 事務は組織の目的実現を現実化する。組織の目的実現のための専門的活動は、 専門家によって担われる。専門家の活動を物理的、生物的、社会的、精神的に 実現することに事務の役割がある。組織が小さければ専門家も事務を担う。事 務部門を持つ大きな組織でも、専門家も一部事務を担う。すべてを事務が請け 負うのでは効率性、正確性が損なわれる場合がある。書類をつくるにしても専 門的知識が必要なものもある。また、事務が担うことで二重手間になる場合も ある。専門家と事務の間で分担が調整されなくてはならない。員数合わせのた めに事務の人員を減らして、専門家の事務負担を増やしたのでは、組織の本来 業務に支障がでる。
 組織運営に限らず、実際の活動は実際の物を動かす。施設、設備備品から消 耗品までを動かす。これを担うのが事務である。専門家と事務の違いは実際の 作業に精通していることである。子細な例では資料の紙の順番を整えること、 袋詰めすること等の素材と方法に通じているのが事務である。
 専門家の活動を現実の社会環境に適合させるのも事務の役割である。専門的 活動は専門性によって規定されている。それを組織外、社会制度に合わせ、整 合させるのも事務の役割である。具体的に法的関係、契約関係、通信、物品の 取引は社会関係に適合していなくてはならない。組織内の専門的関係を社会的 関係に適合させる役割が事務にはある。
 事務は組織内の情報も統括する。決定を準備し、保管する。情報ごとに伝え るべき対象と、方法を決める。専門家による統制はあっても、実務は事務が取 り扱う。
 組織管理、人事管理、福利厚生も事務が担う。
 事務が有効に機能し、専門家と組織外環境との整合をどれだけ担えるかも、 組織力の基本にかかわる。

【組織の学習教育】
 組織にも世代交代があり、また組織運動自体を環境に適応させ発展させるた めに学習・教育が必要である。
 組織教育も、実践で学ぶことが教育効果の上で有効である。実践は日々日常 の事であり、教育も日常的に継続されなくてはならない。その上で日常的学習 教育を問題にするのは、放置したのでは日常的実践だけでは学習教育にならな いからである。日常の中で学ぶべき事を意識すること、学ぶこと、誤りを除き、 理解を容易にすること、これらは個人の努力ではなく組織的に保証されるべき である。そのための学校である。
 一方、学習教育内容を体系化すること、制度を整えること、手段を提供する ことも組織の役割である。組織構成員の認識の一致を図り、組織の目標、課題 を明確にするには、学習教育は不可欠である。
注49

 

第3節 指導者

 まったく同質の物が複数集まっただけでも区別が生ずる。形式的な左右、前 後、上下の区別・差異も内容の違いになる。人が集まれば左右の人で視点が異 なる。行進すれば前後、左右で動きが異なる。集団が大きくなれば、同期をと り、方向づけを意識的に行わなくてはならない。集団には指導者が必要である。 まして、年齢差、性差といった生理的違いや、社会的、個人的経験の違う集団 では指導者が必要である。

【指導者の資質】
 指導者は課題、方針を明らかにし、分担を把握し、教育を行わなくてはなら ない。
 個々の真理を知ることだけでは足りない。真理であることを評価しなくては ならない。評価するためには状況を理解していなくてはならない。かずかずの 個別真理のうち、当面問題にし問わねばならないことが何であるかを評価しな くてはならない。情報が与えられれば誰でも真理を知ることはたやすい。しか し、評価するには評価基準となる状況を理解していなくてはならない。
 周囲が敵対する状況にあっても、あるいはまったくの無視される状況にあっ ても、当面主張しなくてはならない真理を主張しなくてはならない。真理を羅 列するだけでも、重要性の序列を誤っても、重要な真理の主張を躊躇してもな らない。結果が出てから「そのことにも言及していた」というのはいいわけで しかない。

【指導者の育成】
 指導者は育てなくてはならない。個々の指導者を育て、世代を引き継ぐ指導 者を育てなくてはならない。
 指導者の資質は組織の中で訓練される。組織は指導者を意識的、制度的に育 て、配置しなくてはならない。指導者が指導者を指名し、指導者が指導者を育 てるという上下関係の問題ではない。指導される者も指導者の役割を理解し、 指導者の実績を保障しなくてはならない。
 指導者は分担された役割を果たし、分担された分野の内容、意義、位置づけ を理解し、より多くの分野に精通しなくてはならない。運動対象の分野に対し てよりも、運動主体の組織活動分野については全般に通じなくてはならない。 組織運営の原則、基準を理解し、実現しなくてはならない。
 指導者育成には指導者の組織的地位、社会的地位を異動させる。経験の蓄積 と視野を拡大するために、系統たてた地位の異動によって指導者を育成する。
 指導組織制度ができると指導的立場、あるいは地位に伴う報償を目的として 指導的立場に就こうとする者が現れる。私欲によって指導的立場に立つ者でも、 その役割を果たすならあえて排除する必要はない。必要なことは役割を果たさ ない、果たせなくなった指導者にとって代わる指導者を育成することである。 指導的地位は処遇の地位とは別である。組織的、社会的に負担できる範囲で処 遇の地位は別に用意されるべきである。

【組織的人間性】
 今日の状況、社会主義、共産主義を名乗ることすら困難な時代に、その隊列 に加わる人間は「善人」であろう。しかし、政権をとった時、本人が権力の亡 者に変わらない保障はない。また、社会主義体制となった時、すべての人間が その社会活動に参加してくる。「善人」だけでなくすべての人間が参加する。 人を出し抜く人間にとってはこの上ない条件である。公明正大であろうとする 人間の権力を奪うことはたやすい。
 これを阻止する保障として「性善説」を説くのは観念論である。本来人間は 善人であるとしても、現実には善人だけではない。論理的にだけでなく方法と して、制度として「善人」が権力を維持する保障がなくてはならない。保障は 科学技術と日常的な民主主義である。地球全体にわたる利害、問題点の展開で あり、日常的な不正への対じである。
 社会的主体、前衛組織の官僚主義にとどまらない。社会全体、全領域、すべ てのレベルにおける課題である。
 すべての集団、組織、階層において、目的意識的に追及されねばならない課 題である。この課題の保障なくして、今日、客観的条件を切り開くことは不可 能に近い。世界各地の社会主義政権の否定的事象によって「善」の弱さが証明 され、善による社会の実現の可能性が未だに証明できていないのだから。

【日和見】
 敵対する人間関係にあって、日常に接しなければならない状況で節操を守る ことは難しい。見え、声が聞こえ、影響を与え合う日常生活では、対立点が明 確な形を取らないときに警戒心は緩む。会議、交渉といった形式がはっきりし た場では対立点を明確にし、相手の弱点を突き、こちらの弱点を克服する努力 を維持しえても、日常的に緊張していることはできない。
 敵対するどちらも、緊張状態の持続にはいつかたえられなくなる。日常生活 での共通した部分で理解を求めようとする。同じ人間であることによる和解を 求める。「博愛主義」の実現を求める。しかし今の社会では許すことのできな い人間が確実に存在し、その人間は多くの場合社会的権力を持っている。その 悪につながる立場の者が、自己批判もせずに同じ人間だから仲良くしようと申 し出てきても、それを許すことは人間性の否定を許すことになる。悪は日常と は別のどこか見えない権力者のもとにあるのではない。
 けじめとして、敵対的立場の者と個人的接触を避けるべきである。会食、リ クリエーション等の場合は特に注意しなくてはならない。立場上同席しなくて はならない時も、誤解を招くような態度を取らず、後で申し開きができるよう 意識的に行動すべきである。言い訳のためではなく、つけいらせる余地を残さ ないために。

 

第4節 組織と組織

 多様な要求、多様な組織がある社会で、社会全体に関わる問題を解決するた めには統一が組織される。それぞれの組織の個別要求を実現するために、より 普遍的社会的課題に取り組むには段階がある。新たにまったくの始めから組織 作りをする場合もあるが、既存の組織運営を調整する組織を作ることで、組織 活動を発展させることができる。
 統一により組織間の関係が組織される。別の目的を持った組織であっても、 同じ社会の中で活動すれば共通の利害関係にある。

【協力、共同】
 協力は分野が異なっても、専門分野の力で他の組織と相互援助ができる。そ れぞれの専門に責任を持つことで、社会の基本的分野を網羅した社会的主体を 形成する。
 共同は専門分野が異なっていても、共通の社会的課題は一緒に取り組むこと ができる。それぞれの専門を尊重し、生かし、普遍的分野で相互援助すること ができる。

【対等、平等、相互不可侵】
 組織間でも指導関係はある。構成員は相互に重複して属しうる。しかし、組 織それぞれの目的、組織形態は対等、平等に尊重されなくてはならない。
 組織の生成、消滅はその組織自体の問題である。他の組織、上部組織によっ て組織の内部決定が干渉されてはならない。
 協力、共同を実質的に強化するには、対等、平等、相互不可侵が守られねば ならない。

【統一】
 協力・共同が組織的に発展し、統一組織ができれば実質的に統治できる社会 組織になる。それぞれの専門分野の力を生かした、自治による社会の運営組織 である。こうした統一組織なくして、国家権力を選挙をによって獲得しても統 治能力を獲得することはできない。主権者としての実際の社会的力を引き出す には、一人一人が組織される必要がある。
 各専門分野の組織が統一できる保障は、それぞれの分野の社会的主体によっ て、単位組織が組織されることである。現実の一つの社会を、人間の意識的な 制御の下で運営していくことである。社会の全体的をすべての人々の意志によ って統治する。それぞれの専門の力によって、全体として一つの社会を統治す るなら、全体の問題を解決する方向は一つに集約される。社会的課題を根本的 に解決するためには、人類史の発展の方向に向かわねばならない。
 他に方向、手段はない。武力によっても、権謀術数によっても、すべての人 々が主権者として統治する社会は実現できない。家庭、地域、職場、学校、地 方自治体そして国家機構においてそれぞれの構成員による自治と、それぞれの 専門の能力を引き出すことによって未来社会は可能になる。

 

第5節 政策課題

 社会運動は政策課題の表明を義務づけられる。社会組織は表明された政策課 題によって評価され、比較され、試されなくてはならない。現実の政治政策は 選挙スローガンでしかないとしても、社会的主体として、主権者の組織として 社会運動を展開して行くには正道を進むしかない。
 最終課題、普遍的課題が平和、独立、自由、民主主義、生活向上であっても 中身・基準が問われなくてはならない。また、実現手段が提起されなくてはな らない。そして、現実に直面している課題への対応策の提起が求められる。最 終的・普遍的課題、戦略課題、戦術課題、現実課題を体系的に表明しなくては ならない。

【最終的・普遍的課題】
注50
 すべての人が地域的、経済的、社会的、肉体的、精神的に制約されることな く、それぞれ自立した自己実現を保障することである。現在の制約を取り除く ことである。
 すべての人、将来の人類までが関わる課題であり、すべての人によって実践 されるようにならなければならない。アメリカが押しつける戦略であってはな らない。数カ国の首脳や賢人会議で決められることでもない。

【戦略課題】
 最終的・普遍的課題実現のための戦略課題が政策として明らかにされなくて はならない。
 戦略・戦術は相対的である。分野によって、課題によって戦略・戦術の規模 も違う。実践の段階によって戦略・戦術自体が変化する。そのなかで戦略は普 遍性を貫く。
 戦略は具体化され、政策として普遍的課題とその実現手段・方法を示す。課 題そのもの、物的・人的資源、経済的条件、社会的精度・組織、そしてタイム スケジュールを明らかにする。これらを明らかにすること自体が戦略的課題で あり、独自に追求されなくてはならない。

【中央統制経済体制の拒否】
 中央統制経済体制が経済を破綻させ、政治を腐敗させ、文化を奇形化させる ものであることは歴史的に明らかである。中央統制経済体制は組織経営技術の 発展段階からしてだけでなく、創造性を管理統制することは原理的に不可能で ある。管理統制は既知の方法、技術の組み合わせである。創造性は既知の方法、 技術の変革である。創造性は認識と変革の発展であり、支援することはできて も制御することはできない。しかも創造性は先端の専門家だけに必要なだけで はない。定型的作業も繰り返し見直し、改善が図られなくてはならない。社会 活動のあらゆる場面での創造性が、最先端の専門家の人的資源を豊かにし、能 力を育て、発想の機会をふやす。全社会的な創造性が、最先端の専門家の仕事 に反映される。
 部分、分野の主体性があって、その調整として階層的な中央調整機構が必要 になる。階層化した支配機構ではなく、階層的調整機構の組織の中心として中 央の機構が必要である。

【所有形態と平等】
 生活消費財の私有は当然のことである。最終消費は社会制度に関わらず、個 人の生活の実現のための物質代謝であり、社会的に実現することはできない。 社会的に関わるべきことは個人的消費を保障することである。
 土地の所有形態は基本的に問題にならない。土地を所有しても持ち運ぶこと も、消費することもできない。土地の問題は所有関係ではなく利用関係、利用 方法である。法的に私的所有を認めるか認めないかに関わらず、土地利用は社 会的に規制され、保全されなくてはならない。土地の所有関係をどのように定 めるかは、多数決でも、現状追認でも政策的には問題にならない。
 問題は相続である。親から子へ財産を引き継ぐことより、子の財産に対する 所有権請求として相続が社会的公平を破壊している。親が子によりよい環境を 提供しようとすることは当然のことである。しかし、社会的にはすべての子供 の能力が実現できるよう、社会的に保障しなくてはならない。
 金銭的相続が多いからといって、その子がその能力を実現する助けになると は限らない。しかし、金銭的保障は能力実現の可能性を一定保障する。能力実 現の可能性をすべての子供に同程度保障できるよう、社会的調整が必要である。 相続は社会的に制限されなくてはならない。その制限の程度は歴史的、社会的 に決定される。

【戦術課題・現実課題】
 個別の分野、様々な問題ごとに課題がある。実践する運動主体自体の課題も ある。
 戦術的・現実的課題は利害が直接に関係する。政策に支持を求めるときには 多数者に迎合しやすい。しかし戦略の具体化として、他の課題との整合性が貫 かれなくてはならない。
 戦術的・現実的課題は状況によって変化する。課題間の要点も変化する。状 況の把握と課題の見直しは、的確な環境と条件の把握と、より広い範囲の関係 者による検討が必要である。
 いずれにしても限られた資源と人材で期限までに決定し、公表し、支持を集 め実現しなくてはならない。


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