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概観 全体の構成

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第5章 国内情勢

 経済、社会問題がどれほど国際化しても、個々の社会的強制力は国家権力と して存在している。政治経済、社会問題を解決しようとするとき、国家権力を めぐる闘いが重要な結節点になる。政治経済、社会的問題の集約点として国家 権力をめぐる情勢をつかんでおかなくてはならない。

 

第1節 経済情勢

【日本の「繁栄」の要素】
 日本繁栄の源泉は、低賃金長時間高密度労働、海外収奪、軍事費の抑制、産 業政策、社会福祉・社会保障抑制政策である。
 低賃金長時間労働を実現したのは、労働組合運動の弾圧と懐柔、企業社会イ デオロギー、中小零細企業収奪の二重構造、農林水産業の破壊である。
 アメリカ、日本の支配層の思惑に関わらず、戦後の日本の経済成長を実現で きたのは、軍事費が抑制されてきたからである。憲法と平和運動によって、直 接参戦する事なく、経済の再生産につながらない軍事費を抑制できたことが重 要な要件になっていた。アメリカのように先端技術を国防相が管理し、軍需産 業によって開発することがなくとも、日本では民需に応えることで実現できる ことを示してきた。

【高度成長政策】
 高度成長政策は数次にわたる全国総合開発計画に見られるように、産業基盤 を整備と、企業誘致による資本蓄積政策である。その帰結として生活基盤・環 境整備は省みられなかった。産業基盤整備のための幹線鉄道、高速道路網、工 業用地造成等の公共投資、国際競争力重視の補助金、企業減税、技術開発組合 作り等であった。
 産業基盤整備、企業の成長が生活向上であるとのイデオロギー宣伝があらゆ る媒体、機会を利用して徹底された。自然災害は予測できないとして、手抜き された人災であった。都市への集中を放置し、地価の上昇は国土が狭いための やむをえないことにされた。公害は患者を中心とした粘り強い社会運動によっ てようやく認知された。生活基盤、生活環境をよくするためではなく、経済成 長、海外進出がすべての成長政策である。

【産業政策】
 戦前の富国強兵政策は欧米帝国主義侵略の間隙を縫ってアジアでただ一国資 本主義を成立させた。日本資本主義は欧米帝国主義に対抗して発展する条件を アジア侵略に求めた。それ故に大日本帝国は破綻した。
 戦後の傾斜生産方式、高度成長政策、シェア拡大輸出政策は、安保体制下の 低賃金長時間労働、自然・社会・生活環境破壊によって実現された。初期には 朝鮮戦争特需により資本設備の蓄積に有利な条件があった。
 思想的にすら支配する労務管理と労働運動の懐柔、技術革新と相乗的に拡大 する設備投資、寡占化する市場支配、国内産業保護・輸出奨励によって急速な 資本蓄積を実現した。
 税財政は企業活動の優遇・保護のために運営された。産業基盤整備のため、 市場拡大のための社会基盤整備が開発計画として実施された。税金と預貯金を 原資とした補助金・企業減税によって公金のぶんどり合いが行われてきた。地 方自治といえども国の収奪経済計画を保管するために統制されてきた。さらに 公共分野の収益事業化が図られ、民間委託、民営化が行政のあらゆる部門で進 められている。
 産業政策は政策論議の結果採用されたわけではない。官僚によって作成され、 規制と調整、談合によって具体化された。政策の優位性によって日本の世界市 場での地位が実現したのではない。

【経済の歪み】
 生活基盤・生活環境を豊かにせず、市場支配の拡大をめざし、資本の急速な 蓄積を行えば輸出が増えて輸入は拡大しない。国際通貨制度が破綻し、円高が 急速に進む。アメリカの多国籍企業の巨大化、海外戦略の失敗によるドル価値 の低下といった外因では円高は説明できない。
 為替変動によって名目賃金が上がっても生活は豊かにならない。日用品を豊 富に消費できるようになっても、生活時間を豊かにする方策をもてないでいる。
 名目賃金の上昇は国内での労働力依存型の産業に壊滅的な打撃を与えている。 個人ではとても作ることのできない工業製品が数千円、数百円で買えるのに、 個人でも可能な器具の修繕に数万円かかる。工業製品は修理するより買い換え る方が安い。

【日本経済の国際化】
 海外進出、海外収奪すれば日本独自の理念、制度を維持することはできなく なる。
 一方でアメリカ、ヨーロッパとの先進資本主義間の経済摩擦、貿易不均衡が ある。さらにアジア各国の経済発展の追い上げがある。他方で低賃金労働力を 求めての工場移転による産業空洞化、外国人労働者の流入がある。
 経済の国際化の本質的問題は多国籍企業である。アメリカを中心とする多国 籍企業は石油、穀物、種子など社会的物質代謝の根幹をなす資源を支配してい る。日本企業の多国籍化による再度のアジア侵略は、軍事的進出までもめざし 始めている。アメリカの軍事的世界支配と、各国の軍備の高度技術化を当然の 現実とした上で、多国籍企業による市場分割が進んでいる。

【産業空洞化】
 国際比較された日本の賃金水準上昇は、高付加価値産業以外国際競争力を持 てなくなってきている。多様な要求に応じるために国内消費市場に直接する必 要がある産業、高度な加工、組立工程を必要とする産業は国内に分散する。
 高度の、大量の情報交換を行う部門はより集中する。直接的価値生産部門で はなく、価値の運動を制御する部門が集中する。巨大都市への情報集中は、そ れを担う若年層の浪費文化市場の集中をともなう。

【構造再編】
 産業構造の政策的な再編はこれまでも行われてきた。傾斜配分、石炭から石 油へさらに原子力エネルギーへの転換として。
 今日の企業構造の再構築(リストラクチャリング)は産業分野を問わない凡 産業の構造改革である。経営の多角化から始まり、情報化と相まって経営組織 そのものまでを構造改革する。分社化とグループ化であり、経済情勢、状況に 柔軟に対応するための体制整備である。危険負担、企業責任を分散し、必要な 規模での新規投資、不採算部門の切り捨てを容易にする。
 また、公共分野の市場化も進んでいる。医療、教育、福祉すら企業化されて いる。官営の非能率を理由として低賃金労働の利用、受益者負担が普遍化され ている。
 さらに、情報通信システムの発達は、部門間の情報処理を企業間でも直接行 えるよう、共通仕様づくりが進められている(CALS)。部品の規格、在庫 管理、受発注が企業を超えた部門間の情報交換で行われようとしている。

【労働力の弾力化】
 人口構成の高齢化に対応し、年功序列の見直し。人員配置のローテーション と実務につきながらの職務研修(OJT)を通した労働者の選別が、より詳細 に情報管理される。生き甲斐、生涯学習といった動機管理を企業内にとどめず、 社会的基盤の上で社会的価値観の統制として実現されようとしている。企業へ の忠誠心はリストラクチャリングの過程で維持が困難になり、代わる企業への 依存を合理化する価値観の浸透が図られている。
 勤務時間の自己管理(フレックス・タイム制度)、労働者派遣、個人自営業 者化は労働力の流動化を実現し、労働基本権の実質的廃止を実現している。団 結権、交渉権の行使が事実上不可能になってきている。個人営業者化として、 社会保険すら適用されない労働者が増えている。
 雇用形態の多様化はパート労働での選別を経て本雇いへの移行や、パートの ままでの役員への昇格等が行われている。労働の支配は労働者の支配からより 純粋な労働力の支配へと進んでいる。

 

第2節 政治情勢

【日本の政治民主主義】
 日本の政治民主主義は実態をともなったことがない。明治維新、第二次世界 大戦後の政治処理に民衆の参加はなかった。米騒動、自由民権運動、労働運動、 安保闘争、公害闘争の高揚もその後の日本政治に引き継がれる成果を残してい ない。それぞれの成果が民主主義運動の全体の財産とならなかった。
 欧米の民主主義も結局理想でしかない。日本は欧米に比べて相対的に遅れて いるにすぎない。日本の伝統にあった政治手法が制度を動かしてきた。等とし て民主主義を社会の基本として徹底しようとしない。民主主義は義務教育課程 での知識でしかない。
 日本の議会政治は利権取引の場でしかない。選挙は政策論議の場ではなく、 利権取引と投票権の買収が中心である。民主的選挙は表現手段を法律によって 制限され、警察の介入までも伴って規制される。
 国政の長期計画は官僚の手で作成され、国会とは利権によって取り引きされ る。国の政策にしたがって公金、民間資金が投入される。自治体の事業も国の 補助金によって統制される。国の政策に対する影響力が、地方の政治力を形成 する。国の補助金を取ってくることが国会議員の役割になる。見返りに議員は 議席を手に入れる。
 日本の政治を政党、派閥の消長で見ても始まらない。戦前は天皇制、戦後は 安保体制と主権者の意志にまったく関わらない枠組みを当然の前提として勢力 争いをしているにすぎない。天皇制を否定し、安保体制を否定するものは現実 を無視するものとして排除されている。

【政界再編】
 1970年代の民主主義の一定の高揚の後、日本の保守政治の再構築は小選挙区 制導入を画期として新しい段階にはいる。労働運動の保守化、体制内化により 反対制勢力は草の根的に分断され、政治的発言力をほとんど失う状況に至って いる。労働運動、都市勤労者を保守政党に組織するものとして、二大保守党へ の再編成が小選挙区制導入によって実現される。「支持政党なし」層、「選挙 権無視」層の増大は政治の空洞化ではなく、「政治」が政策実現の場ではない 非現実性、無力感の表れである。
 十数年に渡って保守勢力は国家権力を総動員して政界再編という、革新排除 体制作りを系統的に行ってきた。その結果、小選挙区制として民主主義否定の 形が完結する。翼賛体制が実現する。
 しかし、国際化、双方向マスコミュニケーションの発達は、職場を含む生活 の場での民主主義の広がりの可能性をもたらしている。

【政治的監査機構の欠如】
 意志決定の責任の不明確と対になって、点検、監査が行われない。政策の変 更が手続きなしに、説明なしに行われる。もとものと政策決定が根拠を示さず に、スローガンとしてのみ発表されるのであるから、変更の理由を明らかにし ようがない。
 こうした節操のなさを点検・監査する機構がない。公約違反も選挙には反映 されない。マスコミ自体が自己の論説を変節させてしまっては、過去の記録に よって現在を点検することもできない。
 ただかつて革新自治体によって住民参加の制度が実現した。地方自治の一部 では説明会、計画立案段階での意見提出の機会が設けられるようになった。行 政の各段階で住民の意思を反映させ、さらには住民が主体となった街づくり運 動を行政が組織する実践が行われた。しかし、普及することが困難なだけでな く、意義が無視されようとしている。教育委員の公選制ですら後退してしまっ た。

 

第3節 社会情勢

【経済構造からの歪み】
 資本の強蓄積過程からの社会的歪みは、社会のあらゆる分野で問題を顕在化 している。
 職場での搾取強化への動員体制、全社的品質管理運動は価値観までの統制を 伴って、過労死に端的に現れている。不況下での経営再編では労働者一人一人 のふるい分けによる人減らしが行われている。
 不況克服、国際競争を理由とした企業の再構築=リストラクチャリングは、 雇用人員の削減を中心としながら海外調達、流通機構の合理化を進めている。 独占価格支配の崩れとして評価される一面はあっても、価格低下に対応できる のは独占企業である。
 独占利潤の内部蓄積が増大し、過大な退職金引当金、長期負債性引当金、資 本準備金、利益準備金、任意積立金、未処分利益金等として内部留保を溜め込 んでいる。 個人消費は住宅費負担によって限定され、国内市場が拡大しない ことによる不況は、強蓄積、生活無視の経済構造として恒久化されている。経 済力のある個人は個人消費としてではなく、法人に蓄積された富を享受してい る。法人に蓄積された富は流通もせず、交換もされず、特権として少数者に独 占される。
 バラマキ福祉批判の下、生活保障はそれぞれの自助努力が強調され、経済的 余力のある階層に対しても不安があおられ、様々な保険商品が売り込まれてい る。社会福祉切捨ては社会的発言力のない階層の生活を直撃している。
 核家族化、教育の高度化による子供数の減少、人口構成の変化は年金制度の 根幹を弱め、老後の生活不安となっている。

【公害・環境破壊】
 公害運動が社会問題とならなくなって久しいが、公害がなくなったわけでは ない。都市の大気、水の環境は悪化は防いでも改善はされていない。自動車排 ガスもエンジンの改善はされても、より大排気量のエンジンの普及によって減 少はしていない。
 公害発生企業は公害防止に成功したのではなく、海外に移転しよりうまく隠 蔽した操業を行っているにすぎない。公害は地球規模で拡大再生産されている。 公害は国内でなくとも、地球的規模で進んでいる。
 日本は環境保護先進国だの、企業の環境対策技術の優位性などと宣伝するこ とは、公害犠牲者と反公害運動によって勝ち取られてきた成果を、加害者を褒 め称えることにすりかえるものである。風土病として差別され、告発は経済発 展を否定する者、企業活動の妨害者として攻撃されたことを歴史的に消しさる ものである。
 公害の規模拡大はオゾンホールの拡大、二酸化炭素の排出量の増大、気温の 温暖化、酸性雨等として起こっている。

【食品公害】
 食品添加物、有害物質の混入が食品公害の主要な問題である。食品添加物は 大量生産と流通・保管期間中の保存と見栄え等をよくするために使用される。 日々食品を通して蓄積される毒性物質は疫学的に証明するのは難しい。しかも 食品添加物は加工食品として工業化されてからの日が浅い、世代を経て蓄積さ れる毒性自体の判定が確実ではない。したがって疑わしい物質の使用は禁止さ れるべきものであるが、健康保障より経済効率が優先されている。
 規制物質、規制値の設定をめぐって消費者運動と業界の要請との中間値で妥 協を図ることがおこなわれる。特に農産物自由化の問題では、アメリカの要求 によって規制が緩和されるまでになっている。輸入食品には国ごとに規制は異 なり、それぞれの違いを把握して個別に輸入規制を定めなくてはならない。規 制を確実にするための検査態勢も整備しなくてはならないが増員はなかなか認 められない。
 国際問題であり、規制の問題として政治課題として取り上げるだけでなく、 成分・原産地表示要求、産地直送、啓蒙活動等としての消費者運動としても取 り組まれなくてはならない。しかし、輸入拡大、規制緩和の一般論が優先して しまっている。

【農業自由化】
 帝国主義支配の現代世界において、食糧は国の安全保障の基礎である。どの ような巨大な軍事力をもってしても、食糧供給停止の圧力に対して抗すること はできない。基本的食糧生産の自給体制は確保されなくてはならない。にもか かわらず日本の食糧自給率は米の緊急輸入によって40%にまで落ちている。
 政治選挙の利益誘導として補助金のバラマキをしていたのでは、農業自体が 発展しない。農業保護政策ではなく、食糧自給率を高める農業再建策が必要で あるにも関わらず農業切り捨ての方向が強まっている。軍備より食糧安全保障 が優先されるべきである。

【外国人労働者】
 国際化が進展し、世界でも有数の経済大国になった日本が、外国人労働者を 排斥することはできない。また、生活水準の一定の向上は職業選択の偏りを生 じ、失業者があっても低賃金、労働条件の悪い職場では人手不足が起こる。
 日本人自体が破壊してきた伝統、生活習慣で守るべきは守り、人的交流によ って破壊されることがないように人の交流の制限が行わねばならない。アメリ カ文化による日本文化の破壊は進歩として容認し、アジアの文化の進出を拒否 することは、どちらも差別・偏見である。
 文化、治安は外国人労働者を受け入れることのできる柔軟な強さを、意識的 ・制度的に作り出す必要がある。

【エイズ】
 エイズは伝染病の問題にとどまらず風俗、差別、教育、医療の問題として、 深刻な社会問題になっている。
 同性愛、習慣性の薬物注射によって広まり、異性間性交を含め風俗としても 社会環境の基本的問題がある。血液製剤、夫婦間・親子間の感染として特殊な 性関係だけの問題ではなくなっている。
 差別によって患者が隠されて、社会的に根絶できなくなるからといった、防 疫政策を根拠として差別反対運動や、子供への人格を無視した性教育が行われ てはならない。

【どちらもどっち】
 社会問題は単純に正悪に切り分けることはできない。しかし、どちらもどっ ちと現状を消極的なり承認してしまっては解決できない。全体的、本質的問題 を解明し、方策をたてなくてはならない。

 

第4節 文化情勢

【非科学の浸透】
 超能力、霊能力、UFOが科学的非科学として浸透している。不完全性定理、 不確定性原理などの基礎的科学の成果を科学の限界として説明に利用する者が いる。核兵器、生物兵器、核エネルギー利用、遺伝子操作、環境破壊、技術的 大事故を科学技術の存在そのものを否定する根拠とする者がいる。研究者毎に 分断され、共通の用語も定義されていないこと、再現性がないなどの原理的問 題、数値データ等の形式の問題として社会科学、人文科学を科学と認めない傾 向がある。
 将来の生活に対して、健康に対しての不安を、これら科学の状況を利用して 非科学的に解釈する考え方が普及している。旧来の迷信とは異なり、科学的方 法を利用して科学を否定する考え方である。科学の否定は現実と客観的に、主 体的に関わることの否定である。
 マスコミも奇術を超能力として、娯楽番組ではなく報道番組の装いで扱って いる。

【営利活動化】
 文化・スポーツ活動の商業化、営利追求化は内容までも変質させている。
 文化・スポーツが主体的活動ではなく、提供する者と享受する者とに分け、 提供する者はプロ化する。アマチュアはプロフェッショナルの養成段階に位置 づけられ、プロ組織の無い分野はアマチュア自体が金銭報酬を必要としている。 競技、コンテストによる評価は文化・スポーツ活動自体を企業化し、組織的運 営によらなければ成績をあげられなくなっている。
 文化・スポーツの企業化は新しい市場開拓のため、新奇性だけでイベントと して企画される。文化・スポーツ主体者の自己実現の場ではなく、「タレント」 の一時的稼ぎ場を提供しているに過ぎないものが流行させられる。
 アマチュアの競技者でありながら「引退」がマスコミに報道され、女性が結 婚を理由に競技をやめてしまう。プロの営利主義、アマチュアの純粋性、スポ ーツによる精神修養などに関わりなく、それぞれの条件で可能性を拡大してい くことが本来の発展の姿である。
 日常生活の中で、身近で、金銭的にも負担なく文化・スポーツを主体的に行 う環境・条件がなくなってきている。

【マスコミによる情報管理】
 マスコミが現実を創造する。マスコミに報道されることだけが現実として承 認される。報道内容は前提を問うような事はせず、現状肯定、追認になる。
 世論に沿った報道を装い、世論を誘導する。刑事事件では警察発表が、政治 では行政の背景説明が無批判に事実として報道される。
注21
 時に政府の不正をスクープすることはあっても、系統的な政府の世論操作を 暴露するような事はしない。
 テレビ、ラジオ、新聞、週刊誌、月刊誌と媒体によって取り扱い方は異なる べきが、テレビの内容をチェックするのではなく、拡張、繰り返してしまって いる。
 地震等の大規模災害時の報道は一方的に情報を流すだけではなく、救援・復 興活動としてフィードバックの重要な過程を担うものとして位置づけられる。 見せ物としての報道ではなく、それぞれの媒体の特性を生かした対応を、平時 から準備、訓練する必要が明らかになった。災害報道だけでなく、マスコミは 本来社会の主要な情報媒体として位置づけられている。企業論理だけで支配さ れてはならない。
 情報システムの発達は衛星放送、国際的な携帯電話の普及によって情報の流 れを国際的に変えようとしている。アメリカの覇権支配を補完するようなこと にならない立場の確立が必要である。

【マスコミ文化の退廃化】
 テレビジョン、雑誌は日常的影響力の大きな媒体であるが、メディア間の競 争の激化は内容には関わらず、情動的内容、方法に頼る。クイズ番組、バラエ ティー番組で時間帯を埋める。
 性と暴力、スキャンダル、ゴシップが無制限に提供されている。
 報道が娯楽と一体化し、論理的な情報提供が減少し、感情に訴える興味本位 な情報収集、編集、提供がなされる。報道番組すら見せ物化する。情報内容の 社会的価値評価が迎合化し、啓蒙が驕りとして蔑視されてしまう。情報の発信 者と受信者の関係が可喚であるかの幻想を普及し、受け手の反応までが用意さ れて押しつけられる。「市民の声」、視聴者の反応等が類型化され、編集者が 取捨選択しなくとも期待する反応が返るまでに繰り返し訓練されてしまってい る。

【情報媒体の発達】
 情報媒体の発達は凡人の想像を超えるものがある。1960年代に個人がコンピ ュータを所有し、利用する目的・内容があるなどとは考えられなかった。計算 やデータ処理よりも人間とのコミュニケーションにコンピュータの処理能力が より多く使われるなどということは考えられなかった。ライプニッツ以来の人 間の知的能力を拡張する技術の夢が実現しつつある。
 コンピュータ・ハードウエアの重要性よりも、ソフトウエアの重要性、価値 がようやく認知されてきている。しかし、ソフトウエアが扱うデータの重要性、 価値はいまだに問題とされることも少ない。
 それぞれの所でデータが普遍的に蓄積され、相互に参照・検索が可能になる 技術的条件は整いつつある。データの普遍的蓄積・更新と相互参照・検索のシ ステムが動き始めるなら、文化状況は根本的に変わりうる。文化状況だけでな く、社会、政治状況の変革、革命の条件が整う。

【創造活動】
 人間にとって創造活動は自己実現の活動であり、自己の存在を賭す価値が認 められることがある。
 社会的管理機能が普遍化すると、創造的活動の場が制限される。創造性は管 理とは馴染まない。社会活動は相互に調整された、管理されたものとして安定 的に運用される。しかし、創造性の欠如は組織の活性を失わせる。管理された 範囲での創造性が求められる。QC活動、システム開発は組織制度の中で創造 性を管理しようとするものである。
 創造活動は社会的活動から切り離され、個人的活動として社会の基幹的活動 から排除される。社会の基幹的活動分野での創造的活動は反社会的、革命的活 動として敵視される。個人レベルでも創造性への志向を否定する傾向がある。 自然科学、特に工学への進学者が減少している。
 データの普遍的蓄積・更新と相互参照・検索のシステムの上で、創造活動が 実現されるなら変革の条件が大いに整う。


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