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第4章 国際情勢

 人類の歴史の現在の断面が国際情勢である。
 国際情勢は国家権力間の関係、あるいは国際経済状況に限られるものではな い。今日、一国だけが孤立して存続できる時代ではなくなってきている。
 第二次世界大戦前に資本主義による直接的世界の分割支配によって、地球上 の富の収奪競争が普遍化した。国家権力と一体になった資本の直接的植民地支 配は被植民地国の抵抗、帝国主義諸国家間の戦争、帝国主義諸国内の勤労者の 闘い、そして社会主義ソビエトの誕生によって崩壊していった。
 第2次世界大戦後、それまでの被植民地の独立が勝ち取られ、社会主義国の 拡大が進んだ。帝国主義諸国は被植民地国を直接力によって搾取収奪するより も効率的な経済的、政治的搾取収奪手段を発達させた。今日の多国籍企業は国 境に制限されず、より効率的な世界収奪体制をつくりだし、機動的な組織運営 を行っている。
 政治的腐敗と経済の停滞による東欧「共産主義」国の崩壊は国際関係の政治 的障壁を崩した。しかし、冷戦の終結と言われながら、冷戦構造の一方の主要 な柱であったアメリカの軍事、政治、経済、文化的世界支配体制は凡世界的に 拡張されようとしている。
 国際関係も国家間の関係にとどまらず、諸社会関係が国際化し、国家間の関 係だけからは国際情勢は明らかにならない。非政府機関の活動は世界的に広が り、旅行ですら観光コースの用意されていないところを探すのすら難しい。
 今日、資源、生産、流通、消費、交通、通信あらゆる政治・経済活動が国際 的に分散され、統一されている。交通、通信の発達は文化交流を物質的に保障 している。戦争を始め様々な事件の情報が茶の間に即時放送される。
 未来に対する問題として人類、生命の存続、環境問題も含めた世界的現状が 問題になる。環境問題と言っても、環境資源を消費しなくては人類は存続でき ないし、環境を保護するにも経済的対策が必要である。日常生活の物質的基礎 が世界的に相互に依存している。
 今日世界のあり方は人類の問題であり、人間社会の問題であり、生活の、人 間社会の基本構造、基本的運動から見なくてはならない。世界情勢として人類 社会の現状を総括しなくてはならない。
 特に欧米中心主義の判断には注意しなくてはならない。価値判断だけでなく、 情報量自体に偏りがある。自分自身の立場、日本の立場が米欧に引きずられて いる。

 

第1節 人類史の到達点と基本矛盾

【生産力の制御】
 資本主義の生産力は一国内の市場ではまかないきれない規模に膨張し、世界 に進出している。国内市場の大きさは消費水準に対する相対的なものであるが、 個々の商品生産量とその消費市場規模との調整は景気循環によって強制的に実 現されている。需要を上回る供給を可能にする規模にまで生産力は拡大してい る。
 生産力が一途に拡大しなくないのは、消費市場が開拓されていないからでは ない。生産物を必要とする人々がいても、一定の利潤を実現しない市場には供 給されなくないのである。消費に見合った生産がなされるのではなく、利潤に 見合った消費市場がなくては生産されない。
 他方ではモデルチェンジ、新機能の追加、製品寿命の物理的、社会的短縮、 購入意欲を引き出す広告等によって、必要もない消費を生産に合わせて拡大し ている。
 資本主義的生産は消費ではなく、利潤確保が生産を規定する。社会的に必要 とされているかどうかは問題にならない。より多くの利潤を確保するため、生 産を拡大し続けなくてはならない。

【地球環境の保全】
 資本主義は帝国主義的地球環境の破壊を制御できる社会制度ではない。社会 主義国でも公害を、環境破壊を防げなかったからといって、資本主義国におい て公害防止技術、制度が一定程度達成されたからといって資本主義でよいこと にはならない。資本輸出した国においてその環境保全技術、制度を自主的に活 用しようとしていない。それどころか開発を必要とする国、地域の要求をかな えるためと称して、大規模な地球環境の破壊を積極的に行っている。

【社会主義の失敗】
 社会主義国の失敗は資本主義の勝利ではない。人間の知性による社会運営の 一つの失敗であった。人間の知性による社会運営が人間の権力欲、反社会的サ ボタージュに勝てなかったのである。
 人間が社会経済システムを計画的に運営できるまでにいたっていないこと、 自律的に人間関係を社会的に規制できるまでに至っていないことを、社会主義 の失敗は示した。
 資本主義の私利私欲を動機とするのに対し、生活の社会的保障実現を動機づ けにしたのでは経済、技術の発達の速さは遅くなる。社会的生産の訓練、資金、 設備、技術が未発達な地域での社会主義かであった上に、動機づけの弱い社会 では、遅れを取り戻すための政治的強権支配が極端なまでに発達した。
 政治的強権支配は民主主義、自治、主体性の発達を促すどころか抑圧してし まい、強権支配体制自体がついに支配の制御力を失ってしまった。

【社会主義の到達点】
 社会主義は労働時間をはじめとする労働条件の制限を実現した。社会保障を 実現した。一般教育を普及した。医療を普及した。その実質の程度の低さ、制 度的矛盾があったにせよ社会主義が課題として提起し、実現したことによって 資本主義国でも実現してきた。差別されることなく、必要な人すべてが生きて いく上で必要な保障を社会的に受けることができるよう宣言したのは社会主義 である。
 民族の自決権を掲げたのも社会主義である。
 平和、独立、民主主義、基本的人権を掲げたのは社会主義である。だからこ そ社会主義者でなくとも平和を求め、独立を求め、民主主義を主張し、基本的 人権を主張した者は社会主義者、共産主義者として迫害された。
 自由も資本主義の自由は利潤追求の自由であり、社会によって保障される自 由ではなく、個人の力で他人から獲得する自由である。資本主義の平等は機会 の平等であって、偶然による結果の不平等を認めるものである。継承された不 平等を継承する平等である。

 

第2節 世界矛盾の構造

 主要な矛盾がどこにあり、どのように現れているかが国際情勢分析の基本で ある。主要な矛盾がどの様な構造をしていて、主要な矛盾間の相互作用と、そ の現象がどのようになっているか。

【資本家階級と労働者階級】
 資本家階級と労働者階級は相補的に対立している。資本主義成立から発展の 時代は敵対的階級関係にあった。資本主義の成熟にともない労働者階級も資本 の支配に従属するようになってきている。資本主義社会の労働者は資本との関 係から逃れることはできない。農林漁業も市場経済化され、生産設備、原材料、 販売市場を資本に支配されてしまっている。
 しかし、資本自体が所有と経営を分離してきている。他方生産技術の発達、 市場の発達により、労働者は直接的生産労働部門以外の構成が高まっている。 企業経営を被雇用者が担い、労働者が組織的に経営に関与するようになってき ている。情報技術の発達は労働者間の情報交換を可能にしている。情報を独占 することによってその地位を確保していた中間管理職の特権が崩されつつある。 物流も情報ネットワークの発達により合理化されていく。
 資本主義社会での社会人は成年男性だけであった。女性、高齢者、若年者、 障害者は保護されるか、切り捨てられる存在でしかなかった。しかし今日、そ の成年男性労働者すらパート労働者、アルバイト、外国人労働者にとって代わ れれつつある。
 労働者階級が生産管理技術を労働者の組織として実現し、消費者運動、環境 保護運動、人権擁護運動等と結びつくとき新しい社会の可能性が開ける。

【先進国と被収奪国】
 資本主義の矛盾は資本主義国国内でより、被収奪国において集中的に、激し く現れている。それは人道の問題としてしか先進国において報道されない。
 飢餓、環境破壊、戦争は先進国の収奪が主要な原因である。飢餓は旧来の生 活地域を追い出されたこと、戦争による破壊が原因である。その戦争も地域経 済のゆきずまりから民族、宗教対立を理由として起こる。戦争・紛争は先進国 の高度な武器の市場として、実験場として維持されている。
 社会環境破壊により生活地域を未開の地に求め、森林を焼き払い、耕地を砂 漠化させて自然環境を破壊する。
 急速に資本主義的生産を発達させている東アジア等の地域でも、急成長は低 賃金であるから、また生産に関わる社会環境、自然環境保全のための負担をし ないからである。そこでの労働者は、その地の民族資本に搾取され、その上多 国籍企業によって二重に搾取されている。
 「低開発国」の資源は先進国の浪費社会で消費され、産出国の経済発展には 役に立たない。

【社会主義国と資本主義国】
 社会主義国と資本主義国の対立という図式は陳腐化してしまった。社会主義 国は資本主義国との対立という以前に、社会主義国内の経済を自ら破壊してし まった。政治的に自壊してしまった。思想的にも自由主義、民主主義を追求せ ずに破綻した。自らを社会主義国と称する国も、「社会主義」を偽装スローガ ンとして支配体制の正当化を図っているに過ぎない。
 ただし、社会主義が理念としてまったく失われてしまったわけではない。労 働基本権、社会福祉制度、教育・医療制度等、甚だ不十分な機能しか果たさな かったにしろ、その理念と制度を一期に破壊することはできない。

【資本主義国家間】
 国際競争が続く限り、国内的安定はありえない。一旦世界市場を支配しえて も、搾取、収奪をより強めなくてはやがて凋落する。アメリカの自動車産業に のように世界を制覇しても、国内支配のため労働組合運動を懐柔することで国 際競争力を失ってしまった。よりよく搾取、収奪する日本の自動車産業が国際 競争力を持ったことは明らかである。
 資本主義国家間の競争は、国内搾取と国際収奪のバランスをとる事により国 際化せざるをえない。それぞれの企業も多国籍企業化により対応し、世界に進 出している。
 多国籍企業にとって、国家権力は国毎に分割した国内支配、収奪の強制力に 過ぎない。

 

第3節 国際展望

 義務教育課程の社会科等で世界の地理についての知識は提供されている。そ の知識がニュース報道等によって更新されていても、基本的データ、全体的関 連が現実を正しく反映しているとは限らない。ソビエト・ロシアの崩壊のよう に画期的な事件があれば相当に個人の知識の更新が行われるが、漸次的変化が 世界的な変化になっている場合は把握できているとは限らない。基本的データ、 全体的関連の理解は意識的に点検されなくてはならない。
 飽食も、飢餓も作り出す今日の経済制度、地球規模での再生産を破壊する経 済制度を制御する理念、制度、運動を目指さなくてはならない。国際的運動と 国内的運動と個々の運動を整合させた、統一的運動が求められている。
 これは決して資本主義によって達成されることはない。社会主義、共産主義 が示したものが、反人間的なものになってしまった後でも、社会主義、共産主 義の理念、運動を再生しないことには出口は見つからない。

【社会主義の物質的条件】
 社会主義は資本主義の支配の最も弱い所、最も弱い鎖の環が破れるところで 始まった。民族独立を資本主義が抑圧する所で社会主義に向かった。先進資本 主義地域では社会主義革命運動は挫折した。理想がなんであれ経済発展は人間 の意志では制御できず、社会制度の物質的発展段階から離れることはできない。 資本主義、社会主義にかかわらず、大規模工場制機械生産様式を実現するため には、資本の本源的蓄積過程を経なくてはならない。資本の本源的蓄積は資金 の集中と労働者の増大、市場の発展である。資本の本源的蓄積の過程で生産設 備基盤、広範な労働者階級がつくられるだけでなく、生産技術開発、生産管理 技術の基盤が形成されなくてはならなかった。
 社会主義はこの物質的条件をつくりえなかった。党官僚の支配によって技術 開発は軍事に偏重し、労働力の量的活用に偏重した。短期的にそれまでに獲得 した技術によって人工衛星を飛ばしても、自らの技術開発力を社会的に育てる ことができなかった。労働者自身の変革を要求する生産管理技術は、受け入れ られないどころか否定された。
 生産力発展の物質的基礎を制約しながら世界市場に関わり、資本主義と競争 して勝てるわけがない。経済活動をも思想的に統制し、政治的に抑圧して維持 してきた社会主義は崩壊した。

【国際的経済】
 簡単に国際的経済を表す統計には国民総生産(GNP)が使われ、最近は経 済活動の国際化による所得の移転を考慮し国内総生産(GDP)が使われるよ うになってきた。1991年ではアメリカ合衆国が5兆6900億米ドル、日本が3兆34 00億米ドル、ドイツ、フランス、イタリア、イギリスが1兆5200億米ドルから9 600億米ドル、以下カナダの5900億米ドルから100億米ドル以上の国が23カ国 (地域)、それ以下の国地域が80以上ある。経済統計に現れない国と地域がこ のほかに80程あり全部で171の国と地域がある。1993年にはソビエト連邦の崩壊 があって191の国と地域がある。

 アメリカの地盤低下が言われてもやはり圧倒的な力を持っており、続いて日 本が頭抜けた地位にある。しかし、これは一つの統計指標であり、世界情勢の 把握には成長率、人口、面積、地理的な位置、政治関係、宗教等を考慮しなく てはならない。
 社会の物質代謝の基礎である農業生産、石油、石炭、天然ガス、ウラニウム 等のエネルギー産出量と埋蔵量、工業の基礎となる鉄・銅・アルミニウムや希 少金属(レアメタル)の生産・埋蔵量が地球全体の人口増加、経済発展を基本 的に規定する条件となってきている。

 生産技術だけでは資源の限界を広げることはますます困難になり、資源の再 利用、太陽、水素等の新しい資源利用技術が開発されなくてはならない。しか し技術だけの問題ではなく、これまでの物質代謝の社会的方法の変革が必要で ある。ごみの回収一つとっても、すべての人の関わる社会生活のあり方を変え なくてはならない。またこれから経済発展をする地域の資源利用枠と、既に大 量浪費をしてきている地域の資源利用枠の調整がこれから問題になる。

【軍事力】
 軍事力は軍事費、兵器の質量、軍隊の編成によって比較される。
 軍事費は予算計上の方法によって直接比較はできない。直接的軍事費につい ても、どの範囲までを軍事費として計上しているかは国によって異なり、政策 によって意識的に操作されている。また、兵器の性能は金額によって比較する ことはできない。
 核兵器、通常兵器の破壊力と正確性、個別兵器の運用・安全管理まで含めた 整備状況、海外進出力と国内治安対策とのバランスが国によって異なる。
 戦略、戦術が防衛的であるか、侵略的であるかは政治宣言だけでは判断でき ない。これまでの侵略者も、平和実現を口実として戦争を開始してきた。兵力 を海外に展開できなければ侵略することはできない。海外に侵略する戦略を採 るには、海外派兵のための軍備・制度を整備しようとする。

 現在世界を支配しているアメリカは、新たな軍事行動によって侵略する必要 はない。既に侵略してしまっている。新たな軍事衝突はアメリカの支配を動揺 させる。だからといってアメリカが平和勢力であることの証明にはならない。 政治、経済、文化を変革していこうとするなら、アメリカの世界支配を覆さな くてはならない。


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