概観 全体の構成
地球大気の中での酸素濃度の上昇の中で、生命の誕生当初有害であった酸素 をエネルギー代謝に利用する微生物が誕生した。
酸素を利用できる微生物をミトコンドリアとして細胞内に取り込み、この共 生関係が今日の個体の基本的構造になったと考えられている。この結果、酸素 を利用する生物は酸素無しには生存できない。
注43
【ウイルス】
ウイルスはひとつの巨大分子であり、エネルギー生産、タンパク質合成の能 力をもたない。ウイルスは単独では増殖、生育できない寄生生物である。DN AかRNAいずれか一方しかもたず、寄生宿主の細胞内でウイルス自らの部分 を増殖させ、それらをあたかも部品を組み立てるようにして増殖する。
【原生生物】
微生物は光合成をし細胞壁をもつ植物の特徴をもつものと、空間的に運動し、 一定の生長限度をもつ動物の特徴をともにもつものがおり原生生物と分類され る。
原生生物は進化の上で、原始的な細菌と、より高等な真核生物に分けられる。
細菌は藍色細菌(植物)も含め、DNAを1分子しかもたない単細胞生物で ある。膜で囲まれた細胞内小器官がない。太陽光、有機・無機物それぞれをエ ネルギー源とするものがある。
しかし、個体=細胞間での信号授受としてのコミュニケーションが成り立ち、 飢餓凝集を行うなどの生活還をもつものがある。
窒素固定をおこなう生物は細菌の一部だけである。マメ科の植物は根に窒素 固定細菌を寄生させている。
【真核生物】
18億年ほど前に真核生物が誕生する。原生生物としての真核生物は藻類、原 生動物、菌類に分類される。
藻類は光合成をおこなう有機物の第一次生産者である。個体の大きな物は全 長50mにも生長する。
原生動物は単細胞で、光合成をおこなわず細菌を捕食したり、寄生したりす る。アメーバ、鞭毛虫などの種類がある。
菌類は酵母、カビ、キノコなどで光合成を行わず、一般に空間的運動もしな い。酵素を出し有機物を分解して吸収し、有性生殖をおこなうものもある。
生物は生長し、活動することで物質代謝機能を低下させる。多細胞生物では 全体の制御機能も低下する。老化である。これを復活するため、物質代謝を集 中的に高め、分裂し、物質更新を一時に集中して行う。分裂して縮小したもの を回復する過程で、全体の構成物質を更新し、生命の活性を取り戻す。
細胞の分裂は、細胞間の相互関係の基本である。細胞の相互関係の下で分裂 は生殖へと発展する。細胞の相互関係としての分裂は、多細胞生物への進化の 契機として重要である。
生殖は生命活動の節をなす。生殖により個体はそれぞれに生物として区別さ れる存在に分かれる。
生殖により、生命活動は生物個体としての限界を超え、永遠化の可能性をえ る。
生殖は有性生殖へと進化し、遺伝子を交換して進化の各段階を固定し遺伝子 の劣化を防ぐ。有性生殖は性愛と、家族の物質的基礎である。生殖を単に雌雄 一対の関係とだけとらえるのは正しくない。性を備える生物がすべてではない し、性別のある生物でも、雌だけでも子を生む種がある。
自己増殖は生殖によって世代交替となるが、世代交替は遺伝と変異の対立と 統一である。世代交替としての遺伝と変異の統一は種を形成する。
種によって遺伝と変異は実現される。種を離れて個体だけでの進化はありえ ない。
種は世代交替によって、同じ個体を再生するが、単細胞生物ではそのままの 再生である。多細胞生物にとっては、単なる細胞の再生ではなく、細胞組織を も再生するものである。しかしいずれも遺伝子によって再生情報は担われてい る。
種は社会活動の生物的基礎である。
ある程度進化した生物は、一時的であれ、最低限生殖のための集団を作る。 より発展的な種にあっては、育児の為の集団を形成する。より発展的な種では 役割の分担を持つ社会を形成する。
最低限の生殖においても、種によってその程度を異にした社会性を示す。
種は集団生活によって、新たに獲得された生物としての能力を、生物個体の 能力として定着させる。遺伝形質を発展させる。
種は集団性、社会性を発展させることによって、環境への組織的適応能力を 拡大する。組織的適応能力は種の社会性を強める。
社会性の強まりは、個体の集団、社会への生活依存を強める。特に、サル、 アリのように強い社会性を持った種にあっては、集団社会への依存は決定的で ある。雌雄関係ですら、社会関係の中に組み込まれる。
社会性の強い種にあっては、その社会性が個々の個体間の関係に特殊な社会 性を与える。優劣の地位、階層がその著しい現れである。しかし優劣の地位、 階層は名誉欲、権力欲の結果ではない。社会組織とその構成員の生存のための ものであり、欲はその結果として生み出されるものである。
生命は誕生の段階から、環境との相互作用の過程の中で、その運動形態を変 化させ様々な環境へ適応し、地上の普遍的存在になった。
【遺伝子】
生命活動の基本的要素として遺伝子は生まれ、発展した。遺伝子は生命発生 の前提である。地球の歴史時間半ばで遺伝子は生まれた。
遺伝子は進化の過程の中でより発展した生物のものほど情報量が増え、物理 量としても大きくなる。しかし遺伝子の媒体であるDNAが大きくなっても、 そのすべてがその生物に取って遺伝子として機能するものではない。
遺伝子は世代に渡って、同じ形質を再現するだけの物ではない。ひとつの個 体にあっても、個々の器官、それぞれの組織の物質代謝の過程で、同じ形質を 再現する機能を担う。個々の細胞の世代交替においても、日常的に遺伝子は機 能している。個々の体細胞の突然変異も病気を発現する原因になるが、進化に とって意味があるのは生殖細胞における突然変異である。
【遺伝子変化と発現形態】
遺伝子の発展は遺伝子そのものの変化と、環境との相互作用を通じて現れる。 遺伝子の働きの結果である形態、機能と環境との相互作用の過程で環境に適し た形態、機能を持ったものが繁殖する。淘汰である。
遺伝子そのものの変化と生体の形態・機能の変化は、区別して考えられねば ならない。これは進化の理解にとって基本的に重要である。さらに、遺伝子そ のものの変化は、染色体の数と構造の変化としての染色体突然変異と、遺伝子 の内部構造の変化としての遺伝子突然変異に区別される。
注47
【獲得形質と遺伝】
遺伝子によって決定されれ、発現する形質は環境によって変化するが、形質 の変化は遺伝子の変化として定着はしない。獲得形質は遺伝しない。
遺伝子はタンパク質合成を制御する。特定の条件で、特定のタンパク質を合 成する。合成されたタンパク質は合成された生化学的環境に応じて組織を形成 する。その間に生化学的環境は、栄養、有害物質等により重大な影響を受け、 遺伝情報の発現を変化させてしまうことがある。遺伝情報だけで生物の物質代 謝は決定されるものではない。遺伝情報がなければ生体タンパク質の合成はで きないが、遺伝情報によってすべてが決定されるのではない。環境に適応する よう、直接遺伝情報の変化を制御することは論理的に不可能なことであっても、 環境は遺伝情報の発現過程に対しては影響する。
獲得形質は遺伝子を媒介して遺伝することはないが、種の環境、生活の中で 受け継がれる。個体の物質的基礎は遺伝しないが、行動様式等は生活の中で受 け継がれる。
遺伝子も生物体の一部として、環境との相互作用の内で活動する。遺伝子の 変異だけで生物進化がすべて決まるのではない。遺伝子の変異は情報としての 変化・発展ではない。遺伝情報媒体の変異であって、遺伝情報そのものの変異 ではない。遺伝情報は発現して形をなす。同じ遺伝子であっても、発現過程で の変異も受ける。気候、養分等の環境によって異なる形態を生じる。遺伝子の 変異がすべて有効に発現するものでもない。
遺伝子変異がすべて種を分かつほどの変化を結果しない。
【遺伝情報の発現】
遺伝子の情報の発現自体、個体の統一性によって制御される。一つの細胞の 遺伝子は、その個体のすべての細胞の遺伝子と同じ遺伝情報を持っており、そ れでいて異なった情報を発現する。発育の時期により、部分により、あるいは ホルモンなどの制御の下で発現する情報は選択される。
遺伝子は環境による変化に坑して、生物としての恒常性を貫こうとする。
【遺伝子の変異】
遺伝子の変化は進化に対して中立である。遺伝分子の変化は進化過程の物質 的基礎であり、変化を保存するものであるが進化に対して中立である。分子の 変異だけでは進化は問題にならない。進化は遺伝によって固定された個体の環 境適応である。
注48
遺伝は遺伝子によって担われ、形質は遺伝子によって決定されるが、形質の 発現は個体内外の環境によって条件づけられている。個体内外の環境が直接遺 伝子に作用することはない。しかし、漠然とした「圧力」と解釈される傾向が あることも歴史的事実である。遺伝子の変異が中立であるにもかかわらず、進 化に方向があることは、進化は遺伝子レベルだけでは決定されないことを示し ている。それとも、方向性自体の解釈が人間の勝手な解釈だといいきれるのか。 細胞膜の細胞間の結合の選択性において、組織形成の役割が明らかになってい る。遺伝子によって作られる細胞膜の生成時期の制御が細胞膜の相互結合の性 質以上に個体形成過程に決定的なのであろうか。
花や果実は動物環境との相互作用によって進化した。
【進化と退化】
世代交替の全過程は進化と退化の統一過程である。一つの機能の進化は、他 方で退化する機能に対応している。進化は旧適応能力を担った器官の退化と統 一された過程である。進化、退化の過程を通して、種は様々に変位し、特殊化 する。
環境への適応による変異をもたらす世代交替の過程は、適応能力そのものを 発展させる。
適応能力を担う機能の変化が進化である。進化は単なる変化ではない。
【ヒトの進化】
進化は環境適応=特殊化であった。しかしヒトへの進化は特殊化しないこと にあった。ヒトの進化は特殊化としての進化に対立する。ヒトは生理的、動物 的能力として特別な進化はしなかった。唯一大脳皮質を進化させ、環境との相 互作用を制御するようになった。ヒトは生命維持を一般化した。ヒトは生物的 条件によって生命が左右されないように進化した。
個体の内系(消化、調整、神経等)の進化と、外系(運動等)の区別と、人 間の諸能力(認識、実践等)の進化の相関関係がある。
【進化の到達点】
進化は下等なものからの高度化の過程である。下等高等の基準は歴史的なも のである。構造的に下等高等の区分もあるが進化における下等・高等の区分は 歴史的である。構造的に下等な原生生物も進化の基準からすれば、歴史的最前 線に位置づけられる。動物と植物のどちらがより進化しているかなどは意味が ない。進化が環境への適応であるとすれば、今現在の地球環境に適応している 生物種はすべて歴史的に同じ位置にある。
これからの地球環境の変化に対応する既得の位置は平等である。構造からす れば、下等な構造の生物ほど多様化の可能性が大きい。構造的に複雑化したヒ トは環境変化に対して、環境を変革することで対応する。
陸上への生物の進出は植物からであった。
植物によって、その遺体の腐食によって土壌が堆積した。植物によって二酸 化炭素が固定化された。二酸化炭素の固定化によって、太陽エネルギーは、熱 エネルギーから変換されて蓄積された。
進化の中で動物の進化は特別な意味を持つ。
動物の物質代謝は行動によって担われる。
環境に対する積極的な動物の行動は、それ自体、餌生物、捕食者、競争者を 含む生物的環境、そして無生物的環境の変化に対し、その種の存続を最優先に 保証する方向に発展してきた歴史的産物である。
【動物の社会性の基礎】
動物は本質的に依存的存在である。動物は単独では生存できない。酸素、窒 素、タンパク質をすべて植物に依存している。
同一種の集団以外にも共生、寄生等がある。
動物の行動は、その種の集団を一時的に形成し、集団内での相互関係は組織 的になる。動物の行動は、その集団との相互関係を生存の前提にした行動とな る。
特にほ乳類は繁殖、子育てのための社会的関係が発達する。繁殖期以外は単 独で生活している動物も、互いに縄張りを持ち、利害を調節する行動様式を持 っている。
ただし、昆虫社会という場合、その社会は疑似社会である。個体間で分業が 成立し、みつ蜂のように餌や敵についての情報交換の手段を持っているもので あっても、人間などの社会とは異質なものである。
昆虫社会では個体そのものが成体として分化してしまっている。みつ蜂は不 妊である。子を生む女王蜂は特別な餌で育てられ、選別された個体である。生 体として同じ個体同士の共同生活ではない。互いに立場を交替できる社会関係 ではない。質的に発展する可能性を持っ社会は、個体どおし社会的立場を交替 できる社会である。社会構造そのものが変化しうる可能性をもたなければ、社 会は発展しない。
動物全体の相互関係は、植物も含めた食物連鎖にある。この食物連鎖は、基 本的には太陽熱によって支えられている。
地球上の生物が短期間に大量に死滅することが何度もあった。地球規模での 生物種の大量絶滅として恐竜の絶滅の外にもあった。
巨大な隕石の落下等、地球規模での自然環境の激変は、生物の環境も当然に 大きく変化させ、生物種の絶滅をもたらす。
ヒトは動物の進化の過程にあって、その最高の発展段階として現れた。ヒト の進化が最高である由縁は、ヒトのみが環境を意識的に変革することができる ことである。この働きとして、ヒトは道具を用い、ことばを獲得し、知識を蓄 積し、文化を作り出した。
ヒトは生物進化の過程の内で、生物であり続ける。しかし、自然を作り替え、 文化を発達させることで、他の生物とは区別される。
概観 全体の構成