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概観 全体の構成

   目次


第2章 世界の物理的構造

 

第1節 素粒子の物質階層

【高エネルギー領域】
 素粒子以下の階層は高エネルギーの領域である。化学反応エネルギーを超え たエネルギーの運動領域である。
 今日、物質の基本粒子としての素粒子は原子核を構成する陽子、中性子等の 重粒子、原子核を結びつけている強い力をになう中間子、電子等の軽粒子、光 等のゲージボゾンとして4つに分類される。このうち重粒子、中間子はさらに クォークからなる。

【素粒子を構成する階層】
 クオークは重粒子、中間子を構成する。クオークは重粒子、中間子の構成要 素としてありつつ、クオーク間で相互作用し、組合せを変化させる。クオーク は粒子束として実験的に観測できるが、単独の粒子としての分離は理論的にも 不可能とされる。
 クオークは素粒子の内部で結合することによって、他の粒子と相互作用する。
注16
 これらの、物としての存在形式は粒子であり、運動の現れは波動である。質 量、寿命、スピン、電荷その他の量子数によって区別される。これらの量子数 は、基本的な物理量である。
 これら基本的な物理量の場としてグルーオンが考えられている。
 そこでの物質の個々の運動、相互の運動については、物理学の対象であるが、 運動として現れる存在の形式は世界の存在の基礎として世界観の根本に関わる。
注17

【物質の生成】
 世界の物質の構造、宇宙の物質の構造は、クオークから銀河宇宙まで空間的 大きさの階層構造としてあるだけではない。現在の膨張する宇宙は、遠方の銀 河ほどその距離に比例して速く遠ざかっていること。逆算するなら約120〜150 億年前には全宇宙の物質、エネルギーは一点に集中し、その名残は黒体輻射と して観測される。その前はどうであるかは殆ど手がかりはない。「その前」の 存在自体が物理学の解釈の問題になっている。特異点問題として。
 現在の宇宙が集中した一点から現在まで膨張し続ける爆発=ビックバンの開 始時には、当然今日の宇宙の構造はなっかた。ビックバン以来、宇宙の構造だ けでなく物質の構造も歴史的に発展してきている。物質の構造を作り出してい く過程そのものが宇宙の歴史である。
 夜空の星は季節変化を除いて永遠に静的であるように見えるが、観測される 星星、銀河はいま現在も活発に活動しており、目には見えない星間にも膨大な エネルギーと、巨大な運動がある。静的な宇宙はどの部分にも存在しない。
 地球の何倍もの恒星は、ビックバン以来生成消滅を何代にもわたって繰り返 しており、その結果として地球などの惑星が作られている。
 その地球も45億年の歴史を通じ、静的であった時はない。現在も地殻の下は 発熱しており、対流している。地殻もその上で移動し、様々な地殻変動を起こ している。

【エネルギーレベル】
 1億度から100億度で核反応が起こる。
 数百度(絶対温度)から1万度で化学反応が起きる。
 日常生活で人間が関わる物質は、数十種類の原子からなる。例外として、光 (電磁波)、電気などがある。摂氏マイナス数十度から数千度の温度が日常生 活にかかわる温度である。
 分子はその種類によって違いはあるが、地球上の温度、圧力では気体、液体、 個体としてある。この3つの状態は原子間の結合エネルギーの高低で分かれる。
 非日常的な高温では原子の構造が壊れプラズマになる。プラズマは原子核と 電子からなる原子が電子を失った状態である。
 さらに高温では、陽子と中性子が原子核として結びついていることができな くなる。

 

第2節 原子の物質階層

 通常、我々が物質と呼んでいるものは、原子として安定した存在である。
 素粒子、原子は宇宙のすべての領域で普遍的存在である。原子は地上の物質 を形成しているだけでなく、月や、金星、火星をも形作っていることは惑星探 査機によって確認されている。太陽も主に水素原子の核融合によって輝き、質 量をもっている。その他の恒星も太陽と同じ核融合で輝いている。太陽を含め 恒星の大集団は銀河系を形作り、銀河系は宇宙の構造をなしている。恒星、銀 河系、宇宙構造は宇宙開びゃくから宇宙の物質が冷えて、陽子が電子と電気的 に引合い原子構造を形成してから時間的に、空間的に物理的存在として普遍的 にある。

 

第1項 原子の構造

 原子は原子核と原子核をとりまく電子からなる。
 原子核は陽子と中性子が中間子によって結合している。

【原子核の構造】
 原子は基本的に2つのアップクオークと1つのダウンクオークからなる陽子 と、1つのアップクオークと2つのダウンクオークからなる中性子で原子核を なす。
 単独の陽子・中性子の寿命は他の素粒子の平均寿命十万分の2秒以下に比較 し非常に長く、寿命の計測のための実験が行われている。
 陽子と中性子は互いに転化し合う。陽子は崩解して中性子+陽電子+ニュー トリノに、中性子は崩解して陽子+電子+反ニュートリノになる。陽子と中性 子の関係には一方向的な因果関係はない。
 陽子はプラスの電荷をもち中性子は電気的に中性である。原子核の小さな空 間内では電気的斥力よりも強い核力が優位である。電気的に反発するプラス同 士の陽子を結合し、電気的に中性な中性子とも結合する核力によって原子核を 形成する。陽子間、中性子間、陽子中性子間は強い相互作用を媒介する中間子 を互いに交換することで原子核として結合している。中間子は反粒子の対をな す2つのクオークからなっている。
 原子は陽子の数が同じでも、原子核を構成する中性子の数は一定ではない。 原子核内の中性子は陽子とほぼ同数であるが、一種類の原子でも中性子の数は 幾種類かがある。中性子数の違うだけの原子は同位体として、化学的性質は同 じであるが安定性に違いがある。
 陽子1個は水素の原子核である。原子核はそれを構成する陽子の数によって 他の原子と化学的に区別される。陽子の数で原子を構成する電子の数が決まり、 原子の化学的性質が定まる。
 原子の種類は陽子の数によって百余種類である。陽子数の多い原子核は陽子 2個のα線を出して陽子数の2つ少ない原子に変わる。中性子が陽子に変わる ことによって電子であるβ線を放射し、陽子数が1つ多い原子に変わる。この 原子核崩壊の最には電磁波γ線も放射される。

【原子の構造】
 原子核はその陽子の数によってプラスの電荷をもち、対応するマイナスの電 荷をもつ電子と結合する。原子核と電子は電気的に互いに引力がはたらき、電 子の回転運動による遠心力でつり合っている。原子にあって電子は原子核の大 きさの10万倍の大きさの空間を運動している。
 電子も量子でありその位置は時間と同時には決まらない。軌道といっても惑 星の軌道とは異なり原子核の周囲の確率的に存在する範囲として決まり、電子 のエネルギー状態の違いとして軌道は区別される。
 原子核の周囲の電子はその電子のエネルギーと、電子の数によって区別され た運動状態をとる。電子のエネルギーと軌道半径は量的に比例せず、軌道半径 は不連続的に定まる。電子のエネルギーに応じて電子軌道の大きさ、形が異な る。電子自体の運動状態(磁気方向、回転)によて電子は互いに区別され、同 じ軌道に同じ運動状態の電子は存在できない。軌道毎に占める電子の数は決ま る。一つの原子の電子の軌道内に他の原子の電子が入り込むことはできない。 電子の占める軌道空間が殻としてあり、原子は他の原子に対し空間として独立 している。電子軌道まで核力は及ばず、陽子と電子によって原子は電気的に中 性であり、電子の運動状態による排他性により原子は他の原子に対し独立して 存在する。
 電子軌道の電子数の制限は、数の法則としてだけでなく、他の電子を入り込 ませない物理的力となって現れ、原子の空間的構造を維持し、他の原子との空 間的区別としてある。
 原子内電子はその運動エネルギーを光として吸収、放射して電子軌道をかえ る。

 基本的に電子の数は原子核の陽子数によって決まり、軌道配置も決まる。基 本的に内側の軌道から電子は配置される。軌道毎に定まる電子の数と陽子の数 が一致すると原子は電気的に最も安定である。他の原子と電子による相互作用 がなく化学的に不活性な原子である。
 最外殻の電子はその軌道を安定させるように配置される。軌道毎に定まる電 子の数に対する最外殻の電子数の過不足は、原子の性質となって現れる。最外 殻の電子が1個の原子はその電子を失いやすく、陽子の電荷によってプラスの 電気的性質を現す。最外殻の電子がその軌道の電子定数に対し1個少ない原子 は、他から電子を取入れマイナスの電気的性質を現す。この電子の授受によっ て原子同士の結合分離が行われる。

 

第2項 原子の運動形態

【核融合、核分裂】
 原子核の結合は陽子と中性子の数によって異なり、核子数60個程度が最も効 率的である、小さな結合力で安定する。
 60個より小さな原子は結合してより大きな原子になり不用になった結合エネ ルギーは外部に出る。核融合エネルギーである。
 60個より大きな原子はは放射線を出して別の原子核になる。放射線はアルフ ァ線、ベータ線、ガンマ線の3種類ある。アルファ線はヘリウムの原子核であ る陽子2個である。ベータ線は電子、またはその反粒子である陽電子である。 ガンマ線は波長の短い電磁波=電波である。小さな原子に崩壊する過程で余分 になった結合エネルギーは、放射線とエネルギーとして外部に出る。核分裂エ ネルギーである。

【原子間の結合】
 陽子の数に対して電子数が同数になると原子は電気的に中性になる。電子軌 道毎に電子の定数があり、軌道の定数に満たない電子の配置の原子は不安定で ある。軌道の定数に一致する電子配置の原子は他の原子と電子を仲介とした相 互作用をしない。
 軌道毎の電子の定数の過不足は原子を不安定にする。最外殻の電子の定数と 電子の過不足数は原子の化学的性質と密接な関係がある。原子は単独ではイオ ン化しない。
 互いに電子の過不足を補い合う電子数の関係にある原子間の相互関係が化学 結合である。互いに不足分の最外殻の電子を対にして共有することによって安 定した電子配置をとる関係が共有結合である。電子を共有することによる電子 配置は、単独の原子よりも安定した状態になる。互いに同じ種類の場合も異な る種類の場合もある。共有結合する原子の種類が異なると共有された電子の片 寄りによって、片寄った電子のマイナス電荷と原子核陽子のプラス電荷による 極性が現れる。
 互いに電子を出し合って共有結合するのではなく、一方が電子対を提供し、 他方がその電子対を受け取って双方の原子が電子対を共有して結合する場合を 配位結合と呼ぶ。
 互いに異なる種類の原子が最外殻の電子の過不足分を補い合い安定した電子 配置をとり、電気的にプラス・マイナスのイオンとして結び付く関係がイオン 結合である。
 電子配置により不安定な原子は、結合して分子として安定する。

【元素:原子の性質】
 元素の区別は原子核の陽子と中性子の数と組合せからなる原子の区別である。 原子の種類とその量と組合せ、組合わさり方によって様々な物性、物の性質が 現れる。
 原子は陽子数によって質的に他と区別されるが、陽子数に応じた電子の軌道 上の配置によって化学的性質が決まる。陽子数がより少なく、最外殻の電子数 がより満たされている原子はより非金属性を現す。逆に陽子数が多く、最外殻 の電子数がより少ない原子は金属性を現す。
 電子軌道の電子数が満たされ、化学反応をしない元素は気体として単独で存 在する。この希ガスである元素は不活性ガスである。
 最外殻の電子軌道の電子数によって周期律表に分類され「族」としての性質 の規則性を現す。

 

第3項 原子の階層性

【原子の物質階層】
 原子の物質階層は素粒子と分子との間にある。
 素粒子の階層は陽子と陽子、陽子と中性子を結びつける強い相互作用が運動 の担い手である。陽子と中性子の互いへの転化は弱い相互作用としてのβ崩壊 である。
 原子は素粒子一般とは比較にならない安定性がある。陽子そのものの寿命が 長いのであるが、原子核を構成する中性子は核子として、原子核の中で陽子と 相互転化し単独の中性子よりも長くある。
 原子は素粒子の運動のより発展的形態である。
 原子は素粒子の運動に対して相対的な自律性を持っている。
 原子は化学的作用では分割できない最小単位である。化学的相互作用は、原 子を単位とする結合分離作用である。

【原子の階層内の階層】
 原子自体が均一の運動形態ではない。周期律表も階層をなしており、いくつ かの族が陽子数によって分類されて繰り返し現れる。同じ元素でも、中性子数 の違いがある。
 電子軌道は電子のエネルギーと電子の数によって区別される。電子はこの軌 道間を光を出したり吸収したりして移動する。

 

第3節 分子の階層

【微視的世界と巨視的世界】
 原子以下の物質世界は微視的世界として、分子以上の巨視的世界と区別され る。巨視的とは微視的に対しての大きさで我々から見ての巨大さではない。分 子自体一般的に肉眼で見ることはできない。
 微視的世界と巨視的世界は単に大きさの区別ではない。物質の運動形態が異 なり、微視的世界では量子力学の法則として存在も、運動も現れる。巨視的世 界では古典力学の法則にとして物質は存在し、運動する。微視的世界での存在 は確率分布として現れ、エネルギーは連続してでなく離散的価をとって変化す る。
注18
 分子はこの微視的世界と巨視的世界の境の階層にある。
 日常的に対象になる物質は、大部分分子からなる。もちろん光、電子といっ た例外はある。日常的物質の多様な性質、現象は、分子としての存在・運動を 基礎にしている。

【物質不滅の法則】
 微視的世界では質量とエネルギーが相互に転化する。電子と陽電子が衝突す るとエネルギーに転化する。真空中にエネルギーが局所化すると電子と陽電子 が対になって現れる。
 巨視的世界では質量が保存され、エネルギーがその形を転化する。原子は化 学変化によって原子としての性質を失うことはない。
 運動エネルギー、位置エネルギー、電気エネルギー、化学エネルギー、熱エ ネルギーは相互に転化し、全体のエネルギー量は変化しない。
 化学反応はエネルギー変換の場である。電子の運動として分子レベルでのエ ネルギー形態は相互に変換可能である。エネルギー変換の媒体として分子があ る。

 

第1項 分子の構造

【分子の構造】
 原子は陽子と電子の数が同じになることによって電気的に中正となって安定 する。
 他方電子は電子軌道ごとに決まった配置数があり、不活性ガスと同じ電子配 置の場合が安定する。
 この原子の電気的安定性と、電子配置の安定性の矛盾が化学的に結合する分 子の安定性を実現する。電子配置に不足する原子は二元子分子として安定して 元素としての性質を現す。水素、酸素、窒素など2つの原子が結合した分子と して存在する。2種類以上の元素に属する原子は新たな性質を獲得した化合物 となる。

 分子構造の構成要素として、地上では百種類強の元素が発見され、作られて いる。これらの元素には中性子数の異なる同位体が存在する。金属、非金属、 希ガスは、元素のおおまかな区分である。分子を構成する元素の種類、組み合 わせ構造によって分子の性質が区別される。化学反応は元素の種類と構造の変 化を区別する。

【無機物・有機物】
 炭素を原子結合構造の骨格とする化合物が有機物であり、地球生命の基礎的 物質である。有機物は炭素、水素、酸素、窒素、硫黄、燐、塩素等のわずかな 種類の元素からなる化合物である。炭素は正四面体状に共有結合の手を4本も っており、その化合物は立体的にも多様な組み合わせが可能である。この炭素 と水素の結合の組み合わせによって有機分子構造の骨格が作られる。
 有機物は原子の結合順序と、分子を構成する原子の数の違いによって多様な 性質をもった化合物になる。同じ元素であっても、その原子の結合の構造によ って異なった化学的性質をもつ有機物が作られる。
 有機物は宇宙空間にも普遍的に存在するが、人類の技術史の中では無機化合 物ほど容易には合成できなかった。
 無機物は有機物に比較し単純な構造である。

【高分子化合物】
 有機物を構成する原子の数が数十個以下の低分子化合物は骨格としての炭素 と水素の結合の仕方に基本的な形がある。この炭素、水素の一部に代わって結 合する官能基とよぶ分子が結合する。官能基も構成する元素によって有機化合 物の特性を現し、分類される。
 こうした低分子の有機物がその組成のまま連続して結合し、重合体を作る。 基本となる低分子有機物のうち水素と酸素が水として取られて重合反応し、ポ リ縮合反応する。
 数百から数十万の原子からなる重合体が高分子化合物である。

 

第2項 分子の運動形態

【個体・液体・気体】
 分子は熱エネルギーによって存在形態を変える。熱エネルギーが最も小さい 状態では分子としての運動をしない。極小のエネルギー状態を温度で絶対0度 とする。摂氏マイナス273度である。低温環境で分子は、全体としても運動しな い固体−固相となる。固体の温度が上がると分子は位置をかえずに運動する。 位置を変えない振動は固体全体の熱エネルギーとして現れる。固体の温度上昇 により分子は固定された位置での運動から移動する運動へ変化し液体になる。 固体から液体への融解には物質毎に異なる融解熱を必要とする。温度は供給エ ネルギーに比例して上昇するが、相を変える際に温度は一定のまま内部エネル ギーを高める。
 固体表面から直接分子が気化する昇華もある。
 液体から気体への相の変化の場合にも、沸騰が起こり蒸発熱を必要とする。

【分子の物理的運動】
 分子間の引き合う力と、水分子のように構成する原子間の電荷の片寄りによ り電気的に引き合う力で粘性が現れる。
 単独で運動する分子は空間を移動し、互いに衝突する。液体中で眼に見える 大きさの粒子が有れば、液中の分子が方向、速度ともランダムに粒子に衝突し 粒子を突き動かす。液体が全体として静止していても、その分子は常に運動し ていることを見ることができる。
 気体分子は常温常圧の環境で数百メートル毎秒の速度で運動し、衝突し合う。 気体分子の運動エネルギーは全体として圧力として現れる。温度圧力に対応し て空間内の気体分子密度は分子の種類に関わらず一定である。

【分子の化学的運動】
 分子は常温、常圧の環境で安定して存在する。
 分子は互いの内部エネルギーを持って存在している。互いの内部エネルギー が化学反応を行うまでに高まると反応し、新たな結合あるいは分解する。化学 変化の後の分子の内部エネルギーは反応前よりも低くなる。エネルギー差は反 応熱として出ていく。

【化学反応の方向】
 化学反応は合成にしろ、分解にしろ個々の反応過程には反応前の物質と、反 応後の生成物がある。この個々の反応過程では原因と結果が区別される。しか し、一般的に化学反応は双方向的=可逆的である。個々の反応過程は逆の反応 過程と対の関係にある。全体の反応過程は個々の反応過程の平衡に向かって進 む。全体の環境条件が変化した場合、新たな条件の下での平衡に向かって化学 変化の過程は進む。
 また、生成物が反応系外に出たり、逆反応の速度が遅い場合に不可逆的な過 程に見える。
 化学反応は内部エネルギーの増減と、それによって他の形のエネルギーに変 換した仕事量の和としてエンタルピー量として測られる。また、秩序のある状 態から秩序が崩れていく過程を数量的に現したエントロピーの増大化との関係 で化学変化の方向づけがなされる。
 エンタルピーが減少して、かつエントロピーが増大する反応は発熱反応とし て最も起こりやすい。エンタルピーが増大して、かつエントロピーが増大する 反応は吸熱反応として自然には起こりにくい。発熱反応でエントロピーが減少 する、あるいは吸熱反応でエントロピーが増大する反応は、エンタルピー、エ ントロピーのどちらかの変化量が大きいかで反応方向が決まる。

【反応速度】
 化学反応でのエネルギーの増減は内部エネルギーによって定量的に決まって いる。したがって、反応物の構造、温度、濃度が一定の場合、ひとつの化学反 応の過程の速度は一定である。反応速度を変化させるには環境を変化させる。
 直接的な化学反応の過程とは別に、触媒が作用する間接的化学反応によって 反応速度が変わる場合もある。触媒は反応過程に作用するが生成物には影響を 与えない。主たる反応物と反応したりして、主たる反応過程での反応部位での 接触をしやすくするなどして反応を速める。
 生物体内では触媒は酵素として生理化学反応過程を媒介するが、酵素なくし て生物の生理活動は維持されない。

【離散系の構造創出過程】
 通常の化学反応は活性分子の衝突か、触媒を介しての結合、解離として反応 過程は単独でおこる。反応過程が複数平衡し、一方の反応結果が他方の反応過 程の前提となったり、条件となったりする場合二つの反応過程全体は加速され る場合もある。
 しかし、反応過程が時空間的に構造をつくる場合がある。相互に依存する反 応過程が閉じた系である場合は、反応は振動をする。振動する化学反応は色の 変化、模様の変化を描いたりする。化学平衡が一方向的に進んで均衡条件で静 止するのではなく、平衡状態が変化し、あるいは循環する。

 

第3項 分子の階層性

 分子は原子を構成要素とする存在である。原子内の電子の運動によって分子 は互いに化学反応をする。電子は移動の過程で光を吸収したり発したりする。 陽子と電子の電磁気的作用によって他の素粒子と相互作用することもある。分 子はこれ以外の何物でもない。
 この様な物として、分子は原子の運動形態の発展的階層をなしている。
 同時に物質一般の運動形態の発展的として生物の物質的基礎をなしている。

【分子の物理的階層構造】
 原子は分子として化学的性質を現す。分子は化学的相互作用の基本単位であ る。
 分子は単なる原子の寄せ集めではない。分子間の結合は原子内の電子の配置 状態によって決まる電磁気的作用として秩序づけられている。
 分子は分子そのままの単位で結合する場合と、化合した単位で構造物を作る 場合がある。有機物は後者として運動形態の発展の基礎になっている。

【生体分子】
 地球の生物は二酸化炭素と水を太陽光のエネルギーを利用してグルコースを 合成する植物によって生体分子を供給している。
 20種類のアミノ酸を鎖状につなげ、組み合わせることによって生体を構成す るそれぞれの種の、それぞれの組織で必要とするタンパク質を合成する。
 生体内の化学反応は酵素の選択性と触媒作用によって制御される。
 分子は生物体の物理的構成要素であり、生物の運動エネルギーの存在形態で ある。地球の生物体は蛋白質と脂質を分子材料としている。
 タンパク質の合成は遺伝子を構成する核酸の塩基配列をアミノ酸の配列に写 し取ることによる。
 脂質は脂肪酸とグリセリンからできた化合物である。
 植物は窒素と太陽エネルギーによってデンプンを合成する。動物の活動エネ ルギーはアデノシン三リン酸として保存、供給され、分解することによってエ ネルギーを取り出す。

【生体構造】
 生体膜は内外の物質を選択して通過させ、濃度差を作る機能をもっている。
 進化した生物は生殖により個体を再生産し、生命を持続させる。
 生物はその構成物質を物質代謝によって更新することで生体を維持する。

【生物の物理的環境】
 生物は物理的環境に適応するだけではない。生物は物理的環境を変革し、生 物的環境を創り出した。
 地上の酸素は生物の光合成によって単離された。植物によって地球は還元型 大気から酸化型大気へと変わり、動物の効率的なエネルギー代謝に適した環境 を作りだした。また、酸素は鉄イオンを酸化させ水中に沈殿させた。酸素は上 空にオゾン層を作り、地上への紫外線の透過を防いでいる。サンゴ等は二酸化 炭素を炭酸カルシュウムに変え石灰岩として固定した。
 このように生物は地球環境を変革してきた。

 

第4節 物体の階層

 分子の階層における個別の分子レベルを超えた階層である。
 個々の分子ではなく、分子全体として、個別の物体としての運動階層である。

 

第1項 物体の性質

 分子は構造をつくることで物質としての性質を現す。
 気体、液体、個体も構造自体のありかたの違いである。
 混合することによって、あるいは分離することによって構造を作る。構造を 変化させて運動する。
 金属分子は互いに結合して結晶を作る。
 タンパク質の構造は複雑な構造と、個体としての運動をつくる。

【結晶】
 分子は規則的に並んで化学結合することで結合エネルギーを小さくする。並 びの規則性が結晶構造をつくりだす。結晶構造の違いによって同じ構成分子で あっても物質としての性質が異なる。炭素はダイヤモンド、黒鉛、フラーレン といった結晶をつくる。
 結晶構造はその格子関係をずらすことによって全体を変形させる。
 結晶構造内に少数の他種の分子を組み込んだり、置き換えることによって硬 さ、粘り、電気的性質を変える。
 ウィルスも結晶するものがある。(タバコモザイク・ウィルス)

【金属、半導体、絶縁体】
 物体の中の電子の移動のしやすさには違いがある。巨視的世界での電子の流 れは電流として現れる。原子の外側の電子は結合している原子間を動き回るこ とができる。電場がかけられると電子は一方向に動き、全体の流れができる。
 外側の電子配置が共有結合した構造では、外側の電子は両原子にまたがる軌 道に局在し、移動することができない。電流を通さない絶縁体である。
 絶縁体に不純物の混じった結晶は不純物の電子をもつが、通常は原子核の電 荷によって移動することができない。しかし、電場がかけられると不純物の電 子は移動できるようになる。これが半導体である。

【現象の複合】
 個々の存在は単純でも、大量に集まると複雑な運動が起こる。波、渦などは 運動の速度によってもその形は異なる。ゆっくりな流れは整然としているが、 速度が次第に速くなると乱流に変わる。全体の運動の質的変化は個々の運動体 の運動によって担われるが、個々の運動体の相互作用には規定されない全体の 運動がある。その組み合わせである気象はさらに複雑である。
 個々の要素の相互作用の組み合わせだけでなく、全体の状態が個々の相互作 用に対しても作用する。

【超流動、超伝導】
 極低温ではヘリウムは運動抵抗がなくなり、運動が液体の運動として現れ、 容器壁を超えたり分子間の隙間をすり抜ける。
 極低音では電気抵抗もなくなり、電流は無限に流れ続ける。
 これらは量子力学的効果の巨視的世界での現れである。

 

第2項 物質循環

【全体の運動方向】
 物質は多様であるが単独では存在しない。相互に作用し合い、相互に転化す る。エネルギーは均一化の方向性をもち、秩序は無秩序への方向性をもつ。
 物質の内部エネルギーだけであるなら、発熱反応としてエネルギーは外部に出されエンタルピーが減少する。一定の容量では化学反応による熱は内部エネ ルギーの差に等しい。圧力が一定であれば体積が変化し、体積変化は仕事のエ ネルギーとして取り出される。全体のエネルギー変化は内部エネルギーと取り 出された仕事との和として減少する。
 物質間の規則性を保つエネルギーは乱雑化し、エントロピーを増大させる。

【個々の運動方向】
 全体の運動方向にそいながら、個々の運動は方向づけられる。
 地球環境での物質循環は、太陽エネルギーと地球の内部エネルギーを源とし ている。
 太陽熱によって地表の温度は変化し、大気を動かし、水の大気循環、海流の 運動エネルギーを供給する。地球の内部エネルギーはマントル対流を起こす。 地球の自転エネルギーは大気、海流に方向性を与える。
 生物は無機物から有機物を太陽エネルギーによって合成し、生体を構成する。 太陽エネルギーは糖と油脂として、生物エネルギーとして生体系に取り込まれ、 食物連鎖を通して循環する。
 人間は自然の物質循環を変更し、循環過程そのものまでも破壊しかねない。

 

第3項 信号

 個々の化学変化の過程では選択性はない。化合は活性状態の分子間の衝突に よって起こる。生成過程全体では多種の生成物があっても素反応では一つの反 応があるに過ぎない。
 分子列を酵素が分断する場合も蛋白質と酵素が衝突した位置のどこでも反応 することはない。分子列の特定の組合せの位置に酵素が結びついたときに蛋白 質の分子列は分断される。合成に際しても単位となる蛋白質の特定部位同士が 酵素を媒介して化合する。この直接的反応過程では信号は問題にならない。
 信号は情報の物質的基礎である。情報として機能する物質過程が信号である が、同じ物質過程であっても、情報機能が実現されない過程は信号ではない。


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