続き 第二部 第一編 第2章 世界の物理的構造

戻る 第二部 第一編 物質の構造

概観 全体の構成

   目次


第1章 物質の基本構造

 物質は構造と運動が問題になる。構造は運動の形式である。運動は構造の内 容である。物質は存在の現象形態である。物質存在の現象の形式が構造であり、 内容が運動である。
 物質の構造と運動は、同じ条件では同じ構造、同じ運動をする。同じ環境条 件では宇宙のどこでも、いつでも一定である。宇宙の物質の構造と運動は一様 である。
注7
 ただし、運動の現れ方は一様ではない。運動がすべて宇宙の始まりから決め られたとおりに現れはしない。1月後の天気は決定されていない。

 

第1節 物質の性質

【物質の形式】
 物質の存在形態は運動である。運動は時間と空間を基本的な形式としている。 運動は全体の関係として構造をなしている。構造は空間と時間によって表現さ れる。空間自体が物質の存在形式である。物質の存在形式は宇宙である。
 物質の運動は物質一般の内部構造である。物質一般の構造は物質の運動とし て現象する。現象した運動によって物質一般の内部構造が認識される。物質の 基本的構造は物質の運動形態であり、全体の存在形式でもある。

【物質の普遍性】
 孤立した運動、孤立した物質は存在しない。原因と条件が同じであれば同じ 物質、同じ運動が現れる。物質の運動には再現性がある。しかし、再現性は同 じ環境条件の下で、という条件がつく。そして、環境条件自体も対象を含む物 質の運動の場である。
 物質から切り離された存在はない。すべての存在は物質の運動によって媒介 されている。より発展的な物質の媒体であるより基本的な物質ほど空間的、時 間的に普遍的存在である。普遍的なより基本的物質に媒介されて、相対的に特 殊な、より発展的な物質の存在がある。

【物質の等方性、一様性】
 物質は個別として現れるが、全体と別の存在ではない。物質の個別的存在自 体が、全体の中に位置づけられる。全体性を捨象した理解は現実の理解を誤ら せる。
 それぞれの部分にあって、どの方向でも同じ法則が成り立つ。この等方性は 部分の他との関係についての性質である。
 どこにあっても等方性が成り立つということは、互いにそれぞれの部分は一 様性をもつ。一様性は全体の部分との関係についての性質である。全体は一様 性をもち、そこでの部分は普遍性をもつ。宇宙論にあっては「宇宙原理」と呼 ばれる。
注8

【物質場】
 場は空間にそれ自身として存在する。観測されるかどうか、観測可能である かには関わらず。相互作用として現れる実体である。
 物質は場の現象形態であり、現象する場のあり方が物質である。
 広がり、延長として空間を占め、相互に不可入な物としての物質は相互に区 別される場であり、場の特殊な現象形態である。
 物質場が部分的に閉じて個別の運動が現れる。物質の内部空間の自由度とし て、個別の性質が規定される。内部自由度として個別は他と区別される。
 個別に対立する外部空間としての全体的関係が一般的物質場である。個別に とって一般的物質場は外部自由度として規定される。
 場は連続しており、場のあるところが、場のあるときが世界である。場は平 面ではなく、自由度を次数とする時空間である。

【物質の連続性・逐次性】
 物質は空間と時間によって他と区別されて現れる。物質空間、物質時間は連 続している。物理現象として物質は個別的に、ランダムに現れるが、その現れ は相互に連続している。連続しているから光も、重力も伝わる。
 区別される部分の運動は逐次的に伝わり、中間を飛躍する遠隔作用はない。 場の現象形態として物質の作用は近接作用である。一定の時間と空間的つなが りを順次たどっていく。
注9

 物質の作用が近接作用であり、光速を限界とし、光速を超えた速度では伝わ らない。光速度で互いに離れている物質間では作用が伝わらない。光速度で互 いにはなれている物質間では互いを観測することはできない。観測できなくと も、互いに存在する。いずれ作用が現れる場合でも、作用が伝わる以前にあっ ても互いに存在する。
注10

【物質の対象性】
 物質は運動体であり、相互作用の対象をもち、相互作用の対象である。対象 性をもたないものは運動せず、存在しない。
 対象性はひとつに他によって作用される、他の対象になる性質である。これ は他と一様な存在であることの現れである。これは逆に他を対象として運動す ることによって存在していることを同時に意味する。
 また、対象性は自らを対象化する性質である。他から、他と区別する存在は、 他の存在を自らの形式に取り込み、自らを異化する過程である。他としてある 対象を自己化し、自己を対象化する過程であり、同時に自己を異化し、他とし ての対象にする過程である。
注11

【物質の対称性】
 運動形式の部分の入れ替えの可能性が対称性である。形式の一部分を相互に 入れ替えても、全体の形式に変化のない性質が対称性である。
 完全な対称性は混沌である。混沌はすべてが、どの様な位置、どの様な時間 に位置づけられても全体に変化はない。
 全体の運動の対称性が破れることによって、部分が個別として区別される。 個別の性質は対称性の破れ方によって決まる。

【非可逆性:時間の方向性】
 自然科学の特色として、可逆性、再現性があげられる。しかし、可逆性、再 現性のいずれも、部分として成り立つ過程である。条件を同じに設定すること によって再現性は実現する。条件、実験なり、観察なりを繰り返す条件を同じ にすることは困難である。より全体的な運動ほど環境条件の再現性は制限され る。
 物理現象であっても、現象の条件をより広い全体に位置づけるなら、再現性 や可逆性を保障できない。そもそも現在の宇宙の膨張過程が一方向性を持って いる条件のもとでは。
 すべての運動は秩序づけられたエネルギーの解放として、無秩序へ向かう。 部分的に秩序が形成されても、その秩序を形成する以上のエネルギーが秩序の 形成に消費される。
 全体の運動が方向づけられている。全体がこの方向に逆行することはない。 これが時間の非可逆性である。

【物質の歴史性】
 非可逆性として宇宙、物理現象も歴史性を持っている。個々の過程では可逆 性、再現性はあり、だからこそ法則が成り立つのであるが、全体としては歴史 性をもった運動過程である。
 物質の運動形態、存在形式自体が歴史的に進化してきている。人類は生物進 化の成果であるし、生物は化学進化の成果であるし、原子も核融合の結果とし て生成されてきた。

【物質の認識】
 観測・測定も自然過程の一部分である。測定は対象自体の問題ではなく、対 象と測定者との関係の問題である。具体的に位置の測定を例にとる。

 ごく一般的に位置の測定は対象の発する、あるいは反射する光を測定者が直 接見ることによって、あるいは測定装置を用いて光を何等かの位置情報として 主体が認識することである。光が測定媒体である。大ざっぱに対象の光との相 互作用、対象からの光の空間との相互作用、光と測定装置の相互作用、測定装 置と測定者の相互作用、これら相互作用の連関として、対象と主体の相互関係、 相互作用として測定の関係がある。
 測定者が直接関係しえる、働きかけえるのは測定装置である。測定手段の運 動状態を情報として、測定者が認識することが対象の測定である。対象と測定 手段との相互作用は測定者からは独立した過程である。たとえ、光が測定者に よって意識的に当てられたものであっても、対象と光との相互作用に測定者は 介入できない。
 測定は対象と測定装置が相互作用しても、引き続いて対象が存在し続けるこ とが前提である。対象は測定の作用を受け、影響される。
注12
 情報は常に過去の情報である。対象から情報媒体への転化の過程、情報の認 識の過程を絶対に経なければならず、えられる情報は過去のものである。
 誰も現在自分の考えていることすら知りえない。常に自分の過去に考えてい たことしか知りえない。

【運動の現れ】
 個別の現象と、現象の全体とは異なった様相で現れる。個別の運動過程は偶 然によっていても、全体の過程は必然的な現象として現れる。
注13

注14
 光は「干渉するから波である。」「一つの点として観測できるから粒子であ る。」、いずれかの結論をだすことはできない。この推論で用いられている概 念は、日常的経験からえられた概念でしかない。
 物質の粒子性・波動性の問題は、物質がどちらであるかではなく、粒子性・ 波動性の二律背反的な理解に問題がある。物質は粒子あるいは波動として現象 する存在なのである。
 従来確認されてきたことに矛盾する結果がえられた場合、まずはその再現性 を確認する必要がある。さらに結果のえられた過程を再点検する必要がある。 相補的な関係にある条件を変えて、対称実験をする必要がある。ひとつの事象 からだけ論理的に結論を出せるほど我々の論理は確実ではない。
 従来確認されてきたことに矛盾する事実が確認されたなら、既知の理解、理 論を再点検する。従来確認されてきたことは新たな事実以上に確認されたし、 新たに確認することもできる確かなことがらである。従来確認されてきたこと と新たな事実とを矛盾させる理解・理論を明らかにし、拡張すべきである。従 来確認されてきた理解・理論を打ち捨てて、新たな理論を構築するのではない。

 

第2節 物質の運動形態(相互作用)

 物質の相互作用は宇宙の「ビックバン」以来、対称性の破れとして、次々と 別れ、現れたと考えられている。

【物理的相互作用】
 物質の存在形態を決める相互作用として重力、強い相互作用、弱い相互作用、 電磁気力の4つが区別される。
 重力は引力として経験される。重力は離れていても作用する遠隔力であり到 達距離は無限である。他の相互作用に比べて小さいが、相互作用の規模が大き くなると基本的な力となる。宇宙全体の運動、構造を決定しているのは重力で ある。
 強い相互作用は陽子と中性子とを、原子核として結びつける力である。相互 作用として最大の力であるが、原子核の大きさの範囲でしか作用しない。核分 裂、核融合によるエネルギーは強い相互作用の現れである。
 弱い相互作用は原子核内で陽子あるいは中性子が、より安定した陽子、中性 子の組合せへ変換する時に現れる。核力に比べて小さく、到達距離は原子核の 直径より短い。
 電磁気力は磁気、電気的作用として経験される。原子同士の結合力として分 子を形成し、化学変化を規定する。

 電気力と磁気力は17世紀には電磁気力の2つの違った現れであることが明 らかにされた。電磁気力は弱い相互作用と同じ力、電磁弱相互作用としての違 った現れであることが明らかになった。さらに強い相互作用との統一、重力と の統一理論が探求され、宇宙の歴史的発展の力として理解されている。

 素粒子の運動の特徴は、種類が多いこと、相互に転化し合うこと、時間と空 間が相対的関係にあることである。
 波動としての運動形態と粒子としての運動形態は、同じレベルでの異なった 現れ方である。波動は、確率の分布としての現れであり、粒子は、時間を捨象 したときの位置の運動である。
 相互作用を区別できる最小の時空から、銀河集団の連なりとしての宇宙まで、 素粒子レベルの運動が基本である。しかもその運動はとどまることなく激しい。
 相対的に安定した物質の存在構造が原子である。時間的に空間構造が安定し ている。素粒子である陽子、中性子、電子の安定性が基礎にあるが、中性子の 寿命よりも原子は安定な構造としてある。

【化学的相互作用】
 化学変化は原子の構造によって現れる電磁気的力の相互作用が基本である。 原子核と結びついた電子の運動、この電子と相互作用する光が日常的物質世界 の基礎である。原子分子の運動は世界の構造として現れる。
 原子、分子は物の構造として世界の存在構造の基本である。原子、分子の運 動は相互に作用するが相互作用の過程は継起的で、循環する場合も繰り返しに とどまる。
 運動の方向性は宇宙全体の規模での膨張、エントロピーの増大、物質の階層 の発展として現れる。

【生物的相互作用】
 生物の生理的運動、物質代謝は、化学変化の生理的統制として現れる。生物 個体間の相互作用は食物連鎖、生殖を経ての世代交代としてあり、生態系の変 化として現れる。
 生物の運動過程は循環が基礎であり、循環の繰り返しにとどまらず、循環の 過程を制御する過程に生物の質がある。
 運動を制御する運動が継起的に関連するだけでなく、存在構造として組織さ れることに生物の特徴がある。
 生物の運動の方向性は個体の生理的代謝過程として、個体の時空的運動とし て、個体の生長として、進化として現れる。
 生物の活動は活動環境を生物的に変革している。大気の酸素分子は生物によ って単離され、太陽エネルギーを石炭、石油として固定した。

【社会的・文化的相互作用】
 ヒトの相互作用は、相互に依存する社会化された物質代謝として、生産関係 の変化として現れる。ヒトの物質代謝は社会的生産関係なしに維持されない。 ヒト個人を存在させているのが社会性である。ヒトの利用する物質はすべて社 会的関係に取り込まれる。水や空気ですら浄化されなくては循環しなくなって いる。
 社会化された精神の相互作用は文化として現れる。
 人間の相互作用、人間が生きること、生活することは、これらすべての相互 作用として実現されている。
 社会的・文化的方向性は意志として現れる。社会的・文化的方向性の基準は 価値として固定される。

 

第3節 物質階層の概観

 原子の構成単位としての素粒子は、人間が直接認識し、働きかけることがで きる最小の単位である。この素粒子の認識とは実験による認識であり、理論的 認識ではさらにクオークが対象となっている。
 科学の歴史的過程で素粒子は、不可分と考えられていた原子に構造があり、 その構造を担う物理的存在として発見された。原子の構成要素としての陽子、 中性子と電子が光や宇宙線粒子と区別され、素粒子として分類された。
 しかしその陽子、中性子にも構造があり、これらを結びつける核力を担う粒 子にも構造があることが発見された。

【素粒子の階層】
 素粒子は、質量、寿命、スピン、電荷等により区別される質があり、相互作 用が量子数として関係づけられる。
 電荷をもつ粒子と、その逆の電荷符号をもつ反粒子とがある。反粒子どうし が結びつくと、そのすべての質量がエネルギーに転化し粒子としての存在形態 は消滅する。逆にエネルギーは空間的に集中すると粒子と反粒子の対として質 量を持った存在に転化する。
 陽子、中性子は強い相互作用によって結合し、原子核を構成する。強い相互 作用=核力は単独では素粒子の一種である中間子として現れる。
 原子核と電子は電磁気力によって電気的に結合し、原子を構成する。陽子の 数としてのプラスと、電子の数としてのマイナスの電磁気力が一致すると原子 は電気的に中性になって安定する。
 宇宙で素粒子は原子よりも普遍的運動形態である。恒星は核融合によるエネ ルギーでその存在を重量に抗して維持している。宇宙に存在する原子、分子は その存在自体が恒星の内部での核融合によってつくられた。

【原子の階層】
 陽子の数によって原子の性質に違いがあり、元素として分類される。金属と 非金属、そして希ガスの違いは陽子数の違いに対応する電子のうち、最外側の 電子数の違いによる。
 元素は単体の陽子である水素原子から、核融合によって結びつく陽子の数を 増やす。元素の種類は存在としても、発見としても歴史的に増えてきた。逆に 鉄よりも陽子数の多い元素は、存在に必要な運動エネルギーを失うとより陽子 数の少ない元素に崩壊=分解する。
 電子は原子の電気的性質を担う。電子を失ったり、取り込んで電気的中性が 破られると、イオン化し化学的に活性化する。

【分子の階層】
 原子は互いに結合し分子を作る。一般に原子は分子の形で存在する。分子は 同一の原子の集合からだけなるのではなく、様々な質的に違う原子の組合せし かも、また同じ原子の空間的組合せによっても異なった物性を現す。
 特に、結合の多様性を実現する炭素を含む有機分子は地球生命の基礎になる。
注15
 有機分子であるアミノ酸は無機分子から作られる。アミノ酸は地球上だけで なく、宇宙に普遍的に存在する。アミノ酸はタンパク質を構成する。タンパク 質は脂質と共に生物体を構成し、タンパク質自体の相互作用をになう酵素をも 構成する。
 タンパク質、脂質とは別に、有機塩基、糖、リン酸から構成される高分子化 合物としてのDNA,RNAがアミノ酸の結合順序を保存する遺伝子としてあ る。

【生物の階層】
 生物は基本的に細胞構造をもつ。細胞は一つの細胞から、生体を構成しなが ら役割を分担し、機能分化する。
 生物はタンパク質、脂質、核酸を物質的基礎とし、それらを組織化した物質 の運動形態である。それらの物質単独の運動とは異なる相互依存、全体を自己 として組織化する運動形態である。
 生物は生物としてあり続けるため、対外との相互作用をし、生体の保存と、 運動のために必要な物質を取入れ、不用な物質を排せつする。生体の保存と、 運動において、環境との相互作用を生体の構造として組織化する。全体の相互 作用を調整するホルモン、神経系が発達する。
 生物は物理化学的運動法則からは独立した運動の場を地球上に作り出した。

【社会の階層】
 生物から進化したヒトは、生物としての生活の場の中から、ヒト相互の関係 を相互依存的な、社会として組織した。
 人間社会は社会生活をするヒト、および社会に取り込まれた物を存在の物質 的基礎とした物質の運動形態である。物質は個体の新陳代謝として物質系と直 接の相互関係にとどまらず、生産物として社会的物質に加工され、物質系から 社会の中に取り込まれる。
 社会的物質代謝は経済活動として組織され、社会の価値体系の骨格をなす。

【文化の階層】
 環境に主体的に働きかける中で道具を利用し、道具を作り出し、環境の変化 を予測し、対応を準備する能力を発達させた。認識、実践能力であり、物質的 には大脳の発達、言語、論理である。
 ヒトの社会性と環境変革能力の発達は、精神を発達させた。精神活動までも 含む物質階層として社会組織内に文化を創造した。地球上では物質は文化まで 発展してきた。文化は人間社会を存在の物質的基礎としている、物質の最高に 発展した運動形態である。

 物質は、このような階層構造をなして運動している。どれも物質の運動であ り、基本的な物理的運動である。しかし、物理的運動だけでなく、物理的運動 がより組織化された、より発展的な運動形態もとる。物質はこのような階層構 造をなして存在している。物質の階層構造をなす存在が実在である。


続き 第二部 第一編 第2章 世界の物理的構造

戻る 第二部 第一編 物質の構造

概観 全体の構成

   目次