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第三編 反映される一般的世界

第三編の始めに

 世界を反映するものとしての人間存在、特に意識の存在論である。
 人間原理の批判であり、人間の物質的基礎から最高の運動形態としての意識 と、その機能についてである。
 意識の機能には、反映された自然法則としての論理を含む。

【今、現在という時刻、瞬間の認識】
 認識はすべてのもの今、現在を知りえない。身の回りのことであっても五感 で感じていることすべてを今、現在自覚できない。胃の中の食物がどの程度消 化されたか、大腸内の発酵がどれほどのガスを発生したか知りえない。今、現 在、世界で何が起こっているかを、アメリカ大統領ですら知りえない。今現在、 太陽のコロナの形を天文学者も知りえない。
 特別にできあがった観測体制がなくては対象を知りえない。観測体制があっ ても、過去の出来事の結果を知りえるだけである。物理的時間としての今、現 在の物事を知ることはできない。
 「今、現在」と「知る」ということは、世界観にあっては物理的観測の意味 ではない。世界全体の構造の理解と、その構造内の各過程の進み具合いから全 体の状態を推測することが知ることであり、その時点が今現在である。

【実在の総括】
 世界の存在は「実在」として総括される。この世界観では世界のすべての存 在は実在として一つの世界を成していて、すべては実在として他のすべての存 在と関連し、世界の一部分をを構成している。
 実在の中にあって、実在を反映するものとして主観がある。実在の歴史的過 程の中で、実在の人間の誕生・成長の過程の中で、主観が形成される。しかし 主観は一方的に、受身的にだけ形成されるのではない。主観として実在を反映 する主体の生活過程にあって主観は形成される。主体の生活・成長過程での積 極的、存在に対して双方向的に作用し合うことによって形成される。

【実在過程と反省過程】
 この実在における主観の位置づけを改めて検討する。主観の側から改めて主 観の存在を検討する。
 主体としての実在にあって、実在としての人類、人間として生まれ、成長し てくる主観の成立過程を実在過程と呼ぶ。この過程は個別科学の成果によって 後づけることができる。実在として実在からの反映過程である。
 実在過程と反省過程は相補的過程であり、一方だけが単独では存在しない。
 成立した主観が主観自体を反映し、反映の中に実在と主観自体との関連を跡 づける過程を反省過程と呼ぶ。主観の自覚的認識過程である。
 主観の成立は主体としての生活過程であり、主体の対象として実在は客体と して関係づけられる。
 主体の対象である客体は、主観にとっては客観として反映される。客体は主 観の内に反映された客体である。

【客観的存在】
 客体の反映としての客観存在は、実在の存在形態だけにとどまらない。存在 形式は実在の形式でありながら、内容を伴わない形式は実在しない。数、幾何 学図形、論理は実在の形式である。数だけ、幾何学図形だけ、論理だけの存在 は主観に反映された客観の存在形式として存在するのであって、実在そのもの としては存在しない。客観的存在ではあるが実在ではない。
注136
 客観を通してみた実在が客体である。
 主観と客観は主体の内にあって相対的である。
 主体は実践によって客体の実在を客観として取り込む。
 主観は実在からの反映像を、客観との対応関係の中に位置づけることで、対 象を客観化する。

蛇足31

 これらの反映の総過程を、個々の過程をたどるのが「第三編 反映される一 般的世界」である。

【物事】
 日常的に「物」と「事」は区別される。一般的に「物」を理解することより も、「事」を理解する方がむずかしい。「物」は単独の存在であり、「事」は 「物」と「物」との関係、変化、運動であり、存在は形式においても固定して いない。
 しかし、物理学が明らかにしているように、物質自体の存在が日常的な「物」 の存在とは異なり「事」である。
 物質の発展として現れた人間が、そのような世界を認識するには物理学の認 識を踏まえた上で、「物」と「事」を区別し日常的な「物体」、「マクロ物質」 を定義する。
 「事」は虚ろいやすく、「物」はより不変的であるようにも思える。物質の 安定性はより基本的物質の方が安定であるように思える。熱力学でもエントロ ピーの増大法則として秩序は次第に壊れ、すべての変化、区別が消滅する方向 に進んでいる。
 しかし、個々の存在はより発展的な物質の方が安定であることを示している。 クオークは陽子、中性子としてより安定である。原子は分子としてより安定で ある。生物は絶え間ない物質代謝によって、個々の物質代謝過程に対してより 安定である。人間の意識は、個々人のありようによらず、文化として安定であ り、普遍的ですらある。
 個々の存在は、より発展的階層において普遍的、不変的である。より発展的、 あるいは「超」、「メタ」においてより安定である。


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