概観 全体の構成
職域では属する職域の社会的位置づけが基本である。
就職する時だけではなく、実務に通じてからこそ仕事の持つ社会的位置を考 慮しなくてはならない。社会的物質代謝の中で何を担っているのか。社会的物 質代謝として、どの様な機能を実現しているのか。どのような自然的、社会的、 経済的環境にあるのか。
個々の労働者にとって、担当する作業から仕事の全体を展望することは難し い。しかし、全体を見ないことには疎外された労働の克服の道も見えてこない。 仕事を超えて社会的物質代謝全体、社会全体の視点から仕事、作業を見ること で労働の全体とのつながりを理解する手がかりがえられる。
仕事の指揮命令系統の意志とは別に、社会的物質代謝の視点から評価するこ とによって、職域内部から社会的責任を点検することができる。自らの仕事に 根ざした現実的、実際的問題提起ができる。内部告発としての形になっても 「営業上の秘密の漏洩」「組織の名誉棄損」との言いがかりをこえて問題提起 をする必要がある。労働者連帯の義務でもある。新しい社会を主権者として築 く者の訓練でもある。
職域は今日企業化されている。農業においても個々の耕作者は独立している 場合であっても、流通は企業におさえられ、耕作も協同組合によって管理され ている。
企業としての職域の情勢を分析する。企業活動そのものは資本主義生産であ るかに関わらず、社会の物質代謝の単位組織である。社会的物質代謝の基礎単 位組織として職域を分析する。
【産業情勢】
農業、水産業、林業、鉱業、エネルギー、建設、製造、運輸、通信、情報、 流通、金融、サービス、教育、公務等産業分野は分類目的に応じて多様に分類 される。
それぞれに社会・経済主体として運動し、政治的に、文化的に機能している。 それぞれに社会・経済全体の構成部分として一様に発展してはいない。国民経 済全体の構造の変化による、技術の発展による、国際経済運動によるそれぞれ の変化がある。
企業規模の大きさによっても、社会的機能が異なる。企業規模の比較は資本 金、取扱高、労働者数等の指標により違いがある。しかし、個々の企業の規模 別分類は指標によらず同じ傾向である。
企業間の関係は資本関係、資金関係、人的関係が経営、歴史的に相互関係、 競争関係にある。戦前の財閥は企業集団をなして継続し、新興勢力を含め三菱、 三井、住友、芙蓉(富士)、三和、第一勧銀の6大企業集団として日本経済を 支配し、多国籍企業化してる。また、トヨタ、日立、松下、新日鐵等の系列グ ループが日本独特の独占体的組織を形成している。他方で、新産業分野では独 立した企業が存在する。
これらの具体的数字は政府統計、民間組織の統計、民間調査機関の統計とし て公表されている。個々にごまかしはあっても、立場は違っても一定の現実を 反映している。解釈を鵜呑みにすることはないが、数字は利用して客観的な情 勢分析データとして利用しなければならない。
【経済的情勢】
景気変動は産業分野を越えて経済の運動を基本的に規定している。一産業の 技術革新による生産力の拡大も、景気の動向によって全体に受け入れられて加 速する場合も、受け入れられず減衰する場合もある。全産業の相互作用として 景気変動が実現しており、本質は資本の再生産過程における過剰生産とその解 消、資金蓄積と投資のバランス変動である。
経済が国際化した今日では資本投資は国内に限れず、海外投資、企業の海外 進出が行われている。輸出優先の貿易は為替変動として、国際間の賃金格差を 作り出し、低価格商品の輸入を拡大する。国際化は生産、貿易の問題としてだ けではなく、労働者の雇用、賃金の問題としても直接的に影響がある。
教育、医療、軍事、公務等の分野であっても経済の動向は関係する。社会的 価値生産に直接関わらない分野であっても、経済は社会の運動の基礎でありそ れぞれの分野を支えている。
【社会的歴史的情勢】
企業は単に経済活動だけをしているのではない。社会的物質代謝を担ってい るのであり社会活動の主体でもある。社会に対して良くも悪くも作用している。 当然にその活動について社会から注目されることになる。企業活動一般につい て、分野に関わることとして、個々の企業として。労働時間の短縮、過労死、 TQC、政治資金、談合、公害、企業ボランティア(メセナ)、OA、情報ネ ットワーク、リストラ等、社会的に、歴史的に何が問題になり、問題になって 行くのかを情勢として捉えなくてはならない。企業活動の弁明のためではなく、 企業活動の社会的責任を果たさせるために。
属する企業のそれぞれの問題に関するデータの整理が基本になくてはならな い。自分の属する組織が社会的に問題にされる前に問題を把握しておかなくて はならない。少なくとも問題が提起されたときに、何が問題であるかが理解で きなくてはならない。
実際には管理職でありながら、問題を把握できない者がいる。職制にあって 組織から与えられた情報を流すだけの管理職には問題把握の能力は育たない。 社会・経済・政治的動向を基準にして、自らの職を批判的に検討する訓練をし ておかなくてはならない。
経済状態はもちろん、企業環境、企業責任、各専門の技術、一般的技術、経 営技術について日常的学習・訓練が必要である。自らの職についての一定の見 識を持つことが管理職の責任である。
一般労働者であっても、自らの職を奪われることもありうる。その時になっ て組織の責任を追及してみても取り返しはつかない。労働者が社会の主人公に なることをめざすのであるなら、労働者自身が属する企業、産業の情勢を把握 する訓練が必要である。労働者は管理職のように情報を独占したり、競争の手 段とする必要はない。労働者は情報を共有し、組織的に運用することのできる 立場にある。
【職階】
職階は企業組織の基本である。職階は本部、支社、部、課、係、班等、産業 分野により、規模により、企業によって様々な分担と階層からなる。
企業組織の情報収集、意志決定、意志伝達は職階をとおして運営される。事 業も職階として組織される。予算も職階に対して配当され決算される。職階の それぞれが機能することを前提に、企業組織の運営が計画される。
しかし、現実には職階を担うのは具体的な人間、職制であり、様々な能力、 問題をもっている。優秀な人材だけを集めるなどということは極特殊な場合だ けである。また、組織が事業、環境に適していない場合もある。決定と統制が 現実の職階としてどの程度目的を実現できているかが職階としての情勢である。
【職階ごとの情勢】
職階ごとに事業管理と課題管理が問われる。事業そのもの執行管理と、事業 を推進・展開していく上での課題実現が問題になる。事業そのものの執行管理 はどの企業組織でも意識的に行われている。うまく実現されているかは常に問 題にはなるが。しかし、課題管理は見落とされていることが多い。
事業環境の中での、事業主体としてのそれぞれの職階の位置づけの明確化が 第1の課題である。それぞれの職階に求められていることが組織の長に認識さ れていること。職階の構成員にどれだけ理解、徹底されているか。ことばによ る通達だけでは明確にできない。日常の個々の事業執行過程で具体化され、繰 り返し確認されることによって徹底される。
第2に事業の推進・展開の上での到達点、問題点が職階によって把握されて いること。環境条件、制度、手段、人員配置における問題がそれぞれの担当で 把握されていなくてはならない。問題のない職場などない。問題の発見、担当 部門への提起、解決のための取り組みの日常的訓練によって実現される。制度、 手段、人員配置はその時になってから対応したのでは間に合わない。
特に人員配置は機械的な異動ではすまない。基本的なローテーションに基づ く人事と、問題に対応する質、量の人事、人材を育てるための人事が計画的に 実行されなくてはならない。
一般の労働者にとっては自分の属する組織においてこれらの課題管理がどの 程度実現しているかによって、それぞれがどのように評価されているかがわか る。課題管理は職階活性化の基本的手法である。
【労働者の職場生活】
労働者としての主体的取り組みなくして、労働者の生活、権利を守ることは できない。労働者はサボることではなく、労働することによって自らを実現で きる。労働者のあり方はいくつかの類型が考えられるが、意識的に型にはまら ないことで自分を回復できる。
求められるままに、積極的に現状の企業活動を推進する。自らの能力ではな いのに関わらず、仕事の実績に自己満足する。職階が下の者は指示に従うこと を当然と考える。自らの仕事が企業活動に貢献するものであると信じ込んでし まっている。
何も考えることなく指図されるままに仕事をする。指図されたことができれ ばよいが、できない者もいる。努力さえすれば、仕事が完遂されなくとも責任 を果たしたとする者がいる。一つ一つの過程のすべてを指図しなくてはならな い者がいる。
批判的態度は取るが改善のための主体的活動には参加しない。批判的ではあ るが、生活の価値追求を企業活動以外に求める。どのような職場であっても、 問題は必ずある。問題は数え上げても意味はない。それぞれを全体の中で評価 し、解決しなくてはならない。
労働者の主体的活動に敵対し、妨害する。コミュニケーションを妨害し、偽 情報を流す。職制に周囲の者、労働者組織の情報を報告する。別の運動を組織 する。
労働者それぞれの生活の型があり、時と場合によって変化がある。自戒する と共に、先輩・同輩を批判し、後輩を指導しなくてはならない。
【職種、職層組織】
組織である以上指揮命令系統は不可欠であるが、他方に処遇の問題がある。 矛盾なく運営ができる組織が理想であるが、現実には矛盾に対応できる組織運 営がめざされる。
それぞれの職制はより上位の職階に就く名誉、より大きな職権を行使するこ と、職階によるより大きな報酬を得ることをそれぞれの割合で目的にしている。 彼らの目的には応じるべきで、代わりに彼らには競争をしてもらい、その職務 を遂行できなくなったら職から離れてもらわなくてはならない。職層に応じて 相当に高額の報酬を保障すべきである。職を解く時でも一般の労働者の賃金相 当は保障する。彼らの手に入れた職階がかれらの独占物でないことを、社会的 にも明らかできる社会をめざさなくてはならない。
職階に関わる生きがいとして職制としての競争する生活を取るか、互いの生 活の相互扶助の上での自己実現をめざすか。どちらも必要である。
【労働組合関係】
個々の労働者の抱える問題を、職制と労働組合とどちらがより把握している か。個々の労働者が問題を抱えた時に上司に相談するか、職場委員に相談する かが力関係の指標である。
職場委員を配置できるか、職場委員が職場に責任を持ちうるかは労働組合の 力量である。職場委員の質の問題であり、職場委員への教育、援助の問題であ る。
職場委員が職場の問題を把握できていること。職場で受けた問題を組織的に 対応できること。全体の問題を職場に報告できること。職場委員が職場での支 持を維持・拡大できること。職場委員の後継者を育てられること。これらは個 人の資質ではなく、組織運営の基本である。
これらの課題を完全に実現することは非常に困難である。一定程度実現でき たとしても、維持することも困難である。しかし、これらの課題があることは 最低限職場活動家の合意にしておくべきである。
職域の情勢分析は職制との力関係と、労働組合の組織状況が基本である。そ の上で、地域・産業情勢が関わる。
概観 全体の構成