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第二部 第一編 物質

第3章 物質の歴史


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第3章 物質の歴史

宇宙は星空の日々巡る単調な世界ではない。宇宙は137億年前から膨張し、極微から宇宙全体にわたる構造を作り出してきたダイナミックな歴史がある。われわれは、日々1回転する地球の上に生活し、その地球は太陽の回りを1年で回る。太陽は銀河系の中を2.5億年で回る。銀河系は他の銀河と相互に運動しながら遠ざかり、銀河どうし時には衝突さえする。[0001]
われわれの身体も恒星の核融合で作られた元素と、星の爆発によって作り出された元素によって作られている。地球も太陽が燃え尽きる時には太陽の膨張に呑込まれると予測されている。物質の生成と消滅の大循環を伴う宇宙の歴史がある。[0002]
宇宙は時空間一体のものとしてある。遠くの星、遠くの銀河の観測は、その遠い分だけ昔のそれを観測している。観測する近くの構造は現在に近い空間構造であるが、遠くの構造は過去の構造である。近くから遠くへの空間的連続は時間的遅れを伴った構造である。[0003]


第1節 宇宙の起原

【ビックバン】

この宇宙の起源は「標準モデル」として考えられている。宇宙は137億年前の「ビックバン」に始まる。ビックバンにより宇宙の秩序は破れ始め、宇宙は膨張して温度が下がり続ける。膨張が重力秩序を破るゆらぎを生じる。重力の対称性が破れて強い力の相互作用が現れ、原子核が形作られた。さらに弱い力の相互作用、電磁相互作用が現れた。さらに膨張し、温度が下がることによって原子核に電子が捉えられることによって、電磁波=光が電子に妨げられることなく飛び回ることができる様になり、宇宙が晴れ上がった。宇宙の秩序、対称性は破れることによって、より低いエネルギーレベルでの多様な秩序、対称性を作り出してきた。全体としての秩序の破れは部分的秩序の形成として現れてきた。[1001]
「ビックバン」の前についての問題は可能性の推論の段階である。われわれが問題にすることのできる時間は物事の前後関係、運動の経過であり、「ビックバン」は前後関係も、運動の経過もない。運動が「ビックバン」から始まり、時間も「ビックバン」から始まった。今のわれわれの理解している時間を基準にして「ビックバン」以前を考えることはできない。[1002]

宇宙の開びゃく、ビックバンの証拠として、3つの観測事実がある。宇宙の膨張、水素・ヘリウムの存在比、背景輻射である。これらの発見によって「ビックバン」が支持されている。そしてビックバン理論に依拠することで、存在の全てを統一した歴史の中に位置づけることができるようになった。[1003]

【宇宙の膨張】

宇宙は膨張しており、より遠方の銀河程速く遠ざかっている。時間を逆に過去をたどれば一点に集中する。膨張は銀河や地球、人、分子、原子等の膨張ではない。重力によって引き合う空間全体の膨張である。したがって、光の速度を超えるインフレーション膨張もありえる。[1004]
銀河系内の距離は地球の年周視差によって測れる。近くの銀河までの距離は含まれる恒星の進化の段階ごとの色から実際の明るさがわかり、見かけの明るさとの差によって距離がわかる。遠くの銀河までの距離は、明るさが週、月単位で周期的に変化するケフェウス型変光星の観測による。ケフェウス型変光星はその全光量と変光周期長が比例する。観測できる光量と変光周期から実際の発光量が分かり、ケフェウス型変光星を含む銀河までの距離が計算できる。その他に銀河の形と明るさ、超新星の最高の明るさが一定であること、重力レンズを通した見え方の変化等多様な恒星、銀河間の相関関係により推計値はより確かになる。[1005]
銀河の遠ざかる速さは光の赤方変異によって観測される。速く遠ざかるほど光の波長は長くなり、赤い方へずれる。音の場合と同じで遠ざかる物からの波は波長が長くなる。色だけでは全体にずれるので、ずれの大きさは測定できない。元素固有の光が吸収される波長の位置は決まっており、その位置のずれとしてスペクトル・パターンのずれが観測される。こうして遠ざかる銀河の相対的速度が計られる。[1006]

【水素・ヘリウムの存在比】

水素・ヘリウムの存在比は宇宙で一定である。「ビックバン」当初の高エネルギーの状態から、陽子と中性子が結びついた水素原子核と陽子2個が結びついたヘリウム原子核ができる。この水素とヘリウムの形成理論値と観測値の比が一致する。宇宙の温度が下がるとこの反応は終わり、これ以後の核反応は局所的な恒星の重力の下で進む。新しい銀河でも、遠くの古い銀河でもヘリウムの存在比は一定であり、全宇宙が銀河の構造を作り出す以前に一様であったことを示す。[1007]

【背景輻射】

宇宙の全方向から一様な背景(黒体)輻射が観測される。宇宙の膨張と冷却の過程で、光と相互作用していた電子が原子核と原子を形成した。光は電子との相互作用から離れ直進するようになり、光によって宇宙を見ることができる晴れ上がった状態になった。このときの光は宇宙のあらゆる方向からほぼ均一の電磁波として降り注いでいる。晴れ上がった時以後の膨張で低下した温度の計算値と、今日の輻射波長が示す温度値、絶対温度3度が一致する。[1008]

【相対論的量子力学】

さらに、ビックバン理論は量子力学とも整合する。相互作用を統合するエネルギーは宇宙全体として閉じる。物質の存在・運動の基本的相互作用である電磁気力、弱い相互作用、強い相互作用、重力はひとつの相互作用の現れ方の違いであると考えられている。物理的相互作用の分化を逆にたどることでビックバン時の統合に至る。[1009]
宇宙秩序の対称性の破れ、初期宇宙のインフレーション膨張、ビックバン以前の宇宙については相対論的量子力学を超えた物理理論が形成されねばならないとされている。[1010]


第2節 宇宙の歴史・構造

第1項 銀河

ビックバンによって生成された水素とヘリウムがその後の天体の材料になる。水素分子、ヘリウムは宇宙に広がり宇宙に満ちるガスとしてある。宇宙原理として呼ばれる物質分布の一様性、等方向性を表している。[2001]
宇宙全体の膨張と温度の低下は、水素ガス、ヘリウムガスの濃い部分と薄い部分に偏る。偏りの生じた原因は不明であっても、高温・高密度の物質が膨張し温度が下がる過程で偏りが生じた。偏りは重力の偏りでもあり、偏りをより偏らせる。物質の空間的な偏りは、ガスの集合として銀河としての運動を作り出す。銀河の中での水素の偏りは塊になり、自重で高温・高圧になり、核融合によって光と熱を発する恒星になる。恒星の誕生によって銀河は輝く。銀河の中心は重力も大きく、ブラックホールがあると言われる。[2002]
銀河自体も遍在し、銀河団、島宇宙を作る。それらの連なりは空間内に封じられたいくつもの泡の表面の様に連なっている。泡宇宙の大構造の中にあって、個々の銀河の運動方向はまちまちであり、なかには銀河どうし衝突するものもある。[2003]
銀河は可視光線、電波で観測できる宇宙の構造であるが、宇宙の中には銀河だけが存在するのではない。素粒子の一種であるニュートリノが宇宙には満ち満ち、地球も人体をも貫いて飛び交っている。観測できていない暗黒物質(ダーク・マター)と呼ばれる、観測できる物質と同等以上の質量の存在が予想されている。暗黒物質としてブラック・ホール、輝かない星間物質等が考えられている。[2004]


第2項 恒星

銀河の中に誕生した恒星の核融合は水素から順次より重い元素をつくり、中心部に蓄積する。核融合により生じる熱エネルギーと恒星の重量か釣り合うことで恒星は存在する。[2005]

【元素の合成】

恒星内の核融合によって作られる元素は、恒星の大きさ質量によって決まる。小さい恒星は軽い元素、炭素や酸素の元素の核融合までしか進まない。大きい恒星は鉄、ニッケルまで進む。やがて核融合材料がなくなると温度が下がり、自重を支えるエネルギーが減少し潰れる。潰れる際にはそれまでの核融合とは違う集中したエネルギーの解放が起こり、超新星として大爆発をする。より大きな星は最後の爆発後、中性子星となったりブラックホールになる。[2006]
星の最後の爆発はその圧力によって、鉄、ニッケルより重い元素を作り出し宇宙へ供給する。金、銀、ウラニゥム等はこの爆発によって宇宙に出現する。この過程を経ることによって現在の宇宙の物質材料が取り揃えられる。超新星爆発によってばらまかれた元素は衝撃波等で再び集中して星を形成する。今日宇宙の歴史の中で星を形成する物質循環は数世代を経ている。[2007]
宇宙には核融合反応だけでなく、核融合反応よりずっと低い温度の環境で化学反応が進む。核融合によって生成された原子は分子として結びつき、分子は分子間の結合・分離により様々な分子を生成する。化学進化である。生物の基本材料である有機物も宇宙に普遍的に存在する。銀河の中には恒星だけでなく、恒星間の空間にも様々な分子のガス・チリが存在する。これらは星間物質とよばれる。[2008]


第3項 惑星系

銀河内で恒星が誕生する際、星間物質のすべてが恒星を作るとは限らない。星間物質は銀河と同じに円盤状に渦を巻く運動をしながら集まる。星間物質の集まりの不均一さが複数の塊を作り、共に充分大きければ二つの恒星からなる連星系もできる。恒星以外にも恒星になりきらない塊を作る。[2009]
星間物質の塊は自らの重力の中心に集まりチリとなり、より大きな塊を形成し多数の直径10kmにもなる微惑星ができる。微惑星はさらに集まり衝突し、惑星へと成長する。地球を含む惑星は太陽と他の惑星と引力、潮汐力のつり合った公転軌道に収まり、分解されることもない。[2010]
われわれの太陽系の場合、恒星である太陽の回りを回る惑星系が形成された。太陽の近くの軌道を回る惑星は軽い水素ガス等を太陽からの爆風(太陽風)によって飛ばされて地球型の惑星となる。太陽から離れた惑星にはガスが残る。太陽系にはこの他、惑星になりきれなかった小惑星、惑星の衛星、惑星の輪、彗星等様々な物質の運動、形がある。[2011]


第4項 地球

地球は単なる土の塊ではない。地中にも構造があり、運動している。大気にも構造があり、さらに磁気圏も含んで地球環境を構成している。[2012]

【地球の形】

地球は球体である。より高い位置では見える範囲がより広くなる。近ずく船はマストの先から順次見えてくる。月食時に月に映る地球の陰は丸い。北極星は北と南ではその緯度によって高度が異なる。緯度方向、または経度方向に旅をすれば元の地に戻る。宇宙旅行すれば丸い地球が見え、地球の周りを回ることができる。他の惑星、月も丸く見える。今日では気象衛星が地球の写真を見せてくれる。[2013]
日常生活で地球の形などどうでもよいことである。知らなくても、理解しなくても困ることはない。ただ、日常生活で関わる物事の普遍的有り様は、非日常的な物事の普遍的有り様と重なり合っている。非日常の物事とも共通の性質があるから、日常の物事にも普遍性がある。逆に、非日常での普遍性を理解することで、日常の普遍性を評価することができる。宇宙飛行士の何人かは地球を仰ぎ見ることで人生観が大きく変わってしまったという。宇宙旅行をしなくともカルチャー・ショックは海外旅行、初めての散歩道、意見を異にする人との議論でもありえる。より普遍的な見方で日常を見直す意義がある。[2014]
地球形成の歴史と構造の理論は地球科学、宇宙理論、物理学のどの理論でも地球が球体であることを支持し、前提にしている。例えば、地球内部からは液体の溶岩が出てくることと、液体が無重力に近い状態(自由落下中)では球形であることからも導かれる。さらに回転する球体は扁平して完全な球体から歪むことへつながる。観測によっても、理論によっても、生活や技術的実践によっても、地球が球体ではない論拠はないし、球体である論拠だけが見つかる。[2015]
歴史の中で地球は円盤であると考えたり、象や亀に担がれているとの解釈もあった。地平線が円を描いているから地球は円盤であると解釈した。しかし、それらは解釈としてのみあった。[2016]

【地球の構造】

現在の地球の固体部分の半径は6,400kmある。表面には陸上で約40km、海底で7kmの厚さの地殻がある。地殻はいくつかの塊=プレートに分かれている。地殻は地殻の下にあるマントルが沸き出して冷え、固まる。地殻はその境界である地溝帯で今でも生成され、年1cmほどの速度で移動している。地溝帯からの地殻の広がりは地磁気反転の歴史を記録しているし、海洋の火山島が地殻の広がりに抗するように連なっていることにも見られる。[2017]
地球は地中深くなるほど温度は高くなり、中心付近の温度は4,000度Cと見積もられている。地殻から2,900kmの深さまでがマントルである。地球中心部の熱は熱伝導だけではなく、マントルを対流させる。マントルは個体であるが高圧下で対流する。マントル対流の上昇流は直径約3,000kmにもなる。マントルの巨大な上昇流はプルームと呼ばれ、この動きによって地殻プレートが運ばれ、大陸が離合集散する。地殻に乗る大陸は約19億年前に一つの超大陸として成り立ち、4度の超大陸の形成と分裂を繰り返している。プレートどうしがぶつかって褶曲し巨大山脈を形成する。エベレストの山頂付近からも、昔海底であった証拠の貝の化石が見つかる。プレートがプレートの下に潜り込む地域ではその摩擦熱でプレートの一部が解けてマグマとなり火山地帯を構成し、またプレート間のひずみが時々開放されて地震が多発する。[2018]
マントルの内側が鉄、ニッケルを主とする金属からなる核で、地震波の伝わりから液体の性質を示す外核と固体の性質を示す内核とがあることがわかる。外核と内核の境は地上から5,100kmの深さである。[2019]
金属である核の回転運動は、電子の流れでもあり磁場を発生させ、磁気圏を形成する。磁気圏の形成は太陽風等の宇宙線の地表への進入を防ぐ。[2020]

【地球の水】

水は地球環境形成に特別な役割を果たす。水は他に比べて融点、沸点が高く、熱の収支の差を緩和し、気候を温和に保つ。水の分子構造は電気的極性をもち、イオンや電気的極性を持つ物質をよく溶かす。水は融点で密度が高く、その上下の温度で体積は小さくなる。岩の割れ目で水は、温度の上下により浸透と膨張を繰り返し、岩を機械的に破壊する。水に溶けた塩化水素、二酸化炭素は岩石中のカルシウム、マグネシウム、アルミニウム、鉄などを溶かし、岩石を化学的に侵食する。水は水素イオンと水酸化イオンに解離し、酸としての性質と塩基としての性質を兼ね備え、しかも全体として中性である。[2021]

地球の極では海水が氷り塩分濃度が上昇し、比重が重くなった海水が沈み込む。この沈み込みはグリーンランドの大西洋岸に1箇所あり、これはアメリカ大陸東岸に沿って南下し、もう1箇所の南極のウェッデル海からの沈み込みと合流し、南極の周囲を東進して深層海流となって流れる。この流れはインド洋、太平洋で枝分かれしそれぞれ大陸の東沖を北上する。この大規模な海流は地球の気候環境の大きな要素である。[2022]

深海は太陽光が差し込まず、生物にとって厳しい環境にあり、そのため細菌、バクテリアも少ない。しかし、海底下のマグマから環流した硫化水素を含む高温の水が噴き出す熱水噴出口がある。そこには太陽光ではなく、硫化物からエネルギーを得て代謝をする生物群が生息している。初期地球はオゾン層もなく、大気は還元的で生物が生存できる環境ではなかった。海底の熱水噴出口が生命誕生の地である可能性が研究されている。[2023]

【地球大気】

大気の構造は、太陽熱による熱循環をする対流圏が10から18kmの高さまである。さらに50kmまでを成層圏。80kmまでを中間圏。その上を熱圏と呼び数百kmまである。太陽からの紫外線は20から30kmの高さで酸素分子を分解し、酸素原子核同しを結合しオゾン層を形成し、紫外線の地表への照射を防いでいる。熱圏では太陽からの紫外線、軟X線により電子を原子核から分離しプラズマ状態になった電離層を形成する。電離層から供給されるプラズマによってプラズマ圏が形成されている。その外側に太陽風が、地球の磁気によって遮られ、磁気圏界面を形成しその内側を磁気圏と呼ぶ。太陽風は磁気圏によって遮られ、流れを変えるところまでが地球環境として、地球以外の太陽系空間とは区別される。[2024]
地上100kmからが大気の抵抗も小さく、衛星の周回が可能な宇宙旅行の定義境界とされる。衛星の回転数が一日1回になり、地球自転と同期して静止軌道となるのが36,000kmである。[2025]

【地球の物質循環】

地球のエネルギーは太陽からの輻射と、地球中心部の原子核崩壊エネルギーがすべてである。隕石の突入は地球の物質循環に影響を与える規模の物は数千万年に一度の頻度である。そうした隕石は衝突エネルギーの大きさ、その影響によって生物環境に壊滅的打撃を与えはするが、地球の物理過程には相対的に大きな影響はない。[2026]
地球の主たるエネルギー源である太陽エネルギーは大気圏外で太陽に正対する1平方センチ当り1分間に1.96カロリーで地球を暖める。太陽熱は陸地と海洋との比熱の違い、昼夜の差によって大気を循環させる。太陽熱は海洋を暖め水蒸気として水を上空に汲み上げる。大気の循環は海洋から水を運び、雨、雪、氷として陸地に供給する。水は陸地を削り、陸上物質を海洋に供給する。太陽からのエネルギーと、地球内部からの核崩壊エネルギーは、夜の部分から地球外に放射され、捨てられる。地球環境はエネルギー収支がつり合うことで一定している。[2027]
太陽エネルギー、大気の循環、水の循環の過程で生物が活動する。生物の圧倒的量をしめる植物によって光合成が行われ、酸素が供給され、炭水化物を合成する。植物は動物の食料となり、そのアミノ酸、タンパク質源となる。一方、石炭、石油は生物の炭化したエネルギーの塊である。[2028]

【地球の歴史】

地球の歴史は地球の物質的構造形成の歴史であり、また物質循環の歴史であり、宇宙との相互作用の歴史であり、生命進化の歴史でもある。地球の歴史も不可逆的過程であり、この運動にも方向性がある。[2029]
地球は他の惑星と同じく太陽を含めた太陽系として45億年前に形成された。[2030]
微惑星の衝突によって塊を形成し、塊は重力によってますます微惑星を集めて大きく成長する。惑星への量的成長は微惑星の衝突エネルギー、ウラン等の崩壊熱、自重による発熱で融けてマグマを形成する。惑星の形成は微惑星の減少であり、惑星への微惑星の衝突は減少するが皆無になる訳ではない。マグマが冷えて、地殻が形成されてからでも微惑星の衝突は起こりクレーターを痕跡として残す。[2031]
大きな微惑星の衝突が地球の自転を歪ませ、その結果大きな塊が飛び出して地球を周回する月になった。潮汐力が働くことで月の公転周期と自転周期は一定になり、地球に対していつも同じ面を見せて回転する様になった。[2032]
マグマは構成物質の比重の違いによって中心部に重い鉄等が集まり金属殻を形成する。揮発成分は蒸発して大気を形成する。惑星生成初期の水素、ヘリウムからなる一次大気は地球の重力ではとらえることはできず、太陽風によって飛ばされた。地表から噴出された水蒸気は冷やされ雨となる。地表がさらに冷えると雨は地表と接しても液体で留まり、海を形成する。雨は岩石を侵食し、無機イオンを海に供給する。[2033]
火山活動によって地中から供給されたガスによって今日の大気の元が地球を被った。地球の重力は水蒸気、二酸化炭素を引き留めておくには充分である。大気中の二酸化炭素は水蒸気と共に地表からの遠赤外線の放射を妨げ熱をため込む。太陽に暖められ、地球の表面温度は平均15度Cで大量の水が液体で存在しえる。[2034]
地球の自転、その回転軸の傾きが基本的に地球大気の運動を規定する。緯度の違いは単位面積あたりの太陽輻射の差を作る。陸海の比熱の違い、地形の変化もあって、多様な気候が実現している。[2035]

さらに生物は光合成によって二酸化炭素から酸素分子を単離する。酸素はオゾンとして地球大気の上層で紫外線を防ぐ。酸素は金属イオンを酸化させ、海水中の鉄などの酸化物を沈澱・堆積し、鉱床を形成する。生物は海水中に溶けた二酸化炭素を骨格化し石灰岩として固定する。大気中の二酸化炭素が固定され、大気中での減少は地表の温度の上昇を抑える。[2036]
超大陸の形成、分裂の過程で生物が陸上へ進出する。彗星の衝突や、地球全体が凍りつく全球凍結等地球自体の変動による環境の激変は、何度かの生物の大量絶滅を引き起こし、その度に生物種の大進化に決定的な影響を与えた。[2037]

【地球環境問題】

人間活動の影響が大きくなり地球環境問題が生じている。森林の伐採は昔から文明を滅亡させてきたが、今日その規模は比較にならない。[2038]
核戦争による破壊は、放射線の生物への影響、ほこりによる太陽光の遮閉による核の冬が予測される。[2039]
核エネルギー、化石燃料の使用は地球エネルギー循環平衡の変動要因である。化石燃料の消費による二酸化炭素の放出や、メタンガスは温室効果として地球温暖化の原因にもなる。メタンガスは家畜からも、海底で凍結したメタン・ハイドロイドが温暖化で暖められても発生する。地球温暖化は極地の氷を溶かし、海面を上昇させ、臨海部の都市、耕地を水没させかねない。ところが、地球温暖化を否定するデータを集め、発表し、大量消費を合理化する者もいる。[2040]
人工合成物により生物環境が汚染する。フロン等によるオゾン層の破壊は地上への紫外線量を増大させ、生物の遺伝子、生理過程を狂わす。生体はホルモンによって発生制御、自律的調整をしているが、「環境ホルモン」と名づけられた化学物質は微量でも影響は大きい。また、食物連鎖は生物にとっての有害物質を濃縮するが、食物連鎖の頂点に立つのは人である。[2041]
硫化物の大気への放出により酸性雨が降る。酸性雨は森林の立ち枯れをもたらす。酸性雨、森林伐採は土壌破壊、砂漠化、水・エネルギー循環の変動、酸素供給源の減少となる。[2042]
自然の過程には平衡状態を作り出す機構がある。しかし、閉じた系ではエントロピーは増大化する。全体の運動の中で平衡を維持しているのであって、維持できる限界を超えてしまえば一気に無秩序化する。[2043]
さらに、地球環境対策は南北問題として、世界的な社会問題に直接する。[2044]


第5項 生物の可能性

生物も宇宙史の中に位置づけられる。生物の問題は知的存在の宇宙史における位置づけでもある。[2045]
実際には地球の生命しか知られていない。他の生命を発見できていないことが、地球生命の誕生の確率の低さが、人間原理の一つの根拠とされている。しかし、生命の誕生・進化は必然と偶然の弁証法の厳しい現実での例証である。[2046]
偶然の産物である地球生命の歴史をたどることで、そこに生命の必然性が明らかになる。どの条件が地球生命の特殊条件であり、どれが生命誕生・発展の必然的条件であったかは明確にはしがたい。他の生命が知られていないのだから。酸素が必要条件なのか、他のエネルギー代謝が生命を実現できるのかはまだSFの世界である。[2047]
地球生命は地球の物理的条件の中から誕生したが、地球の物理的条件そのものであり、物理的条件を変革もした。さらに、自らの生物的条件も変化させる。[2048]


第6項 物質進化

物の存在は物質として、この宇宙の開びゃくからその運動形態、存在形態を発展させてきた。物質の運動・存在は階層構造をつくり、個別の存在として、より発展的な構造、秩序を創り出してきた。全体はエントロピーの増大法則によりながら、部分はエントロピーを減少させてきた。基礎的な存在構造から、より発展的な存在構造へは存在形態として質的な飛躍がある。この変化の方向を、生物進化の概念を拡張して物質進化と呼ぶ。[2049]
素粒子から原子への質的飛躍は量子状態から安定した物質構造によって因果関係を実現した。量子状態は確定的運動過程としてはない。他との相互作用過程でその物理量は確定する。量子は相互転化を繰り返し、因果関係は成り立たない偶然の過程にある。原子を構成することで量子状態は原子核に封じ込められ、電子は原子に封じられる。電子が原子の安定した構造で運動することで、光=電磁波は単独の運動をする。量子状態を表現するシュレディンガー波動方程式は宇宙の量子状態まで記述できると言うが、原子構造は量子状態を時空間的にほぼ確定している。[2050]
生物の発生は質的に閉じられた物質代謝、自己複製、そして生物進化はそれまでの宇宙物質の発展とは質的に異なった方向への運動形態の変化である。それまでの宇宙全体の物質の運動形態の発展は、生物進化の方向からみれば、単なる展開でしかない。物理的物質進化の方向からなる座標空間を超えた、新たな運動方向の次元軸の追加である。物理的時空間の尺度で生命を測ることはできない。逆に物理的物質の座標空間内では、生物の存在も特殊な物質代謝過程でしかない。[2051]
さらなる物質進化の質的飛躍として「文化」がつくりだされた。精神は生物進化の延長線上に位置づけられる。物理的時空間、生物活動空間を反映し、自らを制御する生物的運動形態の発展として精神活動が実現した。その精神が実践によって進化し、社会性を基礎として文化が生成した。運動形態全体のあり方を「価値」として、運動の方向性に従う、価値の持つ方向性としての新たな次元の追加である。物理的時空間、生物的空間からはなんの意味も、普遍性もない価値が「文化」のなかで、「文化」としての方向性、座標軸を示す。「人間原理」「物活説」「宗教」など様々な形をとって表現されることもあるが、それらが「文化」の示す方向をどれほどに反映しているかはともかくも、「文化」の運動方向は生物進化の方向とは質的に違ったものであることは確かである。「文化」の具現者が自らをどの様に評価しようが、自らを評価し、自らに方向性を与える存在として進化した。[2052]


第3節 宇宙の尺度

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宇宙の大きさから、素粒子の小ささまでを算術比で現すことは困難である。指数によって差を普遍的に表現できる。[3001]

【長さの測定】

日常的距離は一定の長さの物をあてることによって比較できる。直接尺度をあてることのできない距離は距離のわかっている2点からの角度によって計算できる。あるいは一定の速度で運動するものの到達時間によって距離を測ることができる。しかし、尺度の長さ、速度が一定であることを確かめようとするなら自家撞着になる。すべての空間的相互規定関係から普遍的距離尺度が定められる。今日では光、電波の速度が測られ、レーザー、レーダーによってより正確な距離が測定される。太陽系内であれば探査機を飛ばし、電波によって距離を測ることができる。[3002]
太陽系を超えた距離は、地球の公転軌道の直径からその年周視差によって、30光年離れた恒星までの距離を幾何学的に測ることができる。また、運動星団や流星の動きからの収束点法=視線速度法によっても150光年程までは幾何学的に距離を測ることができる。幾何学的に測定できるのは銀河系内の局部に限られる。[3003]
幾何学的に測定できない距離は星、銀河の光の法則性を利用する。星の色と明るさ、星の進化の系列との相関関係、セファイド変光星の周期と明るさの関係、銀河の運動によって宇宙の大きさを測ることができる。[3004]

【長さの目安】

人は身体を基準に2m前後を単位として、その繰り返しで長さを測る。指で直接操作できる細かさは十分の1mmほどである。訓練すれば千分の1mmほどの凸凹を感じ取ることができるという。連続する徒歩旅行で1日の行程が数十km。[3005]
地球の周囲が4万km=4×107m。 月までが38万km=3.8×108m。 太陽までが14,960万km≒1.5×1011m、光で8分20秒かかる。 太陽系の大きさとして、冥王星の公転軌道直径が100億km=1013m。 [3006]
光の速度は秒速30万km=3×108m。 光が1年で進む距離が94,600億km≒1016mで1光年。 一番近い恒星ケンタウルス座のアルファ星が4.3光年。 銀河系が2,000億個の恒星を含んで、直径が10万光年=1021m、厚さ1万光年。太陽の位置は中心から3万光年。 [3007]
隣の銀河である大マゼラン星雲までの距離が16万光年=1.5×1021m。 北半球で見えるアンドロメダ銀河までの距離が230万光年=2.2×1022m。 銀河系を含む23個の銀河からなる局所銀河群の直径が300万光年=2.8×1022m。 乙女座銀河団を中心とする約50個の銀河群からなる局所銀河集団の直径が3,000万光年=2.8×1023m。 約10個の銀河集団からなる超銀河集団、銀河の連なる泡状の直径が3,000万光年から1億光年≒1024m。 それを取り囲む大きな泡の直径が4億光年=3.8×1024m。 見渡すことの可能な宇宙の直径が137億光年=1.3×1026m。 [3008]

逆に、人間の神経細胞の長いもので座骨神経が1m余。 ヒトの卵細胞は10分の1mm=1万分の1m=10-4m。 髪の毛の太さが100分の8mm=8×10-5m。 細菌の大きさは10-5m程。 DNAのらせんの半径が1,000万分の1m=10-9m。 ウイルスの大きさは10-9m以下。 [3009]
原子の直径が100億分の1m=10-10m。 原子核の直径が100兆分の1m=10-14m。 プランク距離は1.616×10-35m。 [3010]

【時間の目安】

5.391×10-44秒=プランク時間より短い時間は量子力学では現れようがないとされる。 [3011]
宇宙のビックバンが137億年前=4.3×1017秒。 ビックバンから10-36秒後に強い力が重力と分化し、宇宙が物質を過剰生産し、インフレーションを開始した。 10-11秒=100億分の1秒後に弱い力と電磁力が分化した。 ビックバンから3分=1.8×102秒過ぎて陽子やヘリウムの原子核が形成された。 ビックバンから30万年=9.6×1012秒過ぎて電子と原子核が結合し、宇宙が晴れ上がった。 10億年=3.1×1016秒で銀河が誕生した。 [3012]
ビックバンから約92億年=3.15×1017秒、現在から45億年=1.4×1017秒前に太陽系、地球が誕生した。 [3013]
地球生物の誕生が36億年=1.1×1017秒前。 ヒトが猿人から分化したのが150万年=4.7×1013秒前。 人類がアフリカから地球全体に進出し始めたのが6万年=1.9×1012秒前。 人類文明が誕生したのが数千年=1.6×1011秒前。 産業革命の開始が1740年として265年前。[3014]
人の一生が70年=22億秒=2×109秒。 人1世代が20年=6.3億秒6×108秒前後。 50歳になると半世紀生き、1世紀をほぼ実感できる。1世紀で社会がどの程度変わるか。ただし、社会の変化は一定ではない。多くの指標は加速していることを示している。[3015]

時間を計るのに時計が利用されるが、時計で計れるのは今進行中の時間である。未来の時間を予測計算できるのは、物事の秩序を未来に外挿することによってである。過去の時間は記録間の関係によって計算可能である。物理的時間であれば再現したり、可逆的作用関係を逆進させることで観測することができる。また作用が時間に規定され、時間を規定する過程であれば、今時点から過程の特定の時刻までを計算することができる。考古学等では放射性同位体による測定方法が利用される。[3016]
地球では宇宙線が窒素原子と衝突して炭素の同位体14Cを作る。14Cは原子核崩壊をして窒素に戻る。この過程によって14Cと12Cの存在比は一定に保たれている。生物は代謝によってこの比で炭素を取り入れている。この生物が死んで代謝が停止すると14Cは供給されず、崩壊過程だけが進む。遺体の14Cの存在比を測定することでその半減期から死んだ時期が計算できる。14Cの半減期は5,730年であり、数千年から測定方法によっては約6万年前の試料を測定できる。[3017]


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