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第二部 具体的な物質の運動
第一編 物質
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物質は存在の基本的有り様である。世界のすべての存在は物質としての有り様を基礎にしている。非物質の典型に思える意識や理念も人がいなければ存在できないし、人は物質がなければ生きてゆけない。意識や理念といった典型的非物質的な存在も物質に対する作用、影響によって根拠づけられる。
[0001]
ところが、存在の基礎である物質について科学者も究明し尽くしているわけではない。しかも、量子力学の説く物質の有り様など、日常経験での物質理解と大きくかけ離れている。それでも、日常経験の物質の有り様を確かめる方法を拡張した方法で基礎的物質の有り様を確かめることができる。
[0002]
例えば日常的に物を光で見る。光の色、反射、屈折などは日常経験できる手段で再現し確かめることができる。目で見える光以外に紫外線、赤外線があることも経験でき、可視光線と同じ電磁波であること、さらに波長の短い電磁波として電波、ガンマ線があることを電磁気実験によって確かめることができる。素人だけではできなくとも、専門家に援助してもらえば可能である。また電磁波が波としての普遍的性質を持つことも確かめることができる。そして、星の爆発観測から、電子レンジ、ラジオ・テレビ電波、赤外線リモコン等日常的技術まで、普遍的に利用できていることを確かめることができる。その電磁波としての波動は縦横の違いはあっても音波、水面の波、さらに電子や陽子等の物質波等としてもある普遍的運動形態でもある。
[0003]
科学者の言うことを一方的に信ずるのではなく、日常経験的確認から段階を追って確かめる。日常経験的に確かめることのできる物質の有り様、そして日常経験的に物質の有り様を確かめる方法を確かめる。日常経験的に確かめることのできる物質の有り様の普遍的秩序、物理法則を理解し、法則の現れを確かめることができる。この日常経験的確認を基礎にし、さらにこの基礎の延長上に科学者の説明を学び、理解することができる。また科学者の言うことがいかに奇抜なことであっても、その効果が日常経験的物質の有り様に現れて他の日常経験的物質の有り様と整合することで確認することができる。説明の一つひとつの相互関係を確かめるには、専門的な実験、物理法則の理解が欠かせないが、そこは専門科学者間、技術者間で相互に、組織的に確認しあっている。成果を争うあまりデータをねつ造する科学者も出てくるが、ねつ造したデータそのものは他の科学者によって検証され、ねつ造行為は社会的に検証される。
[0004]
科学の信頼性の確認自体、科学の研究課題としてある。この科学に関わる社会的営みによって科学に依拠することができる。物理化学の説明に依拠する根拠、物理化学を含め科学とはなにかは第一部で扱った。
[0005]
現代物理学は宇宙の起源、実在、空間・時間、秩序といった存在の基本的ことがらをも対象としている。物理化学を無視して哲学は成り立たない。他方で、「物質とは何か」「実在とは何か」、この「何か」の問いは客観的な問題でも、客体の問題でもない。問題の存在自体が認識の問題であり、主観による評価の問題である。物理化学の解釈は哲学の問題になる。
[0006]
自然科学の対象は人間の観測活動からは独立の、客観的世界であると当然視されてきた。自然科学者は観察対象が自らを騙すことを疑わず、手品師の罠に簡単に引っかかってしまい、超常現象を信じてしまうことがあるという。手品師が種を用意しなくとも、量子力学は観測過程と対象の運動過程とが相互作用する世界を対象にする。物理の理解は認識の理解を伴わないと成り立たない。
[0007]
また、環境問題は化学技術だけではなく社会構造の問題でもあるが、それぞれ個人が物質循環への関わりを理解しなくては解決への取り組みはできない。環境と並んでエネルギー・資源の問題も人類の未来どころか孫、子、いや地域的に今現在の問題である。
[0008]
日常生活で出会う様々な物理現象を理解するためには物理化学の基本的知識が必要である。さらに、物質は物理を超えて生命を、精神を生み出し、文化を創造してきた。物理現象の全体、その発展を理解しなくて世界を正しく理解することはできない。
[0009]
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