ここでは論理的一貫性、科学的整合性、および哲学的含意の3つの観点から批判を行います。
◆ 1. 論理的一貫性の観点から
「変異と選択によるだけで進化は人智を超えるとんでもない機知を実現している。」
ここで「機知」という語が曖昧です。
進化の結果が「巧妙に見える」という比喩であれば妥当ですが、「機知（wit）」は通常、意識的知性の比喩に強く傾く語であり、文意として擬人化を否定しつつ擬人化している矛盾を孕みます。
→ 修辞的には魅力的だが、論理的には不整合です。
「選択の誤りはすべて絶滅に至る。」
これも過剰な一般化（overgeneralization）です。
自然選択は個体レベルで起こり、絶滅は種レベルの事象です。
多くの「選択の誤り」（＝不利な変異）は単に淘汰されるだけで、種の絶滅を伴わない。
ここでは「誤り」と「絶滅」を同列に置く論理が破綻しています。
「変異と選択だけの信号制御では環境条件に選択されるだけで、適応することはできない。」
この主張は核心的ですが、前提が不明確です。
「選択される」と「適応する」を区別しているが、進化論における適応とはまさに環境に選択されることの帰結であり、この分離は生物学的定義と矛盾します。
ここでの「適応」は意図的・能動的な行為を指しているようで、自然選択の「受動的な結果」と異なる概念を混同しています。
◆ 2. 科学的整合性の観点から
「生命は物理化学過程を超え、意識は信号制御過程を超えている。」
この文は形而上学的主張としては美しいが、科学的主張としては検証不能で、実証的境界を超えた断言になっています。
生物学的・神経科学的には、生命も意識も現在のところ物理化学過程と信号制御過程で十分に説明される部分が多い。
「超える」という主張を成立させるには、その“超越”がどのような新しい法則や現象を示すのかを明示すべきです。
「環世界は見られてもいない、感じられていない。」
ユクスキュルの「環世界（Umwelt）」概念への批判ですが、誤解を含んでいます。
環世界は「主観的に感じられている世界」であり、「見られていない・感じられていない」とすれば、それは環世界の定義そのものを否定することになります。
もし言いたいのが「環世界という概念自体が人間的擬人化である」という意味なら、文を「環世界という概念は、対象世界の正確な表現ではなく、人間的投影である」と修正すると一貫します。
◆ 3. 哲学的含意の観点から
この文章は、ダーウィン的進化論の無目的性と、生命・意識の目的論的・意味的側面の緊張関係を扱っています。
しかし両者を「対立」としてではなく「断絶」として描くため、**媒介（中間層）**が失われています。
たとえば、
・生命現象を「情報的秩序の自己組織化」として捉える視点（プリゴジン、モナドロジー的自然観）
・意識を「進化的帰結としてのモデル生成能」と見る視点（フリストンの自由エネルギー原理）
を導入すれば、「超える」という表現を使わずに、自然から意識への連続性を説明できます。
◆ まとめ批判
観点 問題点 改善の方向
論理 擬人化を否定しつつ擬人化的表現を用いる 機知・知性などの比喩を慎重に使う
科学 「選択＝適応」など定義の混乱 生物学的定義に忠実に整理する
哲学 「超える」概念が曖昧で断絶的 自然と意識の連続的説明枠を検討する
