概観 全体の構成
世の中が悪いのは、過半数の人間が悪いのだ。単純に多数決で決すればそう なる。善悪の基準が問題になるのか、単純多数決が問題になるのか。
世の中を良くも、悪くもしているのは社会的力のある人間であるから、単純 多数決は成り立たない。子どもは除かなくてはならない。それよりも社会的力 を問題にするからには、「先進」国とよばれる地域に住む人間の責任を追及し なくてはならない。
現代の歴史的位置、到達点の確認。人類史として、社会史として、階級対立 の力関係としてどこまでたどり着いたのか。
商品経済の発達と資本の蓄積は、とどまるところを知らないようである。赤 ん坊の臓器すら世界の商品取引の中に入っているらしいこと、囚人の臓器提供 が減刑措置と取り引きされていることが報道された。人間の取引は奴隷制の太 古から行われてきた。ナチスドイツを代表とする侵略者は日本もアメリカも含 めて、人間を物として取り扱った。
しかし人間の臓器が商品として取り扱われるには医学の発達も不可欠である が、同時に商品取引の発達がなくてはならない。人間を暴力なり金なりで支配 できる人間が、自らの意志で人間の臓器を手に入れることはこれまでもありえ た。しかし、売買が目的の臓器の商品化はこの時代になってからである。
このような価値観の時代を、歴史的に構造的に見通さなくては「どう生きる か」を誤ることになる。
他方で「共産主義国」が混乱を極め、東ドイツが西ドイツに併合され、ソ連 邦が解体した事態は資本主義の全般的危機、資本主義から社会主義への移行期、 社会主義の生成期といったくくり方では説明できない。
「共産主義国」の制度、運動、理論を問題にし、世界を制覇したがごとき資 本主義の非人間性だけではなく、やはり歴史的制度、運動、理論を問題にしな くてはならない。1990年代のこの時代の変化の中にあって、世界的支配をいよ いよ強めようとしている多国籍企業としての国際資本、まさに帝国主義の最高 の段階を問題にしなくてはならない。
生き方について考えるとき、人間としての生き方は社会での関わりの問題で ある。
理想の生き方として、理想の社会を考えることができる。しかし、その理想 は現実の社会についての理解、これまでの歴史についての理解からの「考え」 である。「理想の社会」を考えることも、理想の社会を建設することも、今こ の現実から出発するしかない。
理想の生き方は「理想社会」で生きることではなく、「理想社会」へ向かっ て現実社会を変革して行くことである。理想を追求する過程としての生き方で ある。
過程の中に理想の位置づけも問題になる。一端描かれた「理想」を教条化し 強制によって実現しようとするのでは「理想」と現実の人間、社会、自然との 矛盾を深め、ファシズムに至り破滅する。
「理想」を現実と切り放し「現実」の是正だけでは現状肯定に至り、社会の 基本的あり方を正すことはできない。「理想」に向かう現実変革の目標と手段、 方法は現実的に統一されていなくてはならない。
理想を実現するためには現実の社会の問題点、問題点の歴史的経過を理解し なくてはならない。
第1章では歴史的流れとして時間方向の世界の運動把握を図る。
第2章では現在の世界構造として時間断面、空間的世界の運動把握を図る。
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